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新メンバーオーディションの審査に臨むtimeleszの3人。左から佐藤勝利菊池風磨松島聡(画像:timelesz公式YouTubeより)

timelesz(タイムレス)の新メンバー募集オーディションの様子を追う『timelesz project-AUDITION』(通称タイプロ)が配信開始され、Netflixで1位(日本のテレビ番組ランキング部門)になるなど、話題となっている。

今年の4月にSexy Zoneから改名したtimeleszのメンバー3人(佐藤勝利菊池風磨松島聡)が、候補生と対峙し新メンバーを自ら選んでいく番組だが、これが画期的な企画である。

ただ、オーディションの発表時点では、その前代未聞の試みに「ジャニーズ事務所の伝統を壊すもの」などとファンから多くの批判の声が飛んだ。


今回のオーディションに対し、賛否が巻き起こり、誹謗中傷も頻発する事態となった(画像:timelesz公式YouTubeより)

しかし蓋を開けてみると、筆者には、革新的ではあるものの、むしろ、ジャニーズ事務所の魂を大事に受け継いでいこうとするもののようにも思えた。特にその選考基準は、旧事務所が人を選ぶときの基準に、かなり似通ったものがある。

この企画の革新的な部分と、伝統を受け継ぐ部分は何なのか。そしてこの企画が浮かび上がらせる、3人がジャニーズアイドルとして生きてきた覚悟の重さについて考える。

「異例ずくめのオーディション」の全容

まずは何が革新的なのかを見ていこう。

そもそも、これまでのジャニーズ事務所の歴史の中で、デビューしたグループがメンバー増員を行うこと自体が初めてである。

そして、旧事務所時代はもちろん、タレントの多くがSTARTO ENTERTAINMENTに移籍した現在も、ジュニアというレッスン生のような時代を経て、選ばれたものがCDデビューをするというのが通例だ。

今回のオーディションは、その過程を経ていない者がいきなりメンバーになる可能性も大いにある。さらに、その様子が番組として公開されるとなると、異例ずくめである。

これまでも、ジャニーズJr.のオーディションの様子が放送されることはあった。実は筆者も、2004年にテレビ東京の『ya-ya-yah』という番組での公開オーディションを受験している。

もちろん番組内で選考の様子や結果は放送するものの、今回のようにドキュメンタリー番組としてじっくりと候補者の様子を追うようなものではなかった。

他にも岡田准一がデビューするきっかけとなった日本テレビ『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の「ジャニーズ予備校」のようなものはあったものの、あくまで番組内の企画といった印象で、今回のようにじっくりと時間をかけ、オリジナルのドキュメンタリー番組としてその選考の様子や基準を追うのは初めてのことである。それだけで十分に画期的だ。

さらに、これはジュニアのオーディションではなく、いきなりtimeleszという人気グループのメンバーになる者を探す試みだ。それは、timeleszの仲間探しとしての意味も持ち、本人たち主導で行われる。数あるオーディション番組の中でも、メンバー本人が選考に関わるのはなかなかないことである。

ただ、かなり革新的なことをしている一方で、実は、旧事務所から受け継いでいる魂のようなものも随所に感じることができる。それが特に顕著に表れるのが、彼らが人を選ぶときの基準である。


かつての自分たちのオーディション時を懐かしむ3人(画像:timelesz公式YouTubeより)

“ダンスがうまい候補者”は逆に浮いている

筆者は拙著『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)で、ジャニーズの選考基準は「やる気と人間性」であるとし、その詳細を描写した。その2つがあれば、最初は歌やダンスが未経験の少年たちでも、ジャニーズアイドルとして輝けるようになっていくというのが主張の骨子である。

オーディション番組といえば、参加者がルックスやスキルを争うもの、と思う方も多いだろう。だが、現状、この番組の中では、ほとんどスキルやルックスの話が出てこない。では、メンバーは候補者の何を見ているのだろうか。

今回のオーディションで見ているものとして、菊池風磨は「想いの強さ」を挙げる。「強い想いがあればパフォーマンスもスキルも顔つきも全然変わると思うので」と番組内でその理由を述べている。

ここでの「想いの強さ」とは「やる気」と言い換えてもよいものだろう。予告の時点で話題になっていた、歌詞を忘れた候補者に対して「歌詞忘れてるようじゃ無理か。歌詞はね、入れとかないと」とぶった斬った場面は、やる気のなさに呆れてのものだろう。

ただ、重要なのは、候補生が“できない”ことに呆れているのではなく“やろうとしなかった”ことに呆れているという点である。

実はジャニーズにおいて、“もともとできる”ことはさして重要なことではない。メンバーの松島聡は「僕自身、事務所に入るまで歌もダンスも経験がなかったわけで、これから本気になって頑張れば絶対身につくはずだから」と語っている(『anan』2024年9月18日号)。

松島に限らず、未経験の少年たちが、入所後にどんどんとスキルを身につけて輝いていく様子を、ジャニオタたちは多く目に焼き付けてきたはずだ。

今回のオーディションでも、正直、ダンスがうまい候補者は逆に浮いている印象さえあり、スキルが唯一絶対の基準ではないことが透けて見える。

空気が凍った場面

その松島聡は、候補者の見ているところとして「人間的な部分」と「timeleszとして一生を共にするくらいの覚悟や熱量の部分」を挙げる(『anan』2024年9月18日号)。オーディション中も「timeleszのことをどれくらい知っているか」をよく質問していた。

彼らは募集要項の段階から「timelesz (Sexy Zone)へのリスペクト」を挙げていた。「我々のグループにリスペクトを持つことが優先(順位)的には大きいから」と番組中でも松島が語っている。

実際にオーディションで候補者がtimeleszに関して「そんなに詳しいことまでは把握はしてないんですけど、もちろん有名な方たちなので存じております」といったような曖昧な答えをすると、菊池風磨が「EXPG(筆者注:EXILEの所属事務所・LDHが経営するダンススクール)でEXILEがさん好きで……だったらLDHのほうがいいんじゃないかなと思っちゃうんですけど」と言い放ち、空気が凍る。

一方で、かつてSexy Zoneのコンサートに来たことがある候補生や元ジュニアとのやり取りは笑いも溢れるあたたかなものだった。

1990年代は、歌って踊る男性グループといえば、ジャニーズ事務所の独壇場だった。だがいまや多くのボーイズダンスボーカルグループが乱立している状況である。


オーディション2次審査の様子(画像:timelesz公式YouTubeより)

当然、歌やダンスがうまい青年たちは、数ある選択肢の中から、自分の活躍する場所を選ぶことになる。だが、その際に“どこでもいい”と思っている人たちを振り落としにかかっているのではないかとすら思う場面だった。

他にも、オーディションの裏側に密着した『timelesz Behind The Audition』では、間違えて、課題曲ではないtimeleszの曲を覚えてきてしまったという候補者に、他の課題曲は歌えないか問う場面があった。

実は2次審査の課題曲は、timeleszの楽曲ではない。

SMAP、KinKi Kids、V6、NEWSからSnow Manに至るまで歴代のジャニーズ事務所のグループの楽曲が揃っている。課題曲のチョイスにも3人の事務所グループへの想いの強さが感じられる。結局、その候補者はそれらの楽曲を歌えないということで、その場面は終わっていた。

timeleszでないと駄目だという強い想いを持った人。ひいては、彼らを生み出した事務所全体への思い入れを強く持った人。そんな人を求めているように感じた。


このオーディションに懸ける想いを語った菊池風磨(画像:timelesz公式YouTubeより)

彼らが候補者に求めるもの

そんな、ジャニーズの知識を問うようなことをしても、と思う人もいるかもしれない。だが、やろうと思えば、ゼロからでも知ることはできる。

佐藤勝利は14歳で仕事を始めた頃、その時点で出ていた事務所の先輩たちのアルバムをレンタルショップに行っては借り続け、「たぶん全部」聞いたという。その理由を「まずは、知らないことが失礼だと思ったんです。それまでゼロだったから必死だった」と述べている。(『TVガイドPERSON』 vol.136)。

事務所に入ったのに、先輩のことを知らないのは失礼だと考え、楽曲を通して少しでも彼らに近づこうとする。それも、佐藤がしてきた「努力」であり「誠実さ」の表れだろう。

つまり、彼らが候補者に求めるものは、実は彼らが努力によって身につけてきたものだと捉えることもできる。

今後の輝きに繋がっていくような「想いの強さ」はあるのか。自分たちや事務所全体に対してナメたりせずに真摯に向き合う「誠実さ」はあるのか。それを彼らが相手に問えるのは、自分たちにそれを会得してきた経験があるからこそだろう。

もちろん企画自体は新しいが、そこで彼らが仲間に加える基準として挙げるものは、旧事務所から変わらないものであり、3人が、ひいては旧事務所の所属者たち皆が持ち合わせてきたものなのである。

次回は、“Instagramに女性とのツーショット”を載せていた候補者に詰問するシーンがあるようだ。もちろん、ジャニーズアイドルにとってそんなことをしていけないのは不文律ではある。

だがそのような、明文化されてはいなかったけれど彼らが守ってきたことが、この番組では本人たちの言葉によって明らかになっていくことだろう。それは、“ジャニーズになる覚悟”を候補者に問うことにもなる。


審査する本人たちも相当のプレッシャーを感じていると話す(画像:timelesz公式YouTubeより)

“ただのイケメン”ではない者はどれくらいいるのか

筆者としては、ジュニア経験のない者がデビュー組のメンバーに加わるという前例を見たことがない。それゆえ、このtimeleszの試みがどうなっていくのか怖くもあるというのが正直なところであった。

だが、少なくともこの番組はとても面白い。ジャニーズのファンである自分が見て、「ジャニーズとは何か」がよりわかっていくような気がするからだ。

「ジャニーズが好き」と言うと「イケメンが好きなの?」と聞かれることが多い。だが、まったくもってそういうことではない。もちろん、ジャニーズのアイドルはイケメン揃いだが、イケメンだから好きになったわけではないのである。

今回の候補生は2次審査の時点で既に応募総数18922名から350名に絞られているだけあって、世間的にはイケメンとされる人たちだらけである。だが、その中に、“ただのイケメン”ではない者はどれくらいいるのだろうか。

共に戦う仲間を3人が真剣に探していく過程の中で、視聴者は図らずも、timeleszの3人が“ただのイケメン”とは一線を画していること、これまでジャニーズとして生きることで背負ってきたもの・身につけてきたものの大きさを感じることとなる。

ジャニーズアイドルとは“生まれてくる”ものなのか。それとも、努力で“なる”ものなのか。“ジャニーズ事務所”がなくなった世界の中で、「ジャニーズとは何なのか」が炙り出される。

(霜田 明寛 : ライター/「チェリー」編集長)