身長で決まる?「中国の子供料金」謎すぎるルール
中国の「方特夢幻王国」(写真:アフロ)
新聞社で10年ちょっと働き、未婚で息子を出産。日常生活に疲弊を感じ、追い詰められる中で息子とともに日本を飛び出すことを決断した、経済ジャーナリストの浦上早苗さん。向かった先の中国での日々や出会った人々との交流を記録した『崖っぷち母子、仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』から、子ども料金にまつわるエピソードを一部抜粋・再構成してお届けします。
年齢ではなく身長で決まる子ども料金
中国で生活していて最も驚いたことの一つが、子ども料金の対象かどうかが年齢ではなく身長で決まることだった。
大連の路線バスは、どこまで乗っても1元だった(路線によっては2元もある)。子ども料金のことはどこにも書いていないので、日本式で半額の5角銭をソウの運賃として料金箱に入れていた。あるとき、同乗した中国人に言われた。
「ソウは小さいから無料だよ」
年齢ではなく、身長のことだった。
列車やバスの料金だけでなく、レジャー施設の入場料やレストランの食べ放題も、身長で子ども料金かどうかが決まる。110〜120センチ以下だと無料、150センチ以下なら大人の半額という決まりが多かった。
だからといって身長計が置いているわけでもなく、入り口で従業員が自分の体と比べてざっくり判断していた。
年齢で料金を区切る国から来た私は、中国の身長ルールを最初に知ったとき、驚きのあまり周囲の中国人に「おかしいでしょ」と抗議した。同じ年齢でも発育の差は大きく、不公平じゃないか。すると「年齢なんていくらでもごまかせるんだから、そっちのほうが不公平だろう」と言い返された。
中国人の驚きの言い分
体が大きいほうがスペースを取るしたくさん食べるから、座席にしても、レストランの食べ放題にしても身長で線引きするほうが合理的だと中国人は言うが、動物園の入場料の子ども料金を身長で決めるのはやっぱりおかしい。
とはいえ、私たち親子に限って言えば、身長制は助かるシステムでもあった。ソウは私に似て背が小さかったので、中国にいる間ずっと、ほとんどのことが無料だった。私たちは休みのたびに国内旅行に出かけていたので、ソウの交通費や観光施設の入場料がただになるのはとってもありがたかった。
そんな中国ならではの習慣も、2023年に見直されることになった。鉄道当局が子ども料金を従来の身長から年齢を基準にするよう改めたのだ。
それまで120センチ以下の子どもは無料、120センチを超えて150センチ以下は子ども料金(大人の半額)、150センチを超えると大人料金と定められていたが、2023年1月以降、6歳未満は無料、6歳以上14歳未満は子ども料金。14歳以上は大人料金に切り替わった。
中国の鉄道当局によると、子どもの体格がよくなり、従来の基準だと大人料金を払わないといけない小学生が増えたことと、鉄道の乗車券購入が完全実名制になり、乗客の年齢が把握しやすくなったことから、見直しに至ったという。
納得しがたかったルールがやっと変更され、「やっぱり日本のやり方のほうがグローバルスタンダードだよね」と1人どや顔をしているわけだが、10歳になってもチケットを買うことなく、心持ち身をかがめながら鉄道や観光地の入場ゲートを通り過ぎていたソウの姿を思い出すと、日本以上に高身長の男性がもてる中国で、小さいことのメリットが1つなくなってしまったんだなと、ちょっと寂しくも感じる。
(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)