複雑化する銀行間の住宅ローン「金利差」(MFS提供)

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 7月の「日銀利上げ」を受け、10月に入ってから多くの銀行が基準金利を引き上げた。ただ、銀行独自の“値引き幅”による金利競争で、実際の「適用金利」には0.1%以上の差が生まれる状況が生じている。同じ銀行でもユーザーによって金利の引き上げ幅に差が生まれたケースや、半年後に自動的に金利が引き上がってしまう“見せかけの低金利”まで現れるなど、業界は大混乱で――。

(前後編の後編)

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【写真を見る】SNSで疑問が噴出 「同じ銀行」なのにユーザー間で“金利格差”が生まれるカラクリ

キーワードは銀行独自の「引き下げ幅」

 まずは「適用金利」の決まり方をおさらいしたい。

 各銀行がユーザーに融資を実行する際の「適用金利」は、各銀行が政策金利に準ずる「短期プライムレート」を参考に設定した「基準金利」から、これまた独自に設定している「引き下げ幅」を加味して決まる。引き下げ幅は顧客の年収や勤め先などの「信用力」によっても変動するほか、銀行のキャンペーンなどにも左右される。

複雑化する銀行間の住宅ローン「金利差」(MFS提供)

 独特なのは、この「引き下げ幅」が基本的に返済期間中は「固定」であることだ。

 分かりやすいよう、数字を単純化して整理してみる。例えば基準金利が1%で、引き下げ幅が0.5%だった場合、適用金利は0.5%となる。政策金利の引き上げに準じ、仮に基準金利が1.25%となった場合、引き下げ幅は変わらないため、適用金利は0.75%となる。

 つまり、既に融資を受けた既存ユーザーの金利は、基準金利の変動によって上がったり下がったりすることになる。

 ところが今回、三菱UFJ銀行のように、新規ユーザーの獲得を強化するため、基準金利の引き上げと同時に、引き下げ幅を拡大する銀行が現れた。

 先ほどの単純な式に当てはめると、基準金利が1.25%に引き上げられたものの、引き下げ幅が0.75%に引き上げられたことで、結果として政策金利の引き上げ後も、同じ0.5%の適用金利で融資を受けることが可能となるわけだ。

 銀行が利益を圧迫してまで新規ユーザーを獲得しなければならない理由は、前編で解説した通り。三菱UFJ銀行の場合はさらに、MUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)内で各種サービスを提供することで、トータルで利益を確保するという狙いもあるようだ。

ユーザー間に生じた“金利格差”

 このように、基準金利の引き上げ時に「適用金利」を据え置くため、「引き下げ幅」を拡大することで起きるのが、既存ユーザーと新規ユーザーとの“金利格差”だ。

 具体例として、「住信SBIネット銀行」のケースがある。低金利と無料付帯の団体信用生命保険(団信)の充実度でユーザー人気の高いネット銀行だが、7月の日銀利上げに準じ、10月に入ってから基準金利を0.25%引き上げた。

 ところが、適用金利の上がり幅がユーザーによって異なるという現象が起きた。具体的には、基準金利の引き上げ幅と同じ「0.25%」上がった人と、「0.15%」の上昇に留まった人とに分かれたのだ。

 その結果、SNSでは

「今回は0.15%アップで済むと思っていたのに、どうして?」
「これはキツい。返済内訳の利払い分が一気に増えてる……」
「我が家は信用力が高かったみたいで、0.15%上げで済みました(ピース)」

 といった投稿が相次いだ。

「結論から言うと、信用力で差がついたというのは間違いです。融資を受けた“時期”によって、ユーザー間で引き上げ幅に差が出ることになりました」

 そう解説するのは、住宅ローン比較診断サービスの「モゲチェック」を手掛ける、住宅ローンアナリストの塩澤崇氏だ。

「住信SBIネット銀行は長らく2.775%としていた基準金利を、日銀のマイナス金利解除を受け、2024年5月に2.875%と、0.1%引き上げています。7月の日銀の利上げを受け、10月には基準金利をさらに0.15%引き上げ3.025%としたので、トータルで0.25%基準金利を引き上げたわけですが、今年5月以降に融資を受けた人は、既に基準金利が0.1%上がった状態で融資を受けているため、今回は0.15%アップに留まっているというカラクリです」

“見せかけの低金利”

 ちなみに、適用金利を巡っては、こんな“落とし穴”も。

「10月に入ってから、メガバンク4行のうち、“三菱UFJ銀行とみずほ銀行は適用金利を据え置き、三井住友銀行とりそな銀行は引き上げた”と報じたメディアが多かったのですが、実はこれは正確ではありません」(塩澤氏)

 実は、4行のうち“金利据え置き”と報じられた「みずほ銀行」は、新規顧客向けと既存顧客向けに二重の基準金利を設けているというのだ。

「見掛けの適用金利は三菱UFJ銀行と同じく低く設定されていますが、半年後には自動的に既存顧客向けの基準金利が適用されるため、実際に低金利の恩恵を受けられるのも約半年間だけということになります」(同)

 住宅ローンの利用者が「損をしないため」の予備知識や情報が、ますます複雑化しているといえる。

「借り換え」でメリットが生まれる条件は?

 一方、適用金利の“格差”は「借り換え」という手段で解決できるケースもあるという。

「少し宣伝になってしまいますが、モゲチェックが10月限定で提供中のキャンペーンを利用すると、新規でも借り換えでも0.29%の変動金利で融資を受けることができます。基準金利引き上げ後の適用金利が0.525%以上の方は、新たに発生する融資手数料を加味しても“借り換えがお得”という計算になります」(塩澤氏)

 塩澤氏の計算によると、

「返済期間のトータルで、適用金利が0.525%の人では約6万円、0.575%で約30万円、0.625%で約54万円、0.775%では約116万円の節約になります。今後日銀が利上げした場合ですが、みなさんが返済中の住宅ローン金利も上がるため、借り換え先ローンとの金利差が縮まることはありません。現時点で金利が下がるのであれば、借り換えしない手はないのです。」(同)

 算出条件は「元本3000万円、返済期間が30年以上」。元本や返済期間がさらに高額/長期間の場合はより借り換えメリットが大きくなるそうだ。

 日銀は、経済状況が許せば「1.0%程度」までの利上げを視野に入れているとも言われている。金利の先高観があるからこそ、住宅ローンは計画的に、そしてなるべくお得に利用したいものだ。

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 この記事の前編では、7月の「日銀利上げ」を受け、適用金利を引き上げた銀行と、据え置いた銀行で、既にユーザー獲得数に差が出始めているという「金利競争」の最新レポートや、そうまでして銀行が新規ユーザー獲得に躍起になる理由など、いま知りたい「住宅ローンのなぜ」を解説している。

デイリー新潮編集部