新卒社員の「3年後定着率」が高い会社ランキング

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(写真:マハロ/PIXTA)

10月に入り、多くの企業で内定式が開かれている。社会人としての第一歩を意識して、気持ちを新たにした学生も多いことだろう。しかし、そうして入社した新卒社員でも、約3割が入社後3年以内に離職するとされている。

また、学生優位の「売り手市場」や転職市場の拡大といった事情もあり、転職理由も多様化している。最近は、労働環境は良好でもやりがいや成長の実感がわかない企業を指す「ゆるブラック企業」 といったフレーズも出てきている。

しかし、新卒社員をしっかりつなぎとめている企業もある。そこで今回は、新卒社員の3年後定着率が高い企業をランキング化し、上位企業の傾向や特徴的な取り組みと併せて紹介する。

対象は『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2024年版掲載情報のうち、2020年4月の入社人数(3人以上)と3年後の2023年4月1日時点の在籍者数を開示している1240社。なお、『CSR企業総覧(ランキング&集計編)』2024年版には、800位までの同ランキングを掲載している。

定着率100%だったのは107社


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ランキング1位は定着率100%で107社が並んだ。うち、2020年4月の新卒入社者が最多だったのは、リース大手の三菱HCキャピタルで89人(旧三菱UFJリースと旧日立キャピタルの合算値)。

同社は、通信教育の補助や奨励資格の取得支援のほか、社員が選考を経て希望する部署に異動できる社内公募制度、海外事業を担う人材の育成を目的として、約1年間海外拠点に社員を派遣する海外トレーニー派遣制度など、社員の自律的な挑戦を支援する制度を多く設けている。

実際に、同社の従業員1人当たりの年間教育研修費用は11万円、同時間は31時間と高水準だ。有給休暇取得率は56.7%と、『CSR企業総覧』収録企業の中ではやや低めだが、若手の挑戦を後押しする環境を整え、「ゆるブラ」離職を防いでいるとも考えられる。

次に多いのは任天堂で84人。業界内での高いポジションや新卒社員の志望度の高さに加え、有休取得率は87.7%と労働環境も良好だ。副業・兼業制度を設けているほか、社内制度において婚姻関係に相当する同性パートナーがいる社員を通常の婚姻と等しく扱うパートナーシップ制度を導入するなど、多様な働き方・価値観を受容する制度を整備している点も特徴だ。

医薬品国内大手のアステラス製薬は60人。コアタイムなしのフレックスタイム制度や、充実したメンター・メンティー制度を導入している。年間総労働時間は1812.9時間、残業時間は月7.4時間と効率的な働き方を実現している。また、女性リーダー層育成に特化した各種プログラムの実施や、男性社員の育児参画を促す活動など、ダイバーシティ推進にも取り組む。実際に、同社の女性管理職比率は15%と高水準だ。

女性に対象を絞った定着率ランキング

以下、定着率100%の企業のうち、新卒入社者が多い順に、三菱地所(45人)、カシオ計算機(42人)、NTTアーバンソリューションズ(36人)、住友大阪セメント(31人)、理研ビタミン(30人)、JCRファーマ(29人)と続く。

惜しくも定着率100%に届かなかった上位企業には、インターネットイニシアティブ(99.1%、116人)、ジーエス・ユアサ コーポレーション(98.9%、95人)、トクヤマ(98.8%、83人)などが並んだ。

このほか、女性に対象を絞った定着率ランキングを見ると、1位となる定着率100%は223社。女性新卒入社者が多い順に、三菱HCキャピタル(42人)、インターネットイニシアティブ(36人)、コクヨ(36人)、ライオン(34人)と続く。

また、上記のランキングは全上場企業を対象としているが、中堅上場企業に絞ってランキングした場合、定着率100%の1位は82社。男女合計の新卒入社者が多い順に、理研ビタミン(30人)、JCRファーマ(29人)、東洋合成工業(25人)、荒川化学工業(24人)、インフォコム(23人)、愛知時計電機(23人)が並んだ。いずれのランキングも『CSR企業総覧(ランキング&集計編)』2024年版に詳細を掲載している。

最後に業種別の状況を見ていく。全体の平均は79.5%(2023年4月時点)。業種別(集計対象が10社以上)では、電気・ガス業(93.7%)、医薬品(93.4%)、精密機器(92.9%)などが高い。一方で、証券・商品先物(60.5%)、小売業(64.2%)、サービス業(66.5%)、パルプ・紙(74.2%)、不動産業(74.3%)などは比較的低かった。

しかし、平均値が低い業種にあっても、高い定着率を維持している企業はある。不動産業では、総合不動産大手の三菱地所がトップで定着率100%。人事評価の基準を公開しているだけでなく、評価結果を本人にも公開している。また、業務時間の10%以上を業務外のチャレンジに充てる制度を導入しており、その活動も評価の対象としている。

サービス業では、産業廃棄物処理大手のダイセキがトップでこちらも定着率100%。新規事業ビジネスコンクールを年1回開催し、選考を経たうえで優れたアイデアをプロジェクトとして事業化する取り組みを継続している。

そのほか、小売業では北海道地盤の食品スーパーのダイイチやAOKIホールディングスが定着率100%。鉄鋼では愛知製鋼が94.3%で本ランキングにおける業種トップだった。

ランキング上位企業の特徴

新卒3年後定着率の推移を見ると、2017年4月時点の83.7%(『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2018年版)から、2023年4月時点の79.5%へと、徐々に低下している。背景には、「売り手市場」や転職市場の拡大といった外部環境だけでなく、新卒社員のキャリア感の変化もあるだろう。

一方で、企業側から見れば、こうした早期離職の防止は重大な経営課題の1つだ。本ランキング上位企業の特徴として、労働環境の整備、業界内でのプレゼンス向上のほか、若手の成長に関する取り組みを拡充している企業が多い。例えば、社内外における兼業・副業制度や、社内のポジションを公募する手挙げ制度などの導入が進んでいる。

もし将来的に「転職が当たり前」時代が来たとしても、企業の人材マネジメント力を評価する指標として「新卒3年後定着率」は有用だろう。本ランキングも、就職活動中の学生にとってはよい職場選びに、企業にとっては今後の人事戦略に、引き続き活用いただきたい。

新卒3年後定着率の高い会社ランキング


新卒3年後定着率の高い会社ランキング


新卒3年後定着率の高い会社ランキング


新卒3年後定着率の高い会社ランキング


新卒3年後定着率の高い会社ランキング


新卒3年後定着率の高い会社ランキング


新卒3年後定着率・業種別平均


(村山 颯志郎 : 東洋経済『CSR企業総覧』編集長)