秋公開のiOS 18で、アップル純正のパスワード管理アプリが登場(筆者撮影)

今の世の中、パスワード管理を苦痛と思っていない人はいるだろうか?

『大文字小文字の英文字、数字、記号をランダムに組み合わせる』、『ほかのサイトのパスワードを使い回ししない』、『定期的に変更する』、『コンピューターの中にメモを残さない』……すべての条件を受け入れて生活を送るのは、だいぶ難度が高い。

パスワード管理は本当に大変


iPhoneにインストールされる純正のパスワード管理アプリ『パスワード』(筆者撮影)

筆者が使っているアカウントとパスワードは数百存在するだろう。全部暗記するほどの脳は持ち合わせていない。みんなどうしているのかとしばし考える。

さらにパスワードを忘れてしまった際の仕打ちもたいへん厳しい。

「あれ? このパスワード、これじゃなかったっけ?」と何度も入れ直しているうちに、無情にも『あなたのパスワードはロックされました』の文字。これが仕事のアカウントだったり、日々使っている重要な通信手段のアカウントだったりすると目も当てられない。さらに海外のサービスの場合、企業の多くは非常時用の窓口を用意していないし、電話番号の記載もない。

「詰んだ……」という経験をした人も多いのではないか。

登録されているメールアドレスでパスワードを再発行するたびに、「1年以内に使われたパスワードは使えません」などと言われ、パスワードを変更しているうちに、いよいよ何が何だかわからなくなってしまう……。

パスワードジェネレーターを使ってパスワードを生成する手もあるが、長くて複雑なパスワードほど、書き写し時にミスが発生したりして、またログインできなくなる可能性が高まる。2段階認証も同様だ。強固なことは重要だが、海外にいてSMSを受信できなかったりすると、これまた詰む。

「誰だよ、パスワードなんて仕組みを作ったのは?」「人類はパスワードよりマシな仕組みを作れないのか?」などと愚痴りたくなる気持ちもよくわかる。少なくとも30年前にはパスワードや暗証番号で、こんなに苦労することはなかったと思う。詐欺師や悪質なハッカー(クラッカー)が頑張ってくれたおかげで、企業はかくも高い防壁を築いてしまった。

安全にパスワード管理をする方法は?

安全に管理する方法はいくつかある。

まず、パスワード生成アプリで作った複雑なパスワードを書き写し、暗号化して保存すること。ただし、いちいち解凍してパスワードを探すのが面倒ではある。

意外に紙に書いておくのも悪くない方法だ。以前はパスワードを付箋に書いてパソコンに貼り付けている高齢者の方を笑っていたが、ネットにつながったパソコンにあるほうが何十倍も危険。電子的にはハッキングされようのない『紙』というのもひとつの手だ。ただし、その紙を持ち歩くのは推奨できないので、パソコンやスマホは自宅で使うのみ……というような人しか使えない手といえる。

パスワードが多くなく、自宅にいることが多い高齢者の方などは、文具王が監修しているパスワード管理ノート『ケルベロス』などを使ってみるのもいいかもしれない。


文具王が監修するパスワード管理ノート『ケルベロス』(筆者撮影)

あとは、パスワード管理アプリの利用。『1Password』などが有名だが、このサービスは本当に安全なのか。万一、この企業がサービスを止めたらどうするかなどが気になる。

iOS 18の『パスワード』アプリに期待

そこで期待したいのが、この秋、iPhoneで使えるようになるiOS 18に含まれる『パスワード』アプリだ。筆者はiOS 18 Public Betaですでに触れているので、紹介しよう。

※Public Betaには秘密保持契約(NDA)が指定されており、スクリーンショットの公開などは禁止されているが、本記事は筆者が特別な許可を得て執筆している。

『パスワード』アプリは、従来はシステムに含まれていた『iCloudキーチェーン』を、わかりやすく単独のアプリとしたもの。アプリとして独立したことで、よりアクセスしやすく、管理もしやすくなっている。


『パスワード』は、従来のiCloudキーチェーンはもちろん、ほかのアプリからもデータを受け継ぐことができる(筆者撮影)

基本的な機能は、アカウントとパスワードを暗号化して保持できる点にある。また、Face IDやTouch IDなどの生体認証によってのみ機能にアクセスを許可している(パスコードでは開けない)。

アプリやウェブサイト、Wi-Fiなどのパスワードを記録しておき、オートフィル(自動入力)をしてくれる。つまり、『パスワード』アプリを使えば、自分でパスワードを覚えておく必要はない。

さらにiCloud経由で、iPhone、iPad、Mac、Vision Proなど全アップルデバイスで同期してくれるので、どのデバイスでも(Face ID、Touch ID、Optic IDなどの生体認証をパスすれば)パスワードを再度入力する手間もない。

アプリ内ではパスワードを表示することもできるので、アップル以外の製品で何かしらのサービスにログインしたい際、画面でパスワードを見ながら手打ちしてログインできる。


アプリやブラウザで入力するパスワードのみならず、Wi-Fiパスワードなども管理できる(筆者撮影)

秋のiOS 18公開後には、WindowsパソコンにおいてもiTunesアプリ経由でこのパスワードアプリを提供するので、Windowsユーザーも本アプリの機能にあやかれる。

新しいアプリやウェブサイトを利用する際、『パスワード』アプリを使って複雑なパスワードを生成することもできるので、「どんなパスワードを使おうか……?」と悩む必要すらなくなる。

筆者はiOS 18(およびmacOS Sequoiaなど最新世代のアップル純正OS)の導入をもって、このパスワード管理システムに全面的に移行し、自分で管理することをやめようと思っている。

確かに「iCloudのシステムが落ちたら何もできなくなる」などの不安はあるが、現状より、はるかにマシだと思う。

今後、アップル、グーグル、マイクロソフトなどは、FIDO Allianceの提唱に従い、暗号キーペアを使った安全性の高い『パスキー』のシステムを採用すると発表されている。アップルの『パスワード』アプリは、パスキー移行への橋渡しの役割も担っていると言える。

(村上 タクタ : 編集者・ライター)