(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

サラリーマンであればいつかは迎える「定年退職」。長年、頑張ってきた自分はもちろん、サラリーマンを支えてきた家族にとっても喜ばしい日に違いありません。そんな日が修羅場になったという人もチラホラ、いるようです。

最新・大卒サラリーマンの退職金事情

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』で、大卒サラリーマンの退職金事情を掘り下げていきます。

まず自己都合で退職した際、その退職金は平均1,441万円。企業別にみると、従業員1,000人以上の大企業では1,928万円、従業員30〜99人規模の中小企業では694万円でした。

では定年退職に絞ってみていくと、その退職金は平均1,896万円。勤務年数別にみると「20〜24年」で1,021万円、「25〜29年」で1,559万円、「30〜34年」で1,891万円、「35年以上」で2,037万円。さらに企業規模ベルにみていくと従業員1,000人以上の大企業では2,191万円、従業員30〜99人規模の中小企業では1,282万円でした。

定年退職で2,000万円を超える退職金を狙うなら、若手のときは転職を繰り返したとしても、30代中盤には従業員1,000人以上の大企業に在籍、そのまま定年までは勤める、というのが必須になるようです。

【企業規模別:大卒サラリーマンの定年退職金

■平均1,896万円/平均2,191万円/平均1,662万円/平均1,347万円/平均1,282万円

20〜24年…1,021万円/1,144万円/933万円/920万円/494万円

25〜29年…1,559万円/2,146万円/1,465万円/1,087万円/1,451万円

30〜34年…1,891万円/2,206万円/1,567万円/1,415万円/869万円

35年以上…2,037万円/2,242万円/1,742万円/1,543万円/1,785万円

※数値左より、全平均/従業員1,000人以上/従業員300〜999人規模/従業員100〜299人規模/従業員30〜99人規模

ちなみに、退職金の分布をみていくと、中央値は1,494万円。下位10%で466万円、下位25%で813万円。反対に上位25%で2,231万円、上位10%で2,897万円。2,000万円を超えるのが33.8%です。

規模別にみていくと、従業員1,000人以上の大企業で2,000万円超の退職金を得ているのは49.8%に対し、従業員30〜99人規模になると18.8%でした。

また、3,000万円超えは全体の8.7%。さらに4,000万円超えは1.8%、5,000万円を超えが0.5%と、ここまでくると、大卒サラリーマンでもほんのひと握りのエリートです。

もちろん、これらの数値は退職金制度のある会社に限り、また規定により退職金が払われた際のもの。そもそも「退職金制度なんてありません!」という会社は対象外ですし、退職金の支払いのない退職者はノーカウントであることは留意しなければなりません。

定年退職を祝う場で露呈した「夫婦のすれ違い」

大学卒業後に就職した大手メーカーを定年退職する岡田誠さん(仮名・60歳)の場合、退職金額は2,300万円。直前の月収は64万円で、月収換算は36倍。「まわりと比べても普通ですよ」と謙遜するとおり、大手企業を勤め上げたサラリーマンのなかでは一般的な退職金を手にしています。

定年後はどうするのか? といえば、出向の話もあったといいますが断ったといいます。「30年以上勤めているので、もう完全燃焼です」というのが理由。退職日には同僚たちに盛大に見送られ、家では家族全員で定年を祝ってもらったとか。しかし、その際の大惨事を振り返り「大失敗でした」と、改めて反省。

それは、妻のほか3人の子どもたちもわざわざ集まってくれた祝いの場。テーブルには妻が頑張ったのでしょう、いつもよりも豪華な食事が並び、長男がわざわざ買ってきてくれたシャンパンで、おしゃれに乾杯をしたあとでした。料理に舌鼓を打ちながら、これまでのサラリーマン人生の思い出話に花を咲かせていると、ふと長女から「明日からどう過ごすの? 何かやりたいことは?」と質問に対し、妻が「どこか海外にでも旅行に行っていたけど、どこに行こうか?」と回答。妻と娘できゃっきゃきゃっきゃと盛り上げったといいます。

そこで岡田さん、「はて、海外旅行をするなんていう話していたか……」と首を傾げます。そんな様子に妻と長女は「どうしたの、お父さん?」。

――海外旅行っていう話、いつした?

――退職金が入ったら、と話していたでしょ

確かにずいぶん前にそんな話をしたことがあり、旅行会社の近くを通った際にもたくさんのパンフレットを持って帰ったこともありました。しかしそれは定年退職を決めた1年ほど前のこと。このときの会話が生きているとは……。

――でも、退職金の使い道は決まっているし

――えっ⁉

――銀行に「退職金特別プラン」というポスターがあって、この前、話を聞いてきたんだよ

その金融機関でおすすめしたのは、「定期預金と組み合わせて金融商品を購入して退職金を運用しましょうよ」というもの。定期預金も金利が優遇されていて、すごくお得だったといいます。年金を受け取るようになる65歳まで5年。お金の心配はしていないけど、すこしでもお金が増えるにこしたことはない……口約束の段階ですが、銀行の営業担当にも、「退職金が入ったらよろしく」と伝えてあるそう。

――なんでそんなこと勝手に決めちゃうの!

――(えっ、なんで責められているんだ?)すごく金利も良かったし

――そういうことじゃなく、なんで相談をしないのかってこと

岡田さん、どこか退職金は自分のお金という意識があり、特にその使い道等、相談をしていなかったそう。妻にとっては、これまで夫を、そして家族を必死で支えてきたという自負があります。それなのに「退職金は俺のお金、どう使おうと、俺の自由」というような態度が許せなかったようです。

――私のこれまでの30年は何だったのよぉ! もう別れる、あなたとは別れる!

――(えっ、突然の別れ話。何かの間違いでは…)

お酒のせいもあって妻は大号泣し、せっかくの祝いの場は大荒れ。「まさか、あんなに怒るなんて思ってもいませんでした」と、退職金の運用について何も相談なく話を進めようとしたことを、深く反省したといいます。

銀行がいうことだから…と退職金運用で失敗するケースも

どちらにせよ、岡田さん、退職金の運用について、実はあまりわかっていないといいます。よく退職金が振り込まれると、口座ある銀行から「退職金を運用しませんか?」と連絡があるとはよく耳にすること。そして、金利は優遇されているものの、手数料が高いのできちんと比較検討するようにという注意も聞いたことがあるでしょう。

――(お金のプロである)銀行が勧めてくれるものだから確実な運用法である

と勝手に思い込み、実はどのような商品なのか、どのようなメリットがあるのか、逆にどのようなデメリットがあるのか、よく知らない、というのがよくあるパターンなのです。

投資では元本割れリスクは覚悟しなければならないものですが、この元本割れについても、「よくわからない」という人は一定数いるもの。金融広報中央委員会『令和5年 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』によると、「元本割れの経験」に関して、「自分が元本割れするリスクをよく理解していなかったのであるから仕方がない」と考える人が「50代」で18.1%、「60代」で15.9%。また「相場の変動によって元本割れするリスクを金融機関が十分に説明しなかったためだ」と他人のせいにしているのが「50代」で4.5%、「60代」で4.8%と、少なからずいます。

退職金をどのように使おうと、運用しようと、その人次第。ただ運用を考えるなら、投資は自己責任。きちんと知識をもって取り組まないと痛い目にあうのは確実です。

[参考資料]

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』

金融広報中央委員会『令和5年 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』