29試合を終えて勝点31。18位の磐田は残り9試合でどこまで勝点を積み上げられるか。写真:梅月智史(サッカーダイジェスト写真部)

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 8月末に予定されていた横浜F・マリノス戦が台風の影響で延期に。消化試合が1つ少ない18位のジュビロ磐田は9月14日、代表ウィークを挟んで3週間ぶりに迎えたアウェーの柏レイソル戦では、課題の前半に効率良く2点のリードを奪うと、徹底した堅守速攻で、日本代表FW細谷真大など攻撃的なカードを投入してきた柏に隙を与えず。最後はハッサン・ヒル、リカルド・グラッサの外国人CBに、パリ五輪代表だった鈴木海音をセンターの右に加えた5バックで見事に逃げ切った。

 横内昭展監督は「延期が決まってからは柏戦に向けて準備してきました。それを本当に、ピッチでトレーニングから選手同士でしっかり話しながら、どうしたら今回、勝点が取れるかを選手とスタッフで突き詰めてやってくれた」と労うが、同時に「我々の置かれている状況は何も変わっていません。今日の勝利を次の試合につなげることしか頭にないので。浮かれることなく、次の試合に向かっていきたい」と強調することも忘れなかった。

 ただ、この柏戦で得たものは勝点3という結果だけではない。夏に加入したFW渡邉りょうが中村駿のクロスに豪快なダイビングヘッドで合わせて、磐田での初ゴールを記録した。また長期の負傷離脱を強いられた中村は、5−4という打ち合いを制した2節・川崎フロンターレ戦から、実に6か月ぶりとなるピッチ上での勝利を味わった。

 さらには磐田に加入してから初スタメンとなる左利きの高畑奎汰が、直前の練習で初めてテストされたという左サイドハーフでの抜擢に応えて、パリ五輪代表の主力だった柏の右SB関根大輝を相手に守備で奮闘。攻撃でもCKのセカンドボールから先制点の起点になるなど、本職は左サイドバックながら、欧州移籍した古川陽介に代わる同ポジションのオプションとして、残り試合に向けて明るい材料をもたらした。

 横内監督は柏戦を前に、古川の移籍に関して「本当に痛いですけど、彼以外にも今、頑張っている選手はいますし、逆に彼がいなくなったことでチャンスを得られる選手もいる」と語っており、これまでと異なるポジションでアピールしている選手もいることを認めていた。その一人が柏戦でチャンスを掴んだ、高畑であることは間違いないだろう。

 ただ、古川はここまで試合を決めるジョーカーあるいは後半のゲームチェンジャーとして、持ち前のドリブル突破を発揮してきた。前半のリードを守る展開となった柏戦で、そこの解決方法を確かめることはできなかったが、左の高畑はもちろん、右サイドの松本昌也が引き続き良いパフォーマンスを継続できれば、ジョルディ・クルークスを強力なカードとしてベンチに残しておくことができる。
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 また攻撃に変化を付けられるブルーノ・ジョゼ、攻守でハードワークしながら縦に勝負できる藤川虎太朗、幅広くチャンスに絡める金子翔太などをどう使い分けていくか。筑波大に在学中の角昂志郎も特別指定ながら、個で局面を打開する能力はすでにプロでも通用するものがあり、残り9試合のどこかでヒーロー的な活躍をしてもおかしくない。

 サイドアタッカーは高畑の台頭で、ある程度の目処は立った。FWは現在15得点のFWジャーメイン良、柏戦で結果を出した渡邉、前線で明確なターゲットになれるマテウス・ペイショットと頼れる3枚が揃っている。もしルヴァンカップや天皇杯で勝ち残っていれば、もう一人のFWである22歳のウェベルトンを合わせても心許ないが、過密日程が一度もない残りシーズンを考えれば、怪我などのアクシデントがなければ十分に戦えるはず。もし追いかける展開で終盤を迎えれば、ジャーメイン、渡邉、ペイショットの3人を前線に並べるスクランブルの起用法もある。

 中盤は中村の復調が大きい。守備力の高いレオ・ゴメスと攻撃の起点になれる中村の相性は非常に良く、レオ・ゴメスの支えがあれば、中村も柏戦の2点目で見せたような飛び出しから、フィニッシュに絡むプレーも発揮しやすい。中村に関してはセットプレーの右足キッカーとしても、チームの得点力を引き上げる存在になりそうだ。

 もちろん夏場まで主力のボランチとして牽引してきた上原力也などの奮起にも期待したいが、終盤には右サイドバックの植村洋斗をボランチに回し、身体能力の高い西久保駿介を右サイドバックに投入するプランも恒例になってきており、ボランチのファーストセットが、残りシーズンそのままレオ・ゴメスと中村で行く可能性もある。

 横内監督が同ポジションに求めるのは守備の強度やボールを配給する能力もそうだが、何より時間帯やスコア、状況の変化に応じてゲームコントロールしていける能力だ。攻守の正確なプレーに加えて、周りにベクトルを与えられる中村の重要度はより増してくるのではないか。
 
 昨年は就任1年目で磐田をJ1復帰に導いた横内監督は、これまで自陣からのビルドアップをベースに、全体を押し上げて攻め込むスタイルを掲げていた。しかし、二巡目になってもなかなか主導権を握れない状況で、ジャーメインなどFWに素早くボールを当てて、セカンドボールを高い位置で拾って仕掛ける速攻は十分に通用していた。

 またボールを奪った時に、相手のサイドバックが上がっていれば、オープンスペースをサイドハーフやサイドバックが活用して、クロスからのチャンスに持ち込める。課題である後ろからのつなぎにこだわって危険な位置でのボールロストを増やすより、自分たちの今あるストロングを活かしていく方が、効率的に勝機を高めることができる。

「残り10試合になって今の順位にいるというのは、その1試合の重みが、さらに増してくるので。そういう意味じゃ、我々にとってはトーナメントで、目の前の試合に全てかけていくしかない」

 柏戦を前に、横内監督はそう語っていた。当初からなるべく早く“勝点40”に到達すること目ざして、チームを構築しながら、一つひとつ勝点を積み上げていく姿勢を変えなかった横内監督。この3週間のインターバルが明けて“残留”という目標にチームのベクトルが定まったことは、監督や選手の言動からも読み取れるようになってきた。どれだけ理想を掲げても、降格してしまっては元も子もない。

 柏戦は相手がハイプレスで、磐田としてはボールを細かく動かすリスクがあること、最終ラインの背後に狙うべきスペースがあることなどを考えても、ロングボールを2トップに当てて、セカンドボールから素早くボールを運んでいく戦術はマッチしていた。
 
 相手が変われば戦術プランも変わるはずで、毎試合、何としても勝点を掴み取っていくこだわりを見せた戦いになっていくと予想される。ガンバ大阪、サンフレッチェ広島、ヴィッセル神戸といった一巡目の対戦で完敗しているチームとの対戦も残るなかで、“弱者の戦術”という言葉が相応しいか分からないが、相手との力関係、強みと弱みなどのリアルに向き合って行く必要がある。

 磐田は29試合を戦って勝点31。そのままのペースで38試合に換算すると勝点41となるが、下位の結果によっては残留ラインが引き上がる可能性もある。そうしたなかで磐田は上位との対戦も残すだけに、次の9試合未勝利が続くアビスパ福岡との一戦は大きな意味を持つ試合となるだろう。

「結果が全てになってくると思うので。その結果に対して、自分たちがどう行動できるかだと思うし、(内容的には)やられたけど勝ったから良かったよね、という試合がこれから出てくるかもしれない」と中村が語るように、勝利にしがみついていくような残り9試合になっていくはずだ。

取材・文●河治良幸