〈独占・野田佳彦元首相〉もう“立憲共産党”とは呼ばせない「中道、そしてやや右寄りのゾーンを取り込む」「裏金や世襲議員の跋扈といった古い政治のドブさらいをします」

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9月23日投開票の立憲民主党代表選。「刷新感が薄い」とも言われるなか、政権交代を目指すには何より豊富な政治経験と安心感が必要と背中を押されたのが、元総理の野田佳彦氏(67)。政権交代のための野党共闘から政策協定、さらには被選挙権の年齢引き下げ、二世議員の制限、そして民主党時代の失敗まで、その決意を「たかまつななのSocial Action!」で語った。

【画像】時事YouTuberのたかまつなな氏

若手や中堅議員に押されて立候補を決断

たかまつ 立憲民主党代表選に立候補されましたね。ご決断の理由は?

野田 同時期に自民党総裁選があり、新しい総理大臣はきっとご祝儀相場があるうちに解散総選挙をやるはずです。つまり、今、立憲民主党の代表になるということは、総選挙で政権を取りに行く戦いにチャレンジすることですから、元総理としての一定の経験値に基づく安心感も必要と思い、立候補することに決めました。

たかまつ 安心感がないと、政権交代は難しいと考えられたんですね。

野田 もちろん、刷新感はあったほうがいいと思いますが、党内には安心感を求める声が多数あり、それを重く受け止めたということです。

たかまつ どういった方々の要請が多かったんですか。

野田 比較的、若手、中堅が多かったですね。繰り返しになりますが、刷新感は大事ですので、私が当選させていただいたら、そういった刷新感のあるメンバーを登用していきたいと思っています。政権を取りに行くと同時に、立憲民主党が継続していくためには、有為な人材を育成していくことも必要なので、その橋渡し役もやるつもりです。

たかまつ 代表になったらまず何から着手しますか。

野田 やはり政治を正さないと日本はよくならない。通常国会は終わってしまいましたが、自民党の裏金問題の真相究明はできなかったし、けじめはまだついていません。政治資金規正法はザル法なので、まずはこれのやり直しですね。もちろん、その先の政治改革まで進めていきたい。ひとつは被選挙権改革です。

被選挙権の年齢を引き下げ、若者の声を議会に

たかまつ 被選挙権の年齢引き下げということですか。

野田 そうです。今、衆院は25歳、参院は30歳ですけど、例えばこの年齢をそれぞれ18歳、23歳に引き下げてもいいと思います。日本は今、シルバー民主主義になっていますよね。高齢者の投票率が高い分、上の世代の民意が反映されがちなので、もっと若い年代の声を政治に反映させるためにも被選挙権の年齢を引き下げるべきだと考えています。

たかまつ 私たちがやっている笑下村塾は、若い人の政治参画を促す活動をしているのですが、海外に取材に行くと、高校生が議員をやっていたりするんですよ。被選挙権の年齢引き下げは若者の声がもっと政治に届きやすくなるので、ぜひ実現していただきたいです。

野田 私も訴えていきます。

たかまつ 私たちが活動の中で感じるのは、社会は変えられないと思っている子供たちが非常に多いこと。欧州では、学校内民主主義というのが浸透していて、例えば給食や制服のルールを変更するなど、学校内のことは自分たちで決めるという発想がある。学校で「自分たちでも変えられる」という実感を持つと、それが地域に広がり、社会を変えることに繋がっていくんですよね。

野田 面白いですね。ルール変更に主体的に参加した経験の積み重ねが、広く社会を変えていく原動力になりますから。

被選挙権年齢引き下げに加え、世襲議員も制限すべきだと考えています。志ある候補者たちの足かせになっているのが、地盤、看板、カバンを引き継いだ二世議員たち。彼らが親と同じ選挙区から立候補できないような措置を検討します。

また、現在のルールでは、議員である親がパーティなどで貯め込んだ資金は、そのまま子に非課税で相続できる仕組みになっている。これでは志があっても軍資金がない若い立候補者は、スタートから太刀打ちできない。だた、これは公職選挙法があるので、自民党など他党との合意形成が必要になってきますが、例えば、法律が難しいなら内規でやるとか、実現するための方法論を模索したい。

「悪夢のような政権」と言われて

たかまつ 総理を目指すと仰いましたが、総理になったら何をしますか。

野田「信なくば立たず」ですから、まず政治を正します。特に、裏金のような汚れた政治とカネの問題をクリーンにすること、そして先ほど言った世襲政治が跳梁跋扈するような古い政治を払しょくすること。今回の自民党総裁選のように表紙だけ替える疑似政権交代では政治を正せないので、真の政権交代を目指し、その先頭に立つのが私の仕事かと。

国民の信頼を取り戻し、同時にやっていかなければならないのは、分厚い中間層の再建。私が総理だったときに「分厚い中間層を復活させる」ことをテーマに掲げましたが、それ以降、年々格差が広がって今は深刻な状態になっています。

例えば一世帯の平均所得が530万円とすると、それ以下の世帯が6割もいる。この収入の格差問題にはぜひともメスを入れたいですし、安倍元総理と党首討論で約束した議員定数削減も必ず実現したい。

たかまつ 民主党政権時代に、何を間違えられたと思いますか。

野田 党運営ですね。熟議を重ねて決め、決めた以上はそれに従うという文化が醸成できなかった。議論を尽くし、決めなきゃならない時期になっても、反対の人はそのまま反対、さらには党を出ていくグループもあった。

挙句には「悪夢のような政権」というレッテルを貼られてしまいましたけど、われわれがつくった子育て支援の拡充や高齢者福祉だけでなく、若年世帯に対する社会保障などは、自民党政権になっても踏襲されている。むしろ、横取りされたと言ってもいい。だから私たちの政権はそんなに否定されることもなかったと思ってますが、正当に評価してもらうように強く訴えなければならなかった、という反省はあります。

たかまつ 安全保障に関しても心配する声が少なからずあります。

野田 日米同盟が軸になってルールメイキングしながら、世界の繁栄と平和を実現していくというのが基本。そのルールメイキングに中国なども加わってもらい、力による現状変更はダメという世界的世論を作り上げていくのが日本の役割だと思います。私の前の前の政権のときに日米関係が壊れたときがありましたけど、その後、修復はできたと思っています。そんな経験を踏まえ、「もしトラ」でも「もしハリ」でも対応できるように準備はしたい。

中道からやや右寄りのゾーンを取り込む

たかまつ 枝野(幸男)さん、泉(健太)さんが代表を務められたときは、何がまずかったと思いますか。

野田 人の課題を私が言うのも…おふたりともそれぞれの立場で頑張られたと思いますよ。ただ、これから政権を取りに行こうとするときに、中道からやや左とのお付き合いが強すぎるという偏ったイメージができあがってしまいました。

しかし、政権交代の機運が高まった今、本来は自民党を支持していたけど離れていった保守層はかなりいるので、その人たちに届くようなメッセージを送りたい。つまり、中道から右寄りの人たちを視野に入れて、政権を取りに行くのが基本戦略です。現在は枝野さんも泉さんも同じ考えだと思いますが、私の持ち味を生かせるのは、中道、そしてやや右寄りのゾーンなんですよ。 

たかまつ 政権交代を目指すうえで、野党共闘や政策協定はどう考えていますか。

野田 それは選挙が終わってから。

たかまつ 政策協定を結び、選挙のときに有権者に判断してもらうということではしないのですか?

野田 各党は党勢拡大のために自分たちの政策を強く訴えるはずです。ただ、政治改革については野党の考えはほぼ一致していますし、教育無償化、選択的夫婦別姓など重なる政策もあります。

だから政策協定というより、選挙結果が出た後で、それぞれの議席に応じ政権内で一緒にこういうテーマをやりましょうとか、あるいは閣外で協力をいただくとか、話し合いによっていろいろなバリエーションが出てきます。

それでも、選挙区調整はできる限りやれるように、対話を欠かさない関係を構築しておくことが基本じゃないでしょうか。総選挙で自民党・公明党を過半数割れに追い込むのが我々の基本戦略ですから。

“立憲共産党”批判に思うこと

たかまつ 自民党は「立憲共産党」と批判しています。政策協定とはいわずとも、有権者も共産党との距離を知りたいと思いますし、維新との距離も気になりますね。

野田 常に対話できる関係ですよ、どの党とも。野党同士の対立は自民党を喜ばせるだけだし、反対に我々が対話している姿は、彼らには脅威なんですね。常に対話を続けた結果、一緒の政権になる党があるかもしれないし、あるいは選挙区調整だけで、特定の法案を後押ししてくれる関係だけに終わるかもしれない。

立憲は野党第1党として、包容力のある党にしていかなければなりません。現在、自民党の一強を許しているのは「多弱」です。この「多弱」をまとめて大きな塊にしていくのが我々の役目、と考えています。

たかまつ 今回の立憲の代表選では消費税の減税を口にする人もいますが、野田さんはどうですか。

野田 低所得者の人には、払った消費税を還付する給付付き税額控除がスタートラインだと思います。財務大臣、内閣総理大臣を経験した立場からすると、財政が厳しいときの減税には慎重にならざるを得ません。

将来的な私のビジョンは、教育、医療、介護、障がい者福祉、子育て支援などのベーシックサービスには消費税を充て、それによって社会的安心を確保することなので、消費税ゼロ案には疑問があります。

たかまつ 消費税を維持することが、逆に安心感に繋がると。でも現実には、物価高に苦しんでいる人はたくさんいます。

野田 消費税については還付。それとは別に他の給付で支援することも考えられます。例えば金融所得課税強化策などで財源を作り、困っている人に給付することも一つの案。所得再分配はしっかりやったほうがいいと思います。

たかまつ 最後になりますが、政権交代の意気込みをお聞かせください。

野田 裏金がまかりとおり、世襲議員が跳梁跋扈するような古い政治のドブさらいをし、膿を出し切るその先頭に立ちたいと思っています。応援よろしくお願いします。

取材・文/たかまつなな 笑下村塾

取材の様子はYouTubeでもご覧いただけます