近年は身体が不自由な人の脳にインプラントを埋め込み、ソフトウェアやゲームを操作できるようにする臨床試験が行われており、イーロン・マスク氏が設立したNeuralinkは臨床試験の成功を報告しています。そんなNeuralinkのライバル企業として知られるSynchronが、「脳インプラントを埋め込んだ筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者がAmazon Alexaを使い、スマートホームデバイスをコントロールできるようになった」と発表しました。

Synchron Announces First Use of Amazon’s Alexa with a Brain Computer Interface | Business Wire

https://www.businesswire.com/news/home/20240916709941/en/

Amazon Alexa can now be controlled by thought alone - thanks to this brain implant | ZDNET

https://www.zdnet.com/article/amazon-alexa-can-now-be-controlled-by-thought-alone-thanks-to-this-brain-implant/

Synchronはブレインコンピューターインターフェース(BCI)の研究開発を行うスタートアップであり、アメリカではすでに臨床試験を実施しています。SynchronのBCIは、血管手術などに用いられるステントという医療機器を応用したものであり、脳を走る血管の内部にデバイスを挿入し、運動皮質に近い場所に配置して脳信号を検出する仕組みです。この方法は、頭部を切開して脳組織に直接デバイスを埋め込む方法よりも侵襲性が低く、患者にとっての安全性が高いとされています。

新たにSynchronは、運動ニューロンが変性して筋肉が衰えていくALSを患う64歳のマーク氏が、脳インプラントを通じてAmazon Alexaを操作することに成功したと発表しました。実際にマーク氏がAmazon Alexaを操作する様子は、以下の動画で見ることができます。

Synchronの脳インプラント技術でALS患者が思考だけでAmazon Alexaを操作する様子 - YouTube

画面の左側に座っているマーク氏はALSを患っており、Synchronの臨床試験に参加している被験者の1人です。



マーク氏の脳血管にはSynchronのデバイスが埋め込まれており、脳信号を検知できるようになっています。



ステントを応用したデバイスは頸(けい)静脈から挿入され、脳の運動皮質表面に埋め込まれているとのこと。



これにより、侵襲性の低い手術でBCIを実現できます。



マーク氏はSynchronのBCIにより、Amazon Fireタブレットを介してAlexaを操作できるようになりました。



マーク氏が利用しているのは、事前にAlexaアクションを実行するタイルを設定し、タブレットを介してAlexaを操作できる「Tap to Alexa」という機能です。



思考でタブレットのカーソルを操作すれば、デスクランプのオン/オフを制御したり



音楽や動画を再生したり



知り合いにビデオ通話をかけたりできます。



マーク氏は、「私は自分のBCIとスマートテクノロジーとの統合を楽しみにしています。日常生活に浸透しているAmazonのAlexaやEcho製品のようなコネクテッド・デバイスにアクセスしたり、コントロールしたりする能力なしに現代社会で生活するのを想像するのは困難です。自分の環境の重要な側面を管理して、エンターテインメントへのアクセスをコントロールできることは、私が失いつつある自立心を取り戻してくれます」とコメントしています。

SynchronのCEO兼創業者であるトム・オクスレー氏は、「SynchronのBCIは、ニューロテクノロジーと消費者向けテクノロジーとのギャップを埋め、マヒのある人々が環境のコントロールを取り戻すことを可能にします。多くのスマートホームシステムが音声やタッチ操作に頼っているのに対し、私たちは脳から直接制御信号を送信することで、これらの入力の必要性を回避しています。私たちはBCIを活用してAlexaの機能にアクセスできることに興奮しています。これにより、患者は手や声を使わずに自分の思考だけで自宅のデバイスと対話することができ、満たされていない重要なニーズに対応できます。これは、運動障害や音声障害を持っている大勢の人々にとって必要なことです」と述べました。