回転ずし店「スシロー」/(C)日刊ゲンダイ

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【企業深層研究】

FOOD&LIFE COMPANIES(上)プロ経営者として知られる水留浩一社長が交代

 FOOD&LIFE COMPANIES(下)

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 回転ずし店「スシロー」のFOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)は1980年代に設立された「すし太郎」が前身。創業家のお家騒動が勃発。買収に対抗し、2009年に非上場の道を選ぶ。

 紆余曲折を経て12年9月、英国の投資ファンド、ペルミラ・アドバイザーズの傘下に入った。ペルミラがプロ経営者の水留浩一を15年、社長に招いた。

 水留は3つの成長戦略を掲げた。1つ目は回転ずし店の拡大。ここ数年、20店程度だった出店を年40店に倍増させる。2つ目は新業態を都市部で増やす。3つ目が海外展開。韓国にとどまる海外売上比率を中長期的に3割に引き上げる。

 17年3月、東証1部に再上場。ペルミラはエグジット(ファンドが株を売却)し、巨額のリターンを得て撤退した。

 店舗運営の見直しでは水産物の直接調達などで低価格を維持し、回転ずし業界のトップとなった。21年、持ち帰り専門のすし店の京樽(東京・中央区)を買い取り業容を拡大する。21年9月期の連結純利益は前期比2倍の131億円と過去最高を更新した。

 これ以降は試練の連続。新型コロナウイルス禍や広告に関する不祥事、さらには消費者の迷惑行為が経営に打撃を与えた。

 在庫のない状態でテレビCMや自社ウェブサイトで大々的に宣伝を続けていたとして22年6月、消費者庁から景品表示法違反(おとり広告)による措置命令を受けた。21年9〜12月に実施したウニやカニを使ったメニューのキャンペーン期間中に大半の店で実際には商品が提供できない時期があったことが問題視された。

 22年7月には生ビールジョッキ半額の販促開始前に52店舗で誤ってポスターを掲示し、店頭で告知を見て商品を注文した顧客への返金を進める羽目に陥った。

 広告に関するトラブルが相次ぐなか、10月から値上げに踏み切った。1984年の創業以来続けてきた税抜き1皿100円という表示をやめ、各店舗ごとに最低価格を1皿120〜150円(税込み)にした。価格変更による客数の減少は想定以上だった。

 23年1月には、少年が醤油差しを舐めたりする迷惑行為を撮影した動画がSNSに投稿された。スシローは6700万円の賠償を求めた。少年側が非を認め和解が成立した。

 不祥事が続発したことで23年9月期の既存店売上高(国内)は前期比8%減、客数は13%減った。新型コロナ禍を乗り越え、ライバル店の業績が回復するなか、スシローの一人負け状態となった。

 水留は好調な海外の店舗を拡大させる一方、低迷する国内はデジタルディスプレーによる注文方式の導入に切り替えた。家族連れのためにクイズやゲームが楽しめる仕掛けも用意した。

 地道な努力で落ち込んでいた客足がようやく戻った。その結果、上半期(23年10月〜24年3月)の客数は15%増、既存店売上高は18%増と2桁伸びた。期間限定で復活した1皿100円キャンペーンが客数増に寄与した。

 国内需要が持ち直したことで、24年9月期の連結業績(国際会計基準)は急回復する。売上収益は前期比19%増の3600億円、純利益は65%増の130億円の見込みだ。

 業績回復を花道にトップが交代した。山本新社長は、海外の出店で収益を伸ばすことが求められることになる。

 一方、水留はやり残したことがあったはずだ。年齢も若い。

「プロ経営者」の時代は終わった、との指摘がある。その会社の経営について熟知している同業他社のトップをスカウトすることはあっても、いわば素人が試行錯誤して経営する季節は過ぎたというのだ。

 水留の退任で主要企業のトップにプロ経営者はいなくなった。=敬称略

(有森隆/経済ジャーナリスト)