セリア

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セリアはホームページにも「100円ショップのSeria(セリア)」と記載している。デフレの象徴ともいえる低価格商品業態がどこまで方針を貫けるか注目したい(写真:ponta2012/PIXTA)

商品価格が多様化する100円ショップと、継続のセリア

「私たちの世界に価格競争はない」

10年くらい前、テレビ番組の取材で多くの100円ショップ企業に出向いた。そのときに衝撃を受けた言葉がこれだった。つまり各社は商品を100円にしているから、価格はカルテルのように固定している。あとは、その100円のなかでいかにお客に選んでもらえるか、付加価値の勝負をしているのだ、と。

面白いと思った。たとえば自動車の価格が100万円で固定されて各社が争うことはありえない。100円ショップのくくりは独特で、100円を前提にして高品質・魅力ある商品を作ればいいのだ、と。

そこから幾星霜。現在では、100円ショップといっても、200円、300円、1000円のものも取り扱っている。商品の幅が増え、だいぶプライベートブランド商品が多数を占めるようになった。ダイソーはたとえば「100円の商品も置いているバラエティショップ」といったほうが近いのではないだろうか。

いっぽうで、セリアはホームページにも「100円ショップのSeria(セリア)」と記載している。基本的には100円均一を保持する方針だ。デフレの象徴ともいえる低価格商品業態がどこまで方針を貫けるか注目したい。

ところで、このところ、そのセリアの円安による不調が囁かれている。利益も減ったし、そして閉店が相次いでいるという。

【画像】「円安でセリアが苦戦、閉店が大幅増、ピンチ!」…とは単純に言えなさそうな、セリアの出店・退店数の推移

セリアの最新状況

そこでセリアの有価証券報告書(2023年4月1日から2024年3月31日)を見てみよう。ここで面白い記述があるので引用する。

100円ショップ業界は、当社を含む4社の寡占状態にあり、その店舗数は日本全体で8,000店を超えております。市場規模につきましては、各社とも継続的に出店しており、引き続き拡大していくと見られますが、近年、収益性が低下している傾向が見られることから、100円ショップ市場が飽和状態に入っている可能性が考えられます。その環境下で同業他社は、100円を超える価格の商品の取扱いを開始、拡充する動きを見せており、当社は100円商品に特化することで、100円商品のシェア獲得の好機と考えております。”(7ページ)

本文中にある、「収益性」とは利益のことではなく売上等を指すから、規模が上限にきていると危機感を持っているのは明確だ。だから各社とも他価格帯に手を伸ばしている。そのうえで、自社は拡大せずに100円のラインナップを充実させたほうが、100円にかぎって他社からシェアを奪取できるとしている。

なるほど、これは単純に差別化戦略といってもいいし、「Focused Cost Leadership Strategy(特定価格リーダーシップ戦略)」に特化したものと評価できるだろう。

次に、業績と出店・閉店の実態を見てみよう。

【業績】
2023年3月期
売上高:2123億円、営業利益:154億円
2024年3月期
売上高:2232億円(前年比+5.1%)、営業利益:151億円(前年比▲2.1%)

【出店・退店】
2023年3月期
出店:132、退店:47
2024年3月期
出店:133、退店:71

以上の状況だ。

セリアの経営は失敗しているか?

ところで、セリアの経営を問題視している人たちは、利益が減少していることを問題視しているらしい。さらに、退店が昨年を上回るペースで進んでいることも指摘している。

しかし、それらの指摘については「はあ……」という感想しかない。営業利益率は6.7%出ている。なお、同業者でいえばキャンドゥの2024年2月期は営業利益率が0.3%だった。さらにワッツの2023年8月期は1%だった。ここから見ても、一部が騒ぐほどセリアに問題があるようには見えない。


キャンドゥやワッツと比較しても、セリアの利益率の高さは際立っている(編集部作成)

次に、じゅうぶんに健闘しているように見えるセリアだが、この減益が巷間でいわれる円安が原因かどうかだ。

セリアは売上原価率で見れば、10年分の推移を公開している。10年前の2015年3月期では約58%、これが2024年3月期では58.7%に上昇している。もちろんこれを見て「上がったじゃないか」と言われればそうだが、この差異をもって理由とみなすのは強引ではないだろうか。

もちろん私は円安がなんの影響も与えていないとは言っていない。影響はある。ただ、利益の悪化原因は地代家賃の上昇と給与手当の増加。この2つの合計が大半の理由を占めている。

よって客観的に見ても「100円ショップで、100円だけの商品を販売することが商売として成立していない」とか「円安がすべての元凶」とかいった言説は言いすぎか、あるいは、印象論にはまっていて決算書や他社状況を調べていないだけのように感じられる。

ところで、私はいつも思うのだが、他社の商売や業績を批判的に論じるひとは、どのような優良企業に勤めているのだろうか。知りたいところである(いや、ほんとうは時間がもったいないので、さほど知りたいとも思わない)。

退店と出店については?

なお退店が多い点はどうだろうか。


セリアはもともと、数年に1度は多めに退店してきたし、出店数はそれを上回っている(編集部作成)

セリアは、以前からスクラップ&ビルドをずっと繰り返している。退店がたしかに前年よりも多いとはいえ、退店のほとんどが貸主都合か契約満了、または店舗自体の移転によるものだ。ここを見ても、「100円ショップで、100円だけの商品を販売することが商売として成立していない」といったイメージとは遠い。


また不採算が7店はある。ただ、これは不採算立地からの撤退を早めに決めているだけだろう。とくに2020年からの巣ごもり需要で100円ショップ関連が盛り上がった。その反動があるのでしかたがない。

もちろん、私は同社にリスクがないとはいっていない。現在は小売業において合併や協業が相次いでいる。出店はすべて賃貸の形を取っており、今後、出店物件の減少や取得が困難になる可能性がある。同社は他企業が撤退した跡地に出店しているが、その戦略がこのまま続くかはわからない。

実質賃金がプラスに転じたとはいえ、まだ生活が楽になっている実感は得がたい。まだまだ日本では節約志向が続く。そのタイミングにおいて、まだまだ100円ショップは存在意義があり、さらに少しでも買い物を楽しくしたいニーズがあるだろう。その意味でも、セリアの今後に引き続き注目したい。

(坂口 孝則 : 未来調達研究所)