生命が枯渇し、抵抗する意志もなくなって迎えた「死」…プーチンが最も恐れた男・ナワリヌイの凄惨すぎる「最期」
真のロシア愛国者「アレクセイ・ナワリヌイ」がプーチン独裁政治の闇を暴く『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』が、全世界で緊急同時出版された。1976年にモスクワ近郊で生まれたナワリヌイが目にしたのは、チェルノブイリ原発、アフガン侵攻、ソ連崩壊、上層部の汚職、そして「ウクライナ侵攻」だった。政治とカネ問題、超富裕層の富の独占、腐った老いぼれに国を支配される屈辱と憤怒。独裁政治の闇をメディアに発信し、大統領選にも出馬した彼は、やがて「プーチンが最も恐れる男」と評されるようになる。そして今年2月、彼を恐れた当局により獄中死を遂げた。
そんなナワリヌイが死の間際に獄中で綴った世界的な話題作『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』より「本物のロシア愛国者の声」を一部抜粋、再編集してお届けする。
『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』連載第9回
『「脳」をバグらせて“呼吸困難”に陥らせる恐怖の“神経ガス”…ロシア反体制指導者が実際に味わった「いつ死んでもおかしくない」苦しみ』より続く
抵抗できずに枯渇する生命
なんとかトイレからは脱出できた。通路にはトイレ待ちの列ができていた。みんな不満そうな表情を浮かべている。どうやら、思ったより長くトイレにいたようだ。酔っ払いとは動きが違う。よろめいてはいないし、誰も私のことを気に留めていない。ただの乗客に見えるのだろう。後日、キーラから聞かされたのだが、私が窓側席から出ていったときはいたってふつうの状態で、キーラとイリヤの前を苦もなく通っていったという。ただ、顔は青ざめていたそうだ。
トイレから出て通路に立ったまま、助けを求めようと自分に言い聞かせる。だが、客室乗務員に何をお願いするというのか。どこに問題があって、どうしてほしいのかもわからない。
客席のほうに視線を向けたが、すぐに反対方向に向き直った。目の前にはギャレー(調理設備)が見える。2メートル四方程度のスペースには、食事を運ぶミールカートがある。長距離フライトの場合は、ここに来れば飲み物がもらえる。
それにしても、本物の作家はつくづく特殊な人々だと思う。化学兵器の攻撃で死の淵をさまよっているのは、どんな感じかと聞かれても、私が思いつくことと言ったら2つしかない。『ハリー・ポッター』の吸魂鬼(ディメンター)と、トールキンの『指輪物語』に登場する幽鬼、ナズグルである。吸魂鬼にキスされても痛みはない。犠牲者はただ命が消えゆくことを感じるのみである。ナズグルの最大の武器は、相手の意志と力を無力化する恐ろしい能力だ。私は通路に突っ立ったまま、吸魂鬼にキスされ、近くにはナズグルがいる状態だ。目の前の状況を理解できずに打ちのめされそうになる。生命が枯渇していく一方で、それに抵抗する意志もない。もう終わりだ。それまでの「もう我慢できない」という感覚が、「もう終わりだ」という感覚にものすごい力で急激に取って代わられようとしている。
そして迎えた「死」
客室乗務員が訝しげにこちらを見ている。離陸時に、私のPC使用を見逃してくれた乗務員のようだ。力を振り絞り、言葉を口にしようとする。自分でも驚いたが、「毒を盛られた。命が危ないんだ」という言葉が飛び出した。乗務員は、動揺も驚きも見せないどころか、心配する様子もなく、なんと薄笑いを浮かべている。
「どういうことでしょうか」
私は、ギャレーのフロアに立つ乗務員の足元に倒れ込む。乗務員の表情ががらりと変わる。転倒ではない。卒倒でもない。意識を失ったわけでもない。だが、通路に立っているのが無意味で馬鹿げていると感じたことは確かだ。そりゃそうだろう、死にかけているのだから。間違っているなら訂正してほしいのだが、誰だって死ぬときは横になるものだろう。横向きに寝た。目の前に壁がある。もはや気まずさも不安も感じない。周囲に人が集まってきた。驚きや心配の声が上がる。
女性が私の耳元で声をかける。「どうしました?気分が悪いですか?心臓発作ですか?」
私は力なく首を横に振る。心臓は問題ない。
物事を考える余裕があった。死について巷で言われていることは真っ赤な嘘だ。生まれてからの人生が走馬灯のように浮かびもしない。最愛の人々の顔も現れない。天使も、まばゆい光もありゃしない。ただ壁を見つめて死んでいく。周囲の声がぼんやりとしてくる。最後に聞こえたのは、「お願い、目を覚まして、目を覚まして」という叫び声だ。そして死を迎えた。
ネタバレ注意だが、実際には死んでいなかった。
『大いに感銘を受けた「日本人神経外科医」は存在すら幻覚だった…“毒”を盛られたロシア反体制指導者が病院で体験した「向精神薬の恐ろしさ」』へ続く
大いに感銘を受けた「日本人神経外科医」は存在すら幻覚だった…“毒”を盛られたロシア反体制指導者が病院で体験した「向精神薬の恐ろしさ」