「“青春18きっぷ”から“シニア65きっぷ”に改称すれば?」の声も “空前の改悪”で18きっぷが若者の「格安旅行のお供」ではなくなってしまう
青春18きっぷ、システム改悪の衝撃
春、夏、冬にJRグループが発売している「青春18きっぷ」は、格安旅行の必携アイテムとして親しまれてきた。例年通り、今年の冬も発売が決まったが、これまでの切符の仕様が大きく変更されたことに、鉄道ファンやユーザーから批判が集まっている。“空前の大改悪”という声も上がり、XなどSNSは批判一色と言っていい状態になっているのだ。
【写真】青春18きっぷだけでなく、サービス改悪が続くJR。駅からゴミ箱撤去もその一つ。おかげで構内にゴミが溢れた
従来の青春18きっぷは全国のJRの普通・快速列車が乗り放題となる切符で、5日(回)分が1枚の切符になっていた。これを、利用期間内であれば5日連続で使ってもいいし、12月10日〜11日、15日、22日、31日といった具合に、日を空けて5回使うこともできた。友人2人と2回分、5人と5回分を使ってグループ旅行も可能で、かなり柔軟に利用できる切符だった。
ところが、今年の冬からはその仕様が一変し、利用開始日から“5日連続”で使わなければならなくなる。つまり、これからは利用開始日を仮に12月10日と決めると、10〜14日の5日間続けて使わなければいけないのだ。しかも、みどりの窓口や指定席券売機などで購入する際、あらかじめ利用開始日を決めておく必要が生じてしまう。
1枚の切符を2〜5人で使うこともできなくなり、これからは原則1人1枚購入する必要がある。そのかわり、今まで利用できなかった自動改札が通れるようになったり、5日間用だけでなく3日間用も発売されたりするなど、利便性が高まる面もあるようだ。しかし、青春18きっぷのルールが一新されるほどの改変に、「もはや青春18きっぷではない」という声も上がっている。
サラリーマンは休みが取れない
青春18きっぷは、国鉄時代の1982年に発売された「青春18のびのびきっぷ」がルーツとなっている。販売価格は値上げなどに伴い変化しているものの、基本ルールはほとんど変わることはなかった。そんな国鉄時代の遺産ともいえる青春18きっぷだが、近年は快速の夜行列車が廃止され、長距離列車も消滅の一途を辿り、新幹線の開通でJRから第三セクターに移管されて利用できなくなる路線が増えるなど、利便性は低下していた。
そういった経緯から、SNS上では「いつかは発売中止になるのではないか」という噂がささやかれてきた。このたびのシステムの変更で、切符の名称自体が残りはしたものの、事実上の別物になってしまった感がある。青春18きっぷを長年にわたって愛用してきたサラリーマンの男性はこう話す。
「子どものころから青春18きっぷを愛用してきましたが、これを機にもう利用しなくなるかもしれません。サラリーマンなので、5日連続で休みを取るのが難しいんですよ。ネットでは学生と高齢者向けのきっぷになるという意見が出ていますが、学生もバイトなどで忙しく、5日連続で休めるのは少数派では。完全に、時間に余裕があるシニア向けのきっぷになってしまうのではないでしょうか」
筆者の知人のJR東日本の社員に話を聞くと、18きっぷはシニア層の利用のほうが目立つらしい。そのため、SNSでは「青春18きっぷ」ではなく「シニア65きっぷ」に名称変更した方がいいのでは、という意見が出ていたくらいだ。
不正利用を防ぐ狙いもあるか
今回の改変は、チケットショップ対策ではないかと推測する人もいる。事実、青春18きっぷをクレジットカード枠の現金化に使う人はいた。クレジットカードで購入した切符をすぐにチケットショップに転売すれば、まとまった現金が手に入るためである。また、利用せずに余った分をチケットショップに売却する人も多かった。今後はそうした売買ができなくなりそうである。
不正利用を防ぐ目的もありそうだ。従来の青春18きっぷは、利用開始日に駅員から日付が入ったスタンプを捺してもらい、以後は駅員に切符を見せて改札を通る必要があった。駅員が他の客の対応に追われていると、改札口には長蛇の列ができることがあるが、その隙に改札口を強行突破したり、利用日ではない日付を見せて通り過ぎたりする人も多かった。
今回から、自動改札の利用ができるようになる。こうした不正利用を減らす効果が期待できるだけでなく、駅員の手間を大幅に減らすことにもつながりそうである。そのため、現場の駅員からは歓迎の声も上がっているようだ。
ただ、売れ行きが急激に落ちるのではないかという意見もある。これまでの青春18きっぷは、発売が開始されると「とりあえず」買っておく人が多かった。買っておきさえすれば、後からのんびりと旅行先やスケジュールを組み立てることができるためである。ところが、今度からはあらかじめ利用開始日を決める必要があるため、「とりあえず」買うことができなくなるのだ。
JRは鉄道を利用しにくくしている
前出のサラリーマンの男性は「このところ、JRは鉄道をどんどん利用しにくくしています」と、嘆く。
「JRは駅ビル事業などの不動産業にばかり力を入れて、肝心の鉄道事業がおざなりになっている感じがぬぐえません。コロナ禍で利用者が減ったため、増収に努めたいのかもしれませんが、それならフリー切符の充実を図るなどして利用者を増やす取り組みをしてほしい。鉄道会社の本分は、あくまでも鉄道であるはずなのですが……」
国鉄時代、鉄道は若者の格安旅行に欠かせないものだった。ところが、近年は高速バスなどのライバルがたくさん出現しているため、わざわざ青春18きっぷを利用する人も少なくなっていると考えられる。しかも、JR各社は若者よりもシニア層を優遇する切符や旅行商品ばかり発売している。若者を鉄道から遠ざけようとしている、という印象を抱く人も多い。
地方ではローカル線の相次ぐ廃線で、鉄道を利用する習慣がない人も少なくない。一回も鉄道に乗ったことがない子どもも増えていると聞く。春、夏、冬の長期休みの期間に発売されてきた青春18きっぷは、若者が鉄道に関心を向ける貴重な機会となっていたはずである。若者が鉄道を使わなくなれば、鉄道会社の様々な事業に与える悪影響は大きいのではないか。
なお、JR各社は、青春18きっぷの次回(つまりは2025年の春)の仕様は未定としている。ネット上には、今後の売れ行きや評価次第では仕様変更があることを匂わせるコメントも流れているが、できることなら、次回は元の仕様に戻したほうがいいのではないか。SNSに渦巻く怨嗟の声を聞いていると、そのように思えてならない。
ライター・宮原多可志
デイリー新潮編集部