やっぱり麻生太郎が全て握っていた…進次郎が平伏!あれ、派閥解消は?「キングメーカーの高笑いが聞こえる」総裁選

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 共同通信によると、自民党総裁選に立候補している小泉進次郎氏が麻生太郎と面会し、支援をお願いした。かつて派閥解消を主張していた小泉氏が麻生派に「力を貸してください」と平伏したことに、永田町では疑問の声があがる。

 当初は小泉進次郎優位とされてきた今回の総裁選だが、もどと泡沫候補とされてきた高市早苗氏が支持を伸ばしてきた。各社世論調査でも石破茂氏と高市が決選投票に残る可能性が高いとする結果が出ており、陣営からは焦りが見える。

 経済誌プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

石破と麻生の因縁

 自民党総裁選に出馬した石破茂氏は、麻生氏と大きく距離のある政治家だ。麻生氏が首相の座にあった2009年に、石破氏は、麻生氏に総理退陣を迫った経緯がある。

 今回の石破陣営と麻生陣営が同じ投票行動にでることはないだろう。

 決選投票に残るとされている石破氏、高市氏、小泉氏のうち、石破氏の2位以上はすべてのメディアが報じているところだ。となると、2位に滑り込む高市氏か、小泉氏のどちらかが麻生氏の支援を決選投票では受けることになる。

進次郎が総理になったら亡命する

 また、現代ビジネス(9月22日)において<「進次郎が総理になったら俺は亡命する」/麻生太郎は最近、親しい記者や議員に冗談でこうこぼしているという>から、これが事実なら、麻生氏は高市氏が決選投票における「本命」候補ということになる。

 ここまで自由に動けなくなった麻生氏の姿は、非常に珍しいことである。これまでの麻生氏の得意技は、「勝ち馬」をいくつか見極めて、どちらに転んでも自分が損をしないように、あまりメディアの前に出ず控えめに動いておいて実権を握る、というやり方だった。

 前回の自民党総裁選挙では、この麻生氏のやり方が特に際立っていた。前回の総裁選には、岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏の3人が立候補した。当時、自民党内では3人の「キングメーカー」と呼ばれる重要な人物がいた。彼らは、総裁選の結果に大きな影響を与える力を持っていたのである。

 まず1人目のキングメーカーは、安倍晋三元首相である。安倍氏は高市氏を強く応援していたが、同時に岸田氏との関係も大切にしていた。そのため、総裁選の決選投票では岸田氏に投票し、結果的に岸田氏が総理大臣になった後、安倍氏は岸田政権内で重要な役割を果たす立場に収まった。

自民党のキングメーカー、安倍と麻生のバランスが崩壊

 安倍氏は高市氏をあれだけ熱心に応援していたにもかかわらず、「安倍派は岸田政権の中心的な支えとなる」と堂々と言い切った。その柔軟な政治手腕は見事である。

 次に2人目のキングメーカーは、麻生氏である。麻生氏は岸田氏を応援していたが、同時に自分の派閥に所属する河野氏とも良好な関係を保っていた。総裁選では岸田氏が勝利したため、麻生氏も岸田政権内で重要な立場を確保することができた。もしも決選投票で河野氏が勝利していた場合でも、河野氏は麻生派に所属していたため、麻生氏はどちらの結果になっても主流派として影響力を持ち続けていたはずだ。つまり、安倍氏と麻生氏は、両方の候補者に関係を築いておき、どちらが勝っても自分たちが有利になるように立ち回っていたのである。

 このように、麻生氏と安倍氏は政治の世界で巧妙にバランスを取ることに長けており、常に自分たちが有利な立場に立てるように行動してきた。しかし、今回はその麻生氏がこれまでのように自由に動けなくなっている。

 前回の総裁選で、貧乏くじを引いたのは菅義偉氏である。菅氏は、総裁選挙で河野太郎氏だけを一心に応援し、他の候補者である岸田文雄氏や高市早苗氏とは距離を置いていた。しかし、河野氏が敗北し、岸田政権が誕生したため、菅氏はこの3年間、非主流派に追いやられ、あまり重要な役割を果たせない「冷飯を食う」状態が続いている。

菅義偉にとって「総理なられては困る人」とは

 同じく、二階派も似たような状況にある。二階派は途中で、河野氏だけを応援するのは危険だと気づき、急いで派閥に所属する議員を他の候補者の陣営にも送り込んだが、時すでに遅く、その努力が報われることはなかった。結果、二階派もまた、冷飯を食い続けてきた。

 今回の総裁選では、菅氏の戦略が二股をかけているような状態だ。菅氏は、小泉進次郎氏を応援しつつも、石破茂氏とも親しい関係を保っている。つまり、どちらかが勝利すれば、菅氏は主流派に返り咲く可能性があるというわけだ。しかし、もしも高市氏が当選してしまった場合は、菅氏にとって都合の悪い状況になるだろう。

 また、今回の話とは少しずれるが、非主流派に固定されつつあるとされるのが岸田派である。岸田派は、仲の悪い菅氏の陣営にいる進次郎氏や石破氏を応援することには抵抗がある。

麻生太郎、巧妙すぎた

 さらに、もう一人の候補者である高市氏は、岸田派の基盤となっている財務省を批判し軽視する姿勢を隠していない。そのため、岸田派としては一つのまとまった投票行動をとることになるかもしれないが、心から支持できる候補者はいないのが現実であろう。

<「菅さん、麻生さん、森さんの名前が出てくるような総裁選はやめなきゃならん」「長老支配はよくない」/総裁選への不出馬を表明した岸田文雄首相は周囲にこう漏らす。岸田首相が挙げた名前は菅義偉、麻生太郎、森喜朗の首相経験者3氏のこと。これまで党内への抜群の影響力で「キングメーカー」と呼ばれてきた面々だ>(毎日、9月20日)という報道があった。

 岸田氏の立場からすれば、派閥政治を否定しているはずの菅義偉氏こそが、実際には派閥のトップとして振る舞っているように見えているのだろう。今回の総裁選挙で、麻生氏は「今回は河野氏を推す」と言いながらも、実際には様々な候補者に支援の手を広げている。例えば、麻生氏は自分の派閥に属する甘利明氏を、小林鷹之陣営に送り込んだり、上川陽子氏の推薦人として麻生派の名前が挙がるなど、全9つの陣営のうち、石破茂氏と林芳正氏を除いた7つの陣営に、推薦人として麻生派が加わっているのだ。

麻生派にいながらろくに麻生派からの支援をもらえない河野太郎

 このような状況を見ると、麻生派からロクな支援をもらえない河野氏は一体この事態をどう受け止めているのか、少し心配になるほどである。まるで麻生氏が多くの候補者に手を差し伸べ、どの候補が勝っても有利な立場を保とうとしているかのようだ。しかし、そもそも河野氏自身が、支持基盤の広がりを欠いていることも、この複雑な状況の一因となっている。

 麻生氏は普段の発言からもわかるように、小泉進次郎氏や石破茂氏に対して否定的な評価をしている。そのため、麻生氏にとって連携が可能なのは、現時点では高市早苗氏しかいないという、かなり心もとない状況である。

 こうした状況下では、各陣営が有利になるようなことしか言わないため、取材をする際には、慎重に情報を見極める必要があるだろう。たとえば、高市陣営や進次郎陣営は、自分こそが決選投票に進む候補者だと主張し、ライバルの石破氏は議員の支持が少ないため、決選投票では勝てないと考えている。したがって、勝ち馬に乗りたいなら自分に投票するべきだと主張しているに違いない。

この状況をまとめられるのは麻生太郎しかいない

 一方、石破陣営にしてみれば、派閥のしがらみから解放された議員たちが考えるのは、次の選挙に勝てる候補が誰かという点である。石破陣営は、極端な考えを持つ高市氏では、国民からの支持を得られず、選挙に負けてしまうのではないかと懸念している。また、進次郎氏に対しては、まだ政治経験が浅いため、メディアの格好の標的となり、次の選挙まで持ちこたえられないのではないか、といった主張を水面下でしていることだろう。

 この総裁選挙は、大混戦が予想されており、決選投票に進む候補者が誰になるかについても、報道機関によって異なる予測がされている。自民党内では、決選投票を見据えた神経戦が繰り広げられている。

 こうした局面であっても、非主流派になりかけた麻生派などのグループもまとまって行動すれば、一挙に主流派に返り咲くことができる。例えば、岸田派、茂木派、そして麻生派の今回非主流に転落危機のある3つの派閥が事前に協力してまとまって動けば、決選投票の結果は、彼らによって決定することになるだろう。この3つの派閥は、それぞれ決選投票に進む候補者がいないため、事前に協議しやすい状況にある。そして、これらの派閥をまとめることができるのは、麻生氏以外にはいない。

 このように、まだいくつもの選択肢や可能性が残されているものの、最終的な決選投票では、非主流派になると噂されていた麻生氏が再び権力の中心に居続けることも、十分に考えられるのである。実際、麻生氏は総裁選が始まる前の都内で行われた会合(9月10日)で挨拶をし、「これまでの総裁選は、幕が上がった瞬間に芝居は終わっていた」と述べた。そして、「今回の芝居はどうなるかわからない。主役も決まっていないし、配役もまだ揃っていない」と指摘している。

 今回の総裁選は、配役はそろったものの、決選投票に誰が残るのかもまだわからない芝居がどうなるかがわからない状態だ。しかし、決選投票においては、主役の一人が麻生氏であることは間違い無いだろう。