「なぜThreadsは飲食店経営者の愚痴ばかりなのか」という疑問を投げかける投稿も(写真:cr8image/PIXTA)

「当店はワインがウリなのに、無料のお冷やを要求された。そんな客は来ないでほしい」ーー

FacebookやInstagramで知られる米Meta社による「Threads(スレッズ)」が2023年7月に登場し早1年以上が経った。

テキスト中心に投稿ができるSNSで、競合であるX(当時Twitter)を強く意識した仕様になっている。リリース当初、5日で1億ユーザーを突破するなど騒がれたものの、現在、利用率はピーク時と比較し2〜3割に縮小しているという。

XやInstagramに比べるとまだまだユーザー数は及ばず、話題に上がることも少なくなったThreads。しかし今、一部の飲食店があけすけな本音を吐露する場所になっている。

開けば愚痴だらけのThreads

Threadsを開けば、筆者のタイムラインには飲食店アカウントを使った店主の叫びがあふれている。

「理不尽な口コミを書かれた。こちらにも言い分があるのに好き勝手書かれるなんて」

「予約した客が来店せず、連絡もつかない。こちらは食材を仕入れて仕込みをしてしまったのに」

といった、飲食店に同情したくなる「あるある」なトラブルから、中には、

「この客は料理やワインのことをわかっていない」

などと上から目線で客の振る舞いを批評するもの、トラブルで一方的に相手を責め立てているもの、極端な決めつけと感じるものなど、賛否両論を呼びそうな投稿も少なくない。実際に、コメント欄で激論が繰り広げられている様子もよく見る。

SNSでは自身と関連性の高い投稿がどんどん表示されるようアルゴリズムが組まれている。筆者は外食ライターという仕事柄、日頃から飲食店について情報収集をしているためこのような投稿が延々と出てくる。


画像はイメージ。だが、こういった投稿は数多く見られる(編集部作成)

しかし、筆者のみならず飲食店関係者に話を聞くと多くの人に同じ現象が起きており、よくよく聞けば飲食の関係者のみならず一般の外食好きのThreadsも同様のようだ。

「なぜThreadsは飲食店経営者の愚痴ばかりなのか」という疑問を投げかける投稿も何度も見た。新しいSNSを楽しもうと始めたものの、開けば愚痴だらけのThreadsにうんざりして離れていった人も多いのではないだろうか。

さらに驚くのが、それらの多くが実名の発信であることだ。店や店主の名前を出したアカウントで上記のような愚痴が書き込まれている。たとえ店側に非がなく、言っていることは事実や正論だったとしても、他人を貶めるネガティブな発信をしていること自体が店や店主自身のイメージを損なう可能性もある。

愚痴を言いたくなるのもわからなくないが…

飲食店がこのような愚痴を吐く気持ちもわからなくもない。

近年、飲食店を取り巻く環境はますますハードでストレスフルなものになっている。飲食店側が客の愚痴を言えば目立ってしまうが、そもそも客側は「口コミ」によりつねに飲食店の不満を言いたい放題なのである。こうした不均衡にストレスを感じる飲食店経営者がいるのは想像にかたくない。

SNSの功罪もある。SNSによって売り上げが伸びたという店がある一方で、SNSが望まぬ客を寄せ付けることもある。

Threadsにある愚痴で多い話題の一つである「ワインがウリなのに無料のお冷やを要求された」のようなことは、客と店のミスマッチの問題だ。SNS上で店の意図しないかたちで紹介されることにより、本来はターゲットではない層に店が知られ来店してしまう。

加えて、昨今の物価や人件費の高騰など、さまざまな社会背景の変化もあり経営はどんどんハードになっている。飲食店経営者の気苦労は計り知れず、愚痴の一つや二つ、言いたくなるのは否定できないが……。

実名で愚痴を発信することのリスクは大きい。ネガティブな話題は炎上につながりやすく、ましてや店名を出していたら実際の集客にも大きな影響を与えることは想像にかたくない。

今、Xをはじめとするネット上では毎日何かしらの炎上が起こっている。もはやおなじみとなってしまった光景だが、いちネットユーザーの発言に何かの拍子で火がつき拡散されていくという事象は、ここ最近で増えてきた出来事だ。

さかのぼればインターネット黎明期の1990年代から「炎上」の原型となるような出来事は起こっていたが、その多くは企業の「やらかし」への批判が中心だった。一般ユーザーが炎上に巻き込まれるようになったのはもっと後の話となる。

今のThreadsを見ていると、Twitterが登場したばかりの2000年代後半を思い出す。当時のTwitterは今ほどユーザー数もおらず、拡散されても範囲は限定的だった。それが今や多くのユーザーが参入し、多様な考えや思想が入り交じるようになった。

何か不用意な発言をしようものならあっという間に拡散。インフルエンサーが炎上を煽動することもあり、マスメディアのニュースのネタにすらされ、日本中の知るところとなってしまう。そんな状況から人は炎上を恐れ、発言にはそれまで以上に細心の注意を払うようになった。

実際に、総務省が出している「ネット上での炎上を巡る議論」によれば、炎上が劇的に増加したのはモバイル端末とSNSが本格的に普及し始めた2011年からだという。


(画像:総務省HPより)

昔のインターネットは真逆で、リアルでは言えない本音を吐く場所だった。むしろそれがネットの醍醐味であり、誰も言えないことを言う「毒舌」が格好いい、という雰囲気すらもあった。大っぴらに言えなかったことを言えてスッキリするし、見ている人も一部であるから差し支えがない(と思われていた)。

ところがネットユーザーが増え、次第にリアルとネットの境目があいまいになったことで、リアルで言えない本音はネット上でも言えなくなっていった。

そんな中、2024年に突如現れたのがThreadsだ。まだユーザー数の少ないThreadsなら拡散の危険が少なく、愚痴を吐いても炎上しないだろう、と思った人たちから抑圧されていた本音が噴出している。誰かが愚痴っているのを見て「ここなら大丈夫」という認識が広がり、連鎖が起きているのが今のThreadsの現状だ。

飲食店だけでなく、美容師の間でも「Threads愚痴だらけ」という話もある。そうした業界内での愚痴を話すのにもってこいの空間と思われているようで、ここだけはまるで15年前に巻き戻ったようだ。Threadsの叫びは、ある意味平和だった時代のインターネットへの渇望なのかもしれない。

Threadsもしょせんネット。不用意な発言はご注意を

不特定多数に向けて自分の考えを発信したい。だけど、都合の悪い人に見られたり、炎上したりはしないでほしい。そんな願望がThreadsに実名での愚痴が集まる理由だが、しょせんThreadsも全世界に開かれたインターネットであるということはゆめゆめお忘れなく。インターネット上にある限り、誰が見ているのか、どのように解釈されるのか、はわからない。「Threadsだから安心」などということはまったくない。

今後、Threadsのユーザーが増えていくかはわからない。しかし、Threadsで発言することはインターネット上に記録されることは間違いなく、不用意な発言で店や自身の価値を毀損してしまう可能性は十分にある。たちの悪いことに世の中にはインプレッション目的で炎上ネタを探している人もいる。

「実名でこんなこと言っていいの?」という疑問の声はすでに上がっている。いつかThreadsで炎上してしまう飲食店が出てきてもおかしくないだろう。

(大関 まなみ : フードスタジアム編集長/飲食トレンドを発信する人)