「子どもたちは言えないんで私が言いますけど…」高校野球秋季九州大会準々決勝の継続試合で監督が漏らした思い 選手ファーストの運営を
試合後「敗戦の将」が口を開いた。「継続試合ありきで試合をスタートさせちゃいけないなと」。
継続試合となって30日に決着した高校野球九州大会準々決勝の鹿児島実―沖縄尚学。0―5で敗れた鹿児島実の宮下正一監督の言葉だ。「負け犬の遠ぼえ」と言われることは百も承知で、それでも抱えている思いをこらえきれなかったのだろう。意を決して続けた。「子どもたちは言えないんで私が言いますけど、こんな始め方をしてもらっては困ります」。
29日の準々決勝。10時に第1試合の西日本短大付(福岡)―有明(熊本)開始時にはすでに小雨が降っていた。別大興産スタジアムのグラウンド状態は悪くなかったが、天気予報は悪くなる一方。回復の見込みはなかった。1試合目は無事に終わったが、2試合目の鹿児島実―沖縄尚学が始まる頃にはグラウンドには水が浮き始めていた。午後からは雨が強まる予報で「試合終了まで天気はもたないんじゃないか」。スタンドの誰もが感じたと思う。それでも試合は始まった。
案の定、雨はどんどん強くなりグラウンドはどんどんぬかるんできた。ランナーコーチに向かう選手がすべらないようにつま先立ちで走るほどだったが、それでも試合は止まらなかった。5回終了時にはもうグラウンドは池のような状態となり、時間をかけて砂を入れて後半が始まったが8回裏、3点リードの沖縄尚学が2死三塁としたところで突然ストップ。そこまで引っ張ったあげく、あとアウト四つを残して継続試合になった。
「あの段階で止めるかなと。もっと早い段階で止めるタイミングはあった。2試合目は雨が降るという予報でスタートするのが残念でした。選手がかわいそうで」。雨雲の予想を見れば試合を続行できないのは明らかだった。足元がグチャグチャになったグラウンドでプレーする選手の危険を考えるならば5回の時点で試合を止めても良かった。しかも翌30日は晴れ予報。「天気のいいところで試合をさせてあげたかった」。時々涙で声を詰まらせながら宮下監督は言葉を絞り出した。
継続試合となり、日帰りの予定だった応援団は急きょ宿を探し始めた。選手たちはタップリ水を吸ったグラブやスパイクを乾かし、泥だらけのユニホームの洗濯も大変だったに違いない。「まずは道具の手入れからやりました」と沖縄尚学の比嘉公也監督も話していた。勝った沖縄尚学、敗れた鹿児島実ともに振り回されて、いい思いはしなかった。
日程と今後の天候を考えるとこの日に準々決勝を終わらせる必要はあったというのは理解できるが「途中でやれなくなれば継続試合にすればいい」という見切り発車だったのではないか。8回裏2死で継続試合にするぐらいなら最初から翌日に順延するべきだった。詳細な天気予報が分かる今、見通しが甘かったと言わざるを得ない。勝敗が決する「降雨コールド」ではなく「継続試合」ならば、運営を優先すればこのような見切り発車も可能だということだ。
翌日、晴天のもとで再開された試合は約15分で終わった。「継続試合という制度ができて、それがいいように使われていると感じました。ルールだから仕方ないですけど」と宮下監督。来春の選抜大会の参考資料となる大切な大会だからこそ、準決勝、決勝は選手ファーストの運営を望みたい。(前田泰子)