(撮影:今井康一)

「金がないから結婚できない」なんていうのは、単なる言い訳だ。金がないからこそ二人で一緒に協力して生きていくのが結婚だ。

そんなことを言う既婚者がいます。年齢層は主に50代以上の男性です。油断すると、そのうち「俺の若い頃はな……」などと聞きたくもない武勇伝が始まってしまいます。

確かに、その人たちが結婚適齢期の頃はそうだったかもしれません。しかし、明らかに最近は、結婚に対する必要コストが上昇しています。しかも、2015年以降に潮目が大きく変わりました。

20代が結婚できなくなった原因

日本の婚姻減は、大きな流れでいえば、1970年代前半の第2次ベビーブーム期からほぼ一貫して減少し続けていますが、2000年から2015年にかけては15年間で20%の減少だったのに対して、2015年から2023年はその半分の8年間で25%も減少しています。特に、20代の初婚数の減少が深刻で、同2015〜2023年にかけて夫35%減、妻38%減です。明らかに、2015年以降20代の若者が結婚できなくなっていることを示します。

しかも、20代で結婚しなかった層が30代以降で晩婚化しているかといえば、決してそうではなく、30代以降の初婚率は大差なく、結局20代で結婚しなかった層はそのまま生涯非婚化しているわけです。晩婚化などという現象は存在しません。

この「20代が結婚できなくなった問題」の大きな原因のひとつが、特に2015年以降に激しさを増した「結婚と出産のインフレ」状態です。今まで結婚できていた年収300万円の中間層の若者が結婚できなくなり、結婚や出産に必要な最低年収基準が上がってしまったわけです。

国民生活基礎調査から、20代での児童のいる世帯数の推移を年収別に見れば、2015年以降大きく減っているのは、年収200万〜500万円帯だけであり、特に300万円台が激減しています。300万円台とは20代の若者のボリューム層であり、この中間層の若者が結婚できなくなったことが婚姻減のすべてです。逆にいえば、年収上位層に関しては20代の婚姻数は減っていないことになります。


冒頭の50代以上のおじさんたちのように「愛があればお金なんかなくてもなんとかなる」などと令和の若者が思えないのは、同じ額面給料300万円でも、50代のおじさんたちの25歳の時と今とでは社会保険料などの負担増や物価高が加わり、実質可処分所得はむしろ減っているからです。要するに、四半世紀前の若者より、今の若者の手取りが少ないのです。

このように、手取りが減っているのに、逆に結婚の年収のハードルばかりが一層高くなっているという過酷な状態で「金のせいにするな」と言うのはあまりに現実を知らなすぎというものです。

さらに、悲劇的なのは、結婚だけではなく、恋愛すら今は「金次第」となっていることです。「いや、結婚相手の選択はともかく、恋愛にお金は関係ないだろ。それこそ若者が恋愛離れしているせいじゃないのか」などというのは完全に的外れです。

年収と恋愛人数に強い正の相関がある

年収階級を、上位層3割、中間層4割、下位層3割別の3つに分類し、それぞれの未婚男女が恋愛人数をまとめたものが以下のグラフとなります。


未婚男女とも、年収が高いほど恋愛人数が多く、下位3割層においては、男女とも20〜30代のこれから結婚するだろう年齢帯で恋愛人数が最少となっています。年収と恋愛人数は明らかに強い正の相関があります。特に、男性の下位層の20代に至っては、平均恋愛人数が2人を切る1.87人でしかありません。

同じ下位3割層でも既婚男性は中間層とかわらない恋愛人数があるではないかと思うかもしれませんが、これは恋愛力や気合の問題ではありません。未婚男女の下位3割層の恋愛人数が極端に少なくなっている原因は、「恋愛経験なし」が圧倒的に多いからです。

最低1人以上付き合ったことにある者だけを対象とした場合は、男女とも既婚者の数字に近いものとなります。要は、経済的に下位の3割層がいかに「恋愛そのものができなくなったか」ということになります。

恋愛をするにも金が必要になってきている

もちろん、そもそも「恋愛に興味がない」という人もいます。しかし、この中には「本当は恋愛したいのにできない」という層も含まれています。そうした人たちが、「お金がなくて恋愛ができない」もしくは「日々の生活に精一杯で、とても恋愛などを考える余裕がない」のだとすれば由々しき問題でしょう。

結婚だけではなく、もはや、恋愛をするにも金が必要になってきているのです。

なお、グラフ中にある、3.68人の線は、未婚と既婚の恋愛人数の平均値です(参照→「未婚と既婚」に立ちはだかる「3.68人の壁」の正体)。

必ずしも、3.68人以上と恋愛しなければ結婚できないということではありませんし、既婚者の中にも「最初の恋愛相手=配偶者」という例もあります。とはいえ、統計上、既婚男女は、ほぼこの3.68人という恋愛経験をクリアしているわけで、ひとつの目安となるでしょう。

男性の場合は、下位3割層だけではなく、中間4割層ですら、3.68人に到達していないことになります。これが、20代中間層の婚姻数が減っている要因でもあります。結婚以前に、恋愛のステージにすら立てていないわけです。

そもそも3.68人の恋愛人数と婚姻数は関係ないと思うでしょうか?
恋愛人数別に、20代未婚男女の結婚前向き率が各々3つの年収階層でどれくらい変化するのかを示したのが以下のグラフです。

男女とも中間層を見ていただければわかる通り、恋愛人数4人あたりで結婚前向き度は最高値に達します。ここで決断した人たちが結婚していくのでしょう。3.68人と結婚とはやはり密接に関係するものと思います。

上位層のモテ無双が中間層の結婚を阻害

しかし、それよりも興味を引くのは、男性の上位層と下位層という2極が「恋愛人数が増えるほど結婚意欲が下がる」という同じような軌跡をたどることです。


下位層は恋愛人数が2人を超えると結婚前向き度が下がります。下位層は恋愛を重ねても、それが低年収ゆえに結婚に結び付かないと学習し、結婚への意欲を失うようにも見えます。一方、上位層は、自己のハイスペ具合により、次々と恋愛相手をとっかえひっかえできることを学習し、急いで結婚する必要性を失うのかもしれません。

しかし、この割を食うのは、中間層の結婚に前向きな男性たちです。上位層は最終的には40歳くらいまでには結婚していきますが、それまでは結婚する気もないのに、恋愛相手として勝者総取りをしていくために、中間層の選ばれない可能性が高まるからです。

金を稼げないと結婚はできないが、金を稼ぐとモテるがゆえに20代での結婚はしなくなる。その上位層のモテ無双が図らずも中間層の結婚を阻害することになる。何という皮肉でしょう。いずれにせよ、男性にとっていかに「お金」が結婚に影響を及ぼすかを示すものです。

昭和のように、お見合いや職場での結婚のお膳立てなき今、恋愛相手を自力で見つけ出さなければならないのですが、恋愛するのにも経済力が必要になり、出会いの場においても、男性は特に年収でスクリーニングされます。手取りが増えない状況にもかかわらず、そのスクリーニングされる最低年収条件はどんどん上昇し、もはや無理ゲーと諦める人も多いことでしょう。

第1子が生まれなければ第2子も第3子もない

当連載でも、子育て支援一辺倒の少子化対策はまったく出生増には役に立たないという話を繰り返しお伝えしていますが、誤解を怖れずに言うなら、児童手当がなくても子どもを産み育てられる上位層にだけ支援が届けられ、「金がないから結婚できない」という中間層の若者をますます諦婚へと導いているようなものだからです。

婚姻数が増えなければ出生数は増えません。第1子が生まれなければ第2子も第3子もありません。20代の若者が20代のうちに結婚できると信じられる経済環境にならない限り、それは晩婚化などならずに、ボリューム層の中間層4割+下位層3割の計7割の若者が結果的に生涯非婚という結果になるだけです。

生まれた子どもたちを支援することは必要ですし、それは否定しません。が、今本当に目を向けるべきなのは、将来その子どもたちを生み出すはずの「結婚願望のある」中間層20代の若者ではないでしょうか?

金がなくてもなんとかなるという「お気持ち論」など無用です。「お気持ち」では彼らは動けません。ここを見て見ぬふりを続ければ、必ず深刻な非婚社会が到来するでしょう。

(荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト)