(写真:Mills / PIXTA)

志望校合格者を次々と出す、プロの家庭教師。集団指導ではないため、どう合格に導いているのか、一般的にはあまり知られてはいません。しかし、そこには誰でも実践できる「教え方の極意」があります。『家庭教師の技術』を上梓した、15年を超える家庭教師・塾講師歴を持つ、青戸一之氏が極意をお話しします。

教える人、教えない人どちらが伸びる?

勉強を教えるのが上手い人と下手な人の違いは、どこにあると思いますか?

教えるのが上手だと聞くと、「説明がわかりやすい」、「話が面白い」など、口達者な人だというイメージが浮かぶのではないでしょうか。

学校や塾の先生だと口達者でもよいと思いますが、マンツーマンで教えるとなると話は変わってきます。

家庭教師として、または親御さんがマンツーマンで勉強を教える場合は、口達者というよりも、「教えない人のほうが、教え上手」だと言えるのです。

「教えないほうがいい」と聞くと、なんとなく違和感を抱くかもしれません。生徒からすると、手取り足取り丁寧に教えてくれる先生のほうがいいように思うでしょう。

しかし、教えれば教えるほど、生徒の成長の機会を奪ってしまいます。なぜなら自分自身の頭で考えることができなくなるからです。

問題の解き方やミスした原因などを一から十まで教えてもらえれば、当然教えてもらう側は楽かもしれません。それでは自転車にずっと補助輪がついているようなもので、いつまで経っても自分1人で走れるようにはなりません。

教えてもらったその場ではわかったような気になっても、いざ1人で問題に向かってみると何も身についていなかった、ということになるのです。

もちろん、何も知識がない状態で「自分で考えろ」というのは無理な話です。最初はきちんと基礎から教えてあげる必要があります。

では、「教えすぎ」を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。ポイントは2つあります。生徒に話させることと、質問には質問で返すことです。

生徒に話させることで理解度を見る

例えば、社会(地理)の勉強で「日本は米の生産量が多い」という内容を説明するとします。

このとき、「日本は降水量が多く、稲作に適した温暖な気候で……」と、一方的にすべて話してしまうのはNGです。

教科書に書いてあるような説明をダラダラとしても、聞いている側は退屈ですし、受け身の姿勢になるので頭にも残りにくいです。

その代わりに、生徒に質問を投げかけてしゃべってもらうのです。

まずはフックとして、「日本は米作りが盛んだけど、ほかにたくさんお米を作っている国って知ってる?」といったように、興味を引き出すような質問をします。

生徒が答えられない場合は、世界地図を見せながら「ほかには中国やタイでも稲作が盛んなんだけれど、これらの国に共通することって何だろう?」と、少しずつ核心に迫るような流れで質問しながら、生徒に考えさせたり、話させたりする機会を与えるのです。

こうすれば、生徒にどのくらいの知識や理解度があるかを測ることもできます。先生側も、余計な説明を省いて必要なことだけ言えば済むでしょう。

こちらの質問に正しく答えられた場合は「お、よくわかったね!」など、合いの手を入れながら説明と質問を交互にしていくと、生徒の気持ちも次第にノってきます。

考えてもわからないような難しすぎる質問は避け、生徒のレベルに合わせながらヒントを出してあげると上手くいくでしょう。一方的な説明を避けられるだけでなく、生徒が主体的に勉強している感覚を持たせることもできます。

この「生徒に話させる」というのは、どの教科でも同じです。例えば、算数の文章題で「900m先の公園まで分速60mで歩いたら、何分かかるでしょう?」という問題を解く場合なら、

「距離・速さ・時間の関係の式って覚えてる?」

「うん」

「この問題だと、その3つのうちどれがわかるかな?」

「距離と速さかな」

「そうだね。じゃあこの問題は時間を求めるわけだから、式はどうなるかな?」

といったように、質問をはさみながら説明を進めていくとスムーズに指導することができます。

質問には質問で返す

もう1つのポイントである「質問には質問で返す」ことも大切です。

勉強を教えていると、「これってどういうことですか?」「どうやって解けばいいですか?」などと聞かれることが多々あります。

このときも、質問に対して一から十まで答えてしまうと、生徒の成長の機会を奪ってしまいます。そこで有効なのが「質問には質問で返す」ことなのです。

例えば英語を教えているとしましょう。“He must be hungry.” という英文をどう訳せばいいのかと聞かれたとします。

このとき、「彼はお腹が空いているに違いない」とすぐに答えを教えるのではなく、まず「mustってどういう意味?」と聞いてみるのです。

そこで生徒が「〜しなければいけない」と答えたら、「〜に違いない」の意味を覚えていないことがわかるので、テキストに戻ってmustの用法を確認するように指示します。

このように質問に対して質問で返すことからも、その生徒がどこまで理解していて何の知識が足りないのかがわかるのです。

さらに、この質問返しをすることでも、ムダな説明を省くことができます。先ほどの“He must be hungry.”の例で、生徒が“must”ではなく“hungry”の意味がわからなかったとしましょう。

ここで質問をせずに「この子はきっとmustの意味がわからなくて訳せないんだろう」と勝手に判断した場合、こちらがいくら一生懸命「must=〜に違いない」だと説明しても、時間と労力のムダですよね。

生徒も「知りたいのはそこじゃないのに……」という気持ちで説明を聞かされて、集中力が下がってしまいます。このようなロスを避けるためにも、質問には質問で返すことが大切なのです。

また、「この単語って何て意味ですか?」のように、辞書やインターネットで調べたらわかるような質問をされることがあります。

この場合は答えを教える代わりに、調べ方を教えるほうがいいでしょう。知識ではなく調べ方そのものを教えることで、生徒が自分1人で勉強しているときに、疑問に思ったことを自力で調べられるようになります。

辞書の使い方も教えてあげる


最近は電子か紙かを問わず、辞書そのものを使ったことがないという子もいます。

辞書での調べ方も必要に応じて教えたほうがいいでしょう。毎回こちらが説明するよりも、自分の手で調べたほうが頭に残りやすくなりますし、自立心の向上にもつながります。

ここまで述べてきたように、こちらが教えれば教えるほど、生徒の理解や、自立からはかけ離れていきます。

生徒の成長を促すためにも、「教えない人こそ教え上手である」ということをぜひ意識してみてください。

(青戸 一之 : 東大卒講師・ドラゴン桜noteマガジン編集長)