歯を削られ、恐怖で躾られ、殺処分の対象にされた保護犬が再び人を信頼できるようになるまで

写真拡大 (全6枚)

「いったいどこに問題があるの?」

一般社団法人動物支援団体「ワタシニデキルコト」の主宰者 坂上知枝さんが、咬傷(咬みつき)犬として、トイプードルとチンのミックス犬・バビオと初めて出会ったのは、2023年2月 のことである。

飼い犬が人を咬むと、飼い主は保健所に「事故発生届出書」を提出しなければならない。飼い犬に咬まれた体験で恐怖を感じ、地元の保健所や動物愛護センターに持ち込まれるケースもみられるが、咬傷犬として飼い主から持ち込まれた犬は即殺処分の対象となることが多いという。

バビオもまた、そんな風に殺処分対象とされた犬だった。

東京、千葉、福島を中心に、動物の保護活動を行っている坂上知枝さんの連載の後編。

つい先日も多頭飼育崩壊の現場から救出された毛玉だらけで臭いのひどい子たちを綺麗にし、病院で検査を受けさせ、他の犬に咬まれて脚がつけなくなるほどの怪我をしている子は治療し、事故で足が折れた子は手術を頼み、生後数日の子猫にミルクをあげる合間に保護活動費集めのイベント準備や啓発活動に飛び回る坂上さんに、これまで出会った保護犬猫とのエピソードを語っていただく。

福島県の動物愛護センターに持ち込まれた3歳のバビオは、「リードの先でちょんと叩いたら咬みついてきた」「おもちゃを取ろうしたら威嚇してきた」と聞いていたが、自宅に連れ帰ってすぐにシャンプーを行った時は、おとなしく洗わせてくれたという。

「どこを触っても大丈夫で、『いったいどこに問題があるの?』と思っていました。それに、とても賢く、2日目には、自分の新しい名前を認識していましたし、人の言葉をよく聞こうとする仔でした」

坂上さんは、恐怖心から咬みついてきたバビオの様子を見て、「おそらく保健所に持ち込まれる前に、怒鳴られたり、間違った躾で叩かれたりしていたのでしょう」という。興奮すれば、威嚇行為も見られたが、「穏やかに言い聞かせたりおやつと交換するなど、 信頼関係を結び、バビオの気持ちを汲んだ対応をすればすぐ落ち着くこともわかりました」。こうして咬傷行為はだいぶ減ってきた。

最高のパートナーの資質を持つ“忠犬バビ公”

本来人が大好きだというバビオは、人間と信頼関係を結べ、先住犬や先住猫ともうまくやっていける「とてもいい犬」だと、坂上さんは語る。

「最高のパートナーになる資質にあふれた犬でした。とにかく人の言葉に耳を傾け、何を言っているかを理解しようとする仔でした。察するのも上手でコマンドもすぐに入り、おやつの順番待ちもきちんとできますし、トイレはシートでも外でもできます。

散歩は人間の右側にぴったりついて歩き、呼び戻しも完璧。散歩前のノーリード状態でも人間のすぐ横を歩き、“忠犬バビ公”とあだ名をつけたほど(笑)。人と対話をし、人のそばにくっついているのが大好きな仔でした」

坂上さん自身が飼いたいと思うほどだったが、バビオの存在を知った、ワタデキのメンバーの知人から「ぜひ会ってみたい」と申し出があった。

「もともと子どもの手が離れたら、犬を飼いたいと話していた方です。バビオのことを気に入ってくれ、自分たちで飼いきれるだろうかと悩みながらも3回会いに来てくれ、その間にもたくさんの質問をされました。

私も、こういう時はこうすればいい等、できる限りの情報を伝えました。今はその方の家で、ボビーという新しい名をもらい、幸せに暮らしています。

ママさんは、『こんなかわいい仔がうちに来てくれて、本当にうれしいです。我が家は息子が4人いる大家族ですが、5番目の末っ子ボビーは我が家のアイドルです』と、たっぷりの愛情を持って接してくれています。お子さんたちもボビーを取り合ってかわいがっているのだとか(笑)。

元の飼い主の方にも、今はのびのびと幸せに暮らしていると伝えたいですね」

4人兄弟の5番目の弟としてかわいがられ

以下、坂上さんを通じて、里親の方に現在のボビーの様子を教えてもらった。

「最近のボビーは、表情がとても穏やかになりました。家族の出入りが毎日激しい我が家ですが、四男と私が2人で出かける時は、いつも一緒に行きたがります。ボビーが大好きな多摩川の土手に行くと思っているのかも(笑)。

先週は、子どもたちの友人6名が泊まりに来ていて、大賑わいでした。みんなに可愛がられて、毎日ぐったり(笑)。でもすごくはしゃいで、楽しんでいるように見えました。

週末は子どものスポーツの応援で、江戸川の河川敷に4時間ほどいました。他のママたち一人一人にもご挨拶して、遊んでもらい、この日もぐったりするまで楽しんでいました。

新しいコマンドもすぐに覚えます。最近はハイファイブが上手になりました! うちの車も覚えて、ボビーの中で、“車=お出かけの法則”ができたようで、リードを付けずに車に向かっても、一目散に自分から車に飛び乗ります。 1番の大好物はチーズ。冷蔵庫から取り出した音だけで飛んできます。 ボビーのエピソードは尽きません」

一度は捨てられた、小さな、けれど、かけがえのない命──。ボビーは賑やかで、笑顔にあふれた自分の居場所を見つけた。

「噛み癖が治らない」処分対象“コロナ犬”を引き出すと…保護活動家が流した涙の理由