「ラーメン店と好対照、中華料理店の倒産が低水準の謎」に注目(写真はイメージ)

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ラーメン店の倒産が過去最多ペースなのに、街の中華料理店の倒産が過去2番目に少ない不思議な現象が起こっている。同じ「中華」なのになぜ?

この謎解きに迫り、東京商工リサーチが2024年9月29日、「ラーメン店と好対照、中華料理店の倒産が低水準の謎」という調査を発表した。

かつては中華料理店のほうが倒産は多かったのに、逆転勝ちしたのには理由があった。調査担当者に聞くと。

ラーメン店倒産、「とんこつ」「醤油・中華」「みそ」のスープ味に関係なし

東京商工リサーチによると、2024年1〜8月の倒産は、ラーメン店が44件(前年同期比57%増)で、2009年以降の年間最多に達する勢いだ。一方、中華料理店は7件(同36%減)で、コロナ禍の資金繰り支援で最少だった2022年の4件に次いで2番目に低い水準だ【図表】。

同じ「中華」なのに、この差はどこからくるのか。

近年、ラーメン店の倒産急増は、新規参入が相次ぎ激戦市場になったことや、2020年のコロナ禍の休業要請が響いている。飲食業界はテイクアウトなどでしのいだが、ラーメンをテイクアウトすると麺がのびてしまう。さらに、物価高の直撃を受けても提供価格に「1000円の壁」が立ちはだかる。

興味深いことに、同社の別の調査「2024年1〜9月のラーメン店倒産 47件で年間最多を更新中」(2024年10月4日)によると、倒産したラーメン店のスープの種類は「醤油・中華」「とんこつ」「みそ」がほぼ同じ割合だった。つまり、スープ味に差はなく、ジャンルを問わず、客を味と量、価格で引き付けなければ生き残りが難しいことを示している。

一方、中華料理店の倒産は2010年まではラーメン店より多かった【図表】。だが、テレビで中華料理が取り上げられ、四川料理や町中華の人気が盛り上がると、本場の味を求める「ガチ中華」ファンが中華料理店に押し寄せた。

大手チェーンも好調だ。「餃子の王将」の王将フードサービスの8月の月次売上高は88億7300万円で、創業以来の最高売上を記録。「日高屋」を運営するハイデイ日高の8月度売上高も前年同月比11.7%増となり、客数が伸びている。

東京商工リサーチではこう分析している。

「ラーメン店の倒産が増えた要因は明白だ。参入障壁が低く、ブームに乗じた出店も多い。また、味や提供レシピには流行もある。物価高で食材や光熱費が上昇しても、値上げは『1000円の壁』を乗り越えるのは容易ではない。

一方、中華料理店も置かれた厳しい環境は同じだが、ラーメン店にない多彩なメニューがポイント。担々麺などの麺類から回鍋肉などの肉料理、野菜炒めなど多種の料理を提供できる。食材変更や量の調整が調理人の技量で工夫できる。大盛りで価格競争力を高めることも可能で、中華料理ならではの対応力が『付加価値』を高める隠し味になっている」

ラーメン1杯「1000円の壁」がどんどん高くなり...

J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった東京商工リサーチ情報部の櫻井浩樹さんに話を聞いた。

――まず、ラーメン店の倒産が過去最多の理由はズバリ、何でしょうか。

櫻井浩樹さん 飲食店は他業種に比べ、初期投資が少なく、専門的な資格が不要(食品衛生責任者などは必要ですが)なため新規参入が多く、競争が激しいことがあげられます。

ラーメン業界では「1000円の壁」という言葉がありますが、文字通り1杯の価格が1000円を超えると客足が伸びなくなります。ただ、ラーメン1杯に1000円以上の値付け(価値)は言葉以上にハードルが高く、乗り越えることが難しくなっています。

お客のニーズは多様です。さまざまな具材を乗せて価格が高いものを好むお客もいれば、単純な麺とチャーシュー、ネギを好むお客もいます。店舗周辺の街並み、お客の職業、収入などのマーケティングも大切ですが、このあたりにギャップがあるかもしれません。

――2つ目のリポートには、ラーメン店の倒産にスープ味は関係なかったとあります。しかし、「とんこつ味」(九州方面)と「みそ味」(北海道方面)といった伝統の味と地域には関係はないのでしょか。

櫻井浩樹さん 味と地域に明確な相関は見られません。「とんこつ」や「醤油」など、人気の幅が広いラーメン店の倒産が多いのは、都市部で店舗数も多いのが理由だと思います。

例えば、東京で博多ラーメンなどを展開するパターンや、大阪で味噌ラーメンなどを出店するパターンもあります。倒産は、新規参入が多く、競争が厳しい都市部に多い傾向があるので、それを反映した結果となりました。

「餃子の王将」会員カード110万人、ロイヤルカスタマー獲得戦略が成功

――中華料理店がラーメン店より強くなった理由に、2010年までは倒産がラーメン店より多かったが、メディアで中華料理が取り上げられ、四川料理や町中華人気が高まったからとありました。しかし、家族で行けるファミリー食堂的な要素が一番大きいのではないでしょうか。

櫻井浩樹さん ラーメン店は、ラーメン1杯と水だけで済ます層が多いです。一人客が多く、客回転が速いことが特徴としてあげられます。一方、ご指摘の通り、中華料理店は多彩なメニューがあり、家族などで利用する場合は、中華料理店のほうが行きやすいと思います。

中華料理店は、人気が高まったことに加え、家族でも入りやすい、コスト高を材料配分の変更で対応しやすい、お酒などのドリンクやサイドメニューで売上を確保しやすい、などの利点があり、ラーメン店と比べて付加価値が高い(利益率がよい)優位性があります。

また、昔からの古いお店が街には多くあり、家賃・地代の負担が軽いことも倒産件数の差となって表れたと思います。ただ、こうしたメリットも、後継者問題が出てくると喜んでばかりではいられなくなります。

――「餃子の王将」とか「日高屋」といった中華料理の巨大チェーン店が好調な理由は、ズバリ何でしょうか。

櫻井浩樹さん 餃子の王将や、日高屋などのチェーン店は、ラーメンの販売だけではなく、季節限定品やサイドメニューなどの多様なメニューを取り揃えています。豊富なメニューによって、いわゆる「ちょい飲み」需要にも応えています。また、どこの店でも同じメニュー、同じ価格(割安感)という安心感があり、消費者から支持されているのでないでしょうか。

戦略的な販売促進策も進めています。たとえば、餃子の王将では会員カードの「ぎょうざ倶楽部」の会員数が最近、109万4000人と過去最高を更新。会計で5%割引、7%割引に加え、次回使える税込100円割引券・250円割引券、オリジナル限定グッズがもらえるキャンペーンもあります。

こうした施策で、ロイヤルカスタマーを獲得し、業績に寄与しているとも考えられます。

客が何度も足を運ぶのは結局「味」 「愛嬌」「入店のしやすさ」も大切

――今後、ラーメン店が生き残るにはどんな工夫が必要だと思いますか。

櫻井浩樹さん ラーメン店の生き残りには、味や価格、盛り付けなどによる差別化や、運営の効率化が不可欠です。差別化という点では、味やメニューに独自性を出したり、専門性を高めて特定のターゲット層にフォーカスしたりすることも必要でしょう。

また、店舗運営の効率化では、日高屋はタッチパネル式オーダー、配膳ロボットの導入推進などに力をいれており、話題性と同時に少人数でも運営できる店づくりを進めています。

ただ、客が何度も足を運ぶのは、結局「味」です。それと極めて曖昧ですが、「愛嬌」や「入店のしやすさ」という面も無視できません。美味しくても愛想がない、怒鳴り声が聞こえるような店には足が遠のきます。

ラーメンは身近な国民食であるだけに、そこには家族が楽しんで食事できる優しい雰囲気も必要と思います。

――なるほど。今回の調査で特に指摘しておきたいことがありますか。

櫻井浩樹さん ラーメン店は、テレビや雑誌などで取り上げられるような高級店や、贅沢な食材を乗せたお店もありますが、基本は安心して食べられるお店にお客の足は向きます。ブームに左右されない味と値段を突き詰めることが必要です。

ただ、光熱費などのコストアップをどのように吸収するか。コストダウンには限界があり、そこがお客の納得する価格との勝負になると思います。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)