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2024年上半期(1月〜6月)に『婦人公論.jp』で大きな反響を得た記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(初公開日:2024年05月31日)******大小1万4000余の島々からなる日本列島。ユーラシア大陸から「独立」するまでの過程や、鉄や黄金などの列島がもつ資源についてなど、地学教育の第一人者である伊藤孝氏が解説した『日本列島はすごい』(中公新書)より、日本列島史の一部をご紹介します。今回は、陸地ができる仕組みについて。地球の表面積の30%しかない陸地の作られ方とは――。

【図】世界のプレート分布

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削り続けられる陸

小学校で「地球の表面積の70%が海、30%が陸」と習ったときの印象はとくに記憶にない。別段驚かなかったのだろう。大学に入り、「海の平均の深さは4000m、陸の平均の高さは800m」と教わったときは少しばかり驚いた。海は広くて深い、陸は狭くて低い、そのように意識をしだすと、何か足元が心もとない感覚にならないだろうか。

今、海に行くと人工物で守られていない海岸を見つけるのは難しい。港はコンクリートで覆われ、テトラポッドが置かれていない砂浜は貴重な存在となった。テトラポッドは大荒れの天候のときに陸が海水に削られることを防いでくれている。

また、川に目を転じても、台風が直撃し暴風雨に見舞われれば、普段の清流も濁流となる。陸の一部をかたちづくっていた土壌や岩石が削られ、水の営力で川に運ばれ、海に運搬されるからである。

このように、陸地は徐々に削られているのだ。しかし、そのような働きが何十億年も延々と続いてきたのに、いまだに陸が30%もあるのはなぜだろう。むしろ陸地が残っていることに驚愕すべきではないのか? すべて削られて「陸のない地球」、映画『ウォーターワールド』のようになってもおかしくないはずだ。

この問題の不思議さは、図1-3によってさらに増す。これは地球全体を対象として標高・水深ごとの累積面積を表現したものだ。この図を見ると「陸の危うさ・はかなさ」がより鮮明になる。しかし、いったいなぜ陸が残っているのか? 簡潔に述べると、それは陸を削る侵食作用に均衡するように、「陸を作る作用」が働いているからである。


(図1-3)地球全体を対象とした標高・水深ごとの累積面積(中西正男・沖野郷子『海洋底地球科学』<東京大学出版会、2016>より引用)

陸の作られ方

ここで世界のプレート分布を見てみよう(図1-4)。各プレートが様々な方向へ様々な速度で移動していること、プレート境界は、拡大境界、沈み込み境界、横ずれ境界に分類できることがわかるだろう。

沈み込んだ海洋プレートが放出した水によりマントルの一部が溶け、そのマグマによって密度の小さい地殻ができたり、もしくは地表に溶岩や火砕物が噴き出る(火山の噴火、図1-5)。また、一部の海洋プレートの沈み込み境界では、プレートに載って運ばれてきた堆積物や海溝に流れ込んだ砂などが、海溝の陸側にくっついて押し上げていく(付加作用:図1-5中の□部分)。そして、さらに、地殻が横方向から圧縮されると盛り上がる。以上が、陸を作る代表的な作用として挙げられる。そして極端に高い山の存在は、大陸地殻どうしの衝突によるものだ。現在もインドとユーラシア大陸は押し合っており、その結果、険しいヒマラヤ山脈がそびえ立つ。


(図1-5)島弧―海溝系の模式図(山崎晴雄『富士山はどうしてそこにあるのか──地形から見る日本列島史』<NHK出版、2019>より引用し、一部修正)

陸を構成する地殻は地球全体で考えると密度が小さく、マントルに浮いている存在である。

仮に陸の表面が削られ少々薄くなったとしても、マントルとの新たな均衡を保つように陸が浮き上がる。そのようなわけで、雨風がせっせと陸を削ろうとも、地球に陸は残り続けているというわけだ。


『日本列島はすごい――水・森林・黄金を生んだ大地』(著:伊藤孝/中公新書)

土地の地質を見てみれば、先に挙げたどの作用により陸になっているか、知る手がかりになる。たとえば、地質図Naviの親サイト「20万分1日本シームレス地質図V2」(以下、シームレス地質図V2)で四国と中国を見てみよう。ここから、四国の南半分はきれいに東西に延びる付加体の縞でできていることがわかる(図1-6上)。すなわち、南半分は海溝の陸側にくっついた付加作用でできたものだ。南に行くほど岩石の年代が若くなることから、のちの時代にくっついたものとわかる。

一方、中国はがらっと変わり、付加体の分布は限られ、昔のマグマ溜まりやマグマ溜まりから噴出した火成岩類(図1-6下)からなっており、おもにマグマの働きによりできた陸であることがわかる。このようにわれわれが生活の舞台とし日々踏みしめている大地は、場所によってでき方やできた時代が大きく異なる。


(図1-6)列島を作る岩石 上が付加体、下が火成岩類の分布を示す20万分の1日本シームレス地質図V2(産総研地質調査総合センター)を使用し、筆者が岩石名を加筆修正したものである。当該ページのURLは以下の通り。 https://gbank.gsj.jp/seamless/v2/viewer/?base=CHIRIIN_BLANK¢er=34.0754%2C133.4811&z=8&lithofilter=30https://gbank.gsj.jp/seamless/v2/viewer/?base=CHIRIIN_BLANK¢er=34.0754%2C133.4811&z=8&lithofilter=3fc0

※本稿は、『日本列島はすごい――水・森林・黄金を生んだ大地』(中公新書)の一部を再編集したものです