頭のいい子に育てるにはどうしたらいいのか。西大和学園中学校・高等学校教諭の辻孝宗さんは「ただ文章を読ませるだけでは意味がない。“きょうの出来事”などをアウトプットする訓練を続ければ、自然と国語力や文章力が身についていく」という――。

※本稿は、辻孝宗『一度読んだら絶対に忘れない文章術の教科書』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

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■「ただ文章を読むだけ」で国語力は上がらない

「子供が国語力・文章力を身につけられるようにするためには、小さい時からどんな訓練をさせたらいいでしょうか?」

国語を教えていると、親御さんからこんな質問を聞かれることが多いです。

この質問をする背景には、「自分の思いや考えを文字にすることができるようになってほしい」「読み書きの能力はすべての勉強の基本なので、できるようになってほしい」という親御さんの願いがあると感じます。

しかし、そんな親御さんのお話を聞いていると、「意味のない国語の訓練」を子どもにさせてしまっているケースが多いです。

例えば、ただ文章を読ませて終わりにしているパターン。「1日最低1000文字は読みなさい」と課題を出して読ませている、という家庭もありますが、ただ読ませるだけでは意味がありません。

そもそも国語は、文を読んで理解しなければ効果が出ません。文章をただ「眺める」だけになってしまっては、元も子もないのです。

読解とは、「読んで、解釈する」と書きます。文を「読む」だけでなく、それをきちんと子どもに「解釈」させなければ、意味がないのです。

それなのに、ただ闇雲に難しい本を読み聞かせたり、文章をたくさん読ませたりしても意味がありませんし、むしろ子供が「国語嫌い」「本嫌い」になってしまって、かえって国語が苦手になってしまったという例もあります。

■「短く言いまとめる訓練」が最も効果的

内容も、新聞や長めの小説など、難しい文章を読ませるという家庭もありますが、それではいけません。あくまでも、理解できて、かつ「面白い」と思ってもらえるような文章を読んでもらう必要があるのです。

それに、その読んだ文章を読みっぱなしにしているようでは、国語力は上がりません。しっかりと、その内容をアウトプットしなければなりません。読んだからと言って、国語力は上がらないのです。

では、どうすればいいのか?

「どんな訓練をすればいいですか?」という質問に対して私がどう答えるのかというと、まずは文章関係なく、どんな物事でもいいので「短く言いまとめる訓練」をおすすめしています。

小さい子であれば、「今日は小学校でどんなことがあった?」「今のニュース、お母さんはあんまり観てなかったんだけど、どんな内容だった?」と日常会話の中で軽めにそんな質問をするのです。「文章じゃなくていいの?」と思うかもしれませんが、まずは文章ではなく、ただ日常の出来事や会話から入るべきです。

そして、小学3・4年生くらいまで大きくなってきたら、漫画や小説などの内容を「どんな内容だったのか」まとめてもらい、小学5・6年生くらいまでもっと大きくなったら新聞やニュースの一節を要約する訓練をしてもらうことです。

要約といっても、最初はその一節の中で「結論」になっている部分に下線を引いてもらうだけでも大丈夫です。慣れてくるまでは文中の言葉と同様の表現を使って「切り貼り」で要約しても問題ありません。

とにかくどんな形でもいいので、「短く言いまとめる訓練」をするのが、一番国語力が高まると考えられます。

■「東大の問題」は記述式の割合が多い

なぜこの訓練が有効なのか?

少し話は変わりますが、みなさんは「東京大学が日本で一番難しいと言われる理由」を知っていますか?

写真=iStock.com/YMZK-photo
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私は東京大学志望の生徒たちに指導をすることが多いです。「日本で一番偏差値が高い大学である東京大学に合格したい」と考えている生徒たちに対して、国語の勉強やメンタルの保ち方・それ以外のことも含めていろんなことを教えています。

東京大学は、全科目、ほとんどの問題が記述問題の大学です。

まず国語ですが、普通国語の入試では「この選択肢の中から答えを選びなさい」というような選択肢を選ぶ問題が出題されるわけですが、東大は一切そういう問題が存在しません。説明や理由を求める記述の問題だけで構成されています。

国語以外の科目でも、英語でも理科でも社会でも、「これはなぜか、30文字以内で説明しなさい」といった問題が多く出題されています。数学でも問題の答えを途中の計算過程や思考の過程も含めて記述しなければならないので、全国で一番記述の割合が高い入試だと言えるでしょう。

「全部記述で書かなければならないなんて、難しい大学だなあ」と思うかもしれません。でも実は、本当に東京大学が恐ろしいのはここからなのです。

■「文字数制限」は京大や阪大よりシビア

たしかに難しいですが、記述式の問題が多い大学は他にもたくさんあります。でも、東大だけは、その記述問題に一つ、大きな「制限」が加えられているのです。

それは、文字数制限です。「これはなぜか、30文字以内で説明しなさい」「これはどういうことか、60文字以内で答えなさい」というように、多くの記述問題に文字数の制限がかかっています。

文字数の制限が非常に厳しく、「100文字以上かけて説明するなら全然簡単だけど、60文字で説明しなさい、なんて難しいよ!」と感じる受験生が続出します。

国語の解答用紙の解答欄も、他の大学(京都大学や大阪大学など)に比べても狭く・小さく作られています。短く書かなければならないのが厳しくて、難しいのです。

他の大学では、文字数制限が付いていない大学も多いですし、逆に「長く書くこと」を求める場合が多いです。

例えば、英語では自由英作文と呼ばれる問題形式があります。これは、さまざまな大学で出題される問題形式で、「〜について、あなたの考えを○語以内の英語で答えよ」というような問題になります。これが、東大と他の大学で文字数制限が違うのです。

一橋大学の自由英作文は100〜140語で、他の難関国公立大学も基本的に100語程度の英作文を求めるのに対し、東大はだいたい70語程度で、年度によっては40語程度の場合もあります。

「短い文字数でいいってことは、東大の方が簡単ってことじゃないの?」と思うかもしれませんが、短く言いまとめなければならないからこそ、冗長に説明することができず、ポイントを絞らなければなりません。

「短く語らなければならないこと」こそが、東大が日本で一番難しい大学だと言われている一つの大きな要員なのではないかと私は考えています。

■最難関の東大が「要約力が重要だ」と考えている

ではなぜ、このような問題が出題されているのか? 東大は、こうした問題を課すことで、要約力を聞きたいのではないかと言われています。

短く言いまとめることができる能力があるかどうか? 長く説明するのではなく、スパッと言いたいことを言って、重要な要素のみをポイントを絞ってまとめる能力があるかどうか? そうしたことを問いたいのではないかと言われているわけです。

そして、この厳しい文字数制限のある記述問題ばかりの入試を超えて東大に合格する生徒というのは、自然と国語力・文章力が身についている場合が多いです。

自分の教え子を見ていると、東大生に合格してから文系理系問わずライターとしてバイトをしていることが多いです。ライターとしてバイトができる程度には、文章を書く能力が身についているのです。

しかも、見ていると「え⁉️高1のときダメダメな文章を書いていた彼が⁉️」というような生徒であっても、難なく文章を書いているのです。東大入試の文字数制限は、東大受験生を文字が書ける人に成長させているのだと考えられます。

さて、長々と「東京大学が日本で一番難しいと言われるのはなぜか?」という問いと答えをみなさんにお話ししたのは、「国語力・文章力を身につけるための訓練方法として、一番おすすめなのは、要約力だ」ということを伝えたかったからです。

私個人の意見というわけではなく、「東京大学がそう考えている」と考えられるわけです。

■授業後の「一言まとめ」も訓練になる

ですから、「短く言いまとめる訓練」がいいのです。それも、本当に些細なことから、そこまで厳しい制限を加えずに、要約する訓練をするのがおすすめです。

辻孝宗『一度読んだら絶対に忘れない文章術の教科書』(SBクリエイティブ)

私の教えている生徒で東大に合格した生徒は、毎回授業の後でノートに一言「まとめ」を書いていました。「今日の授業で一番大事先生が伝えたかったこと・覚えておくべきだと感じたポイント」を箇条書きにして書いていました。

毎回授業後の2〜3分程度の時間を使って書いていたわけですが、それだけのことですごく授業の理解度が高かったです。この「一言まとめ」も要約ですよね。

また他の生徒は、小さい頃から家で親御さんに「今日、学校で学んだこと」を伝える習慣があったそうです。

数学でも国語でも英語でも、なんでもいいので一つ、「今日は学校の先生からこんなことを学んだよ」「こんな話が面白かった」というのを伝えるのが家庭のルールだったのだとか。これも一種の要約の訓練だと言えます。

写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

いかがでしょうか? ぜひ、親子で「短く言いまとめる訓練」をしてみてください。日常会話の中に少し入れる程度でもいいので実践してみると、国語力・文章力が向上するはずです。

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辻 孝宗(つじ・たかむね)
西大和学園中学校・高等学校教諭
1975年生まれ。岐阜出身。国語科教師として、20年余り、西大和学園の国語を率いている。常に新しいスタイルで展開される授業の人気は高く、定員40人の放課後講座に280人が申し込んだことも。その授業は楽しいだけでなく、最小限の努力で常に学年を全国1位にするので、生徒だけでなく教員にも信奉者が多い。
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(西大和学園中学校・高等学校教諭 辻 孝宗)