タレントアンドアセスメントが手がけるAI面接の様子と評価レポート画面(写真下)、最終面接で不合格になった学生が対象のABABAのスカウト受け取りのスマホ画面(写真上)(写真:タレントアンドアセスメント、ABABA)

学生優位の「売り手市場」の状況が続く、2025年卒の就職活動。平均内定取得企業数(2.52社)、内定辞退率(66.2%)も例年と比べて高めの水準となっている。企業側が対策に動く一方で、「令和の就活」を支える民間サービスも登場している(前編はこちら)。

机の上に置いたスマートフォンを介して、就活生が採用面接に臨んでいる。面接官はなんとAIだ。といっても、就活生が一方的に話す形ではない。粘り強さを測る質問であれば、こんなやり取りがされる。

AI「これまでの経験で、とても苦労したことや困難な状況を乗り越えたという経験はありますか?」
学生「はい。あります」
AI「では、具体的にお聞きしていきます。その苦労や困難はどのような状況だったのですか?」
学生「大学のゼミでビジネスコンテストに参加することになりました」
AI「なるほど。状況の背景について教えていただけますか?」

回答内容によって深掘りの質問内容は異なるが、「状況・課題・行動・結果」を把握できるまで、対話を繰り返す。新卒採用の場合、面接時間は30〜45分ほどだ。

幅広い業界で導入

スマートフォン、タブレットで受験できる対話型AI面接サービス「SHaiN(シャイン)」。これまでも録画型の面接サービスはあったが、先述の対話型AI面接は日本初だ。


山粼俊明代表は1973年大阪府生まれ。大阪学院大学商学部卒業後、大正銀行(現・徳島大正銀行)入行。アクサ生命保険を経て2011年T&Aパートナーズ、2014年同社設立(写真:タレントアンドアセスメント)

SHaiNは、タレントアンドアセスメントが2017年に開始。2023年12月には東京大学と共同開発した評価AIプログラムを実装、ヒアリングから評価レポート作成まで全工程をAI化した。

イニシアティブ、対人影響力、ストレス耐性など10の資質を評価・評点化する。評価根拠が明確で、面接官ごとの評価のばらつきが解消できるのが最大の特徴だ。

開発のきっかけは、山粼俊明代表がスカウトを受けて入社したアクサ生命保険の面接にある。その人の資質を見抜くために「なぜそれをしたのか、結果どうなったのか」と過去の行動を掘り下げる内容だった。

「(面接官との相性や主観に左右されることがある)日本の面接は属人性が高いと言われるが、海外では資質を定量化して評価するのは当たり前。この採用メソッドをAIに落とし込んだ」(山粼氏)

プランは新卒・中途採用、昇格試験向きのスタンダードプラン(1件5000円)と派遣・アルバイト向きのライトプラン(1件1000円)の2つ。導入社数は2024年8月に600社を突破した。うち95%ほどが新卒採用での導入で、ホリプロ、千葉興業銀行、ウシオ電機などが導入している。

面接にかかる業務負荷を削減できるだけでなく、「チームワーク型」「個性型」など人材のタイプも把握できるため、入社後の配属や面談に生かすことも可能だ。

実際に導入企業からは「口下手だけどじっくり話を聞けばきちんとした考えを持ち、自分の言葉で話すことができる候補者をしっかりと見極められた」「同僚との相性、どんな上司のもとだと大きく成長するのかなど、その人が最も力を発揮できるような配属について(SHaiNから納品された)面接評価レポートの活用を考えていきたい」という声が上がっている。

不採用の学生を応援


久保駿貴CEOは1997年生まれ、兵庫県明石市出身。関西大学から2019年岡山大学理学部に編入。関大在学中からABABA共同代表の中井達也氏とともに複数の事業を立ち上げ。2つの事業に失敗した後、2020年11月にABABAリリース。現在は岡山大学大学院に在学中(写真:ABABA)

「お祈りメール」。選考で不合格となった学生に対して企業が「今後のご活躍をお祈りします」の一文で締めくくるメールを送ることを新卒採用の世界ではこう呼ぶ。

ここに目を付けたのが2020年創業の岡山大学発のベンチャー、ABABA(アババ)だ。

社名の由来とサービス内容は、創業者である久保駿貴CEOが構想した。久保CEOの友人が広告代理店の電通の最終面接で不合格になった際、「あばば……!」といった感情を表現する絵文字入りのLINEが届き、うつ状態になってしまったのがきっかけとなった。

「ほかの企業も欲しがる優秀な人材に違いないのに、求人が少ない時期になっていた。最終面接に至るまでの過程を評価し、不採用のお祈りメールを応援のエールに変える仕組みを作りたいと思った」(久保CEO)

ABABAは最終面接落ちの学生と、企業を結びつけるプラットフォーム。企業は登録済みの学生のデータベースからめぼしい人材をスカウトする。最終面接まで進んだという他企業のお墨付きがあるため、選考フローの一部がカットされるなど優遇が受けられる。

学生の登録は無料。「就活生の1割近くにあたる年間4万人ほどが登録する」(久保CEO)。導入企業にかかるのは初期費用10万円と採用成果報酬65万円だ。鹿島建設、NTTドコモ、サイバーエージェントなど各業界の大手企業も多く、1850社(2025年9月末時点)が導入している。

内定式後に就活再開も

中には、内定式を経て「何か違う」と就活を再開する学生もいるという。企業側に対しても「『どういった企業の最終までいった人が欲しいですか』『内定を出したときに逃げられる先の企業はどこですか』と聞き、『だったらこういう検索をしてアプローチをしましょう』と提案する」(久保CEO)と、よりよいマッチングを求める学生、企業双方にサービスが刺さっているようだ。

リクルートの就職みらい研究所によれば、この10月の内定式に臨んだ学生から「自分の就職先選択が本当に合っていたのか、また気持ちが揺らいできた」「配属が不安」という声も聞かれたという。ファーストキャリアを重視する学生の心をつかむため、採用手法の進化と多様化はいっそう進んでいきそうだ。

(常盤 有未 : 東洋経済 記者)