『巨大恐竜展 2024』会場風景 パタゴティタン・マヨルム

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イギリスから、とんでもないサイズの恐竜がやってきた。2024年9月14日(土)までパシフィコ横浜で開催中の『巨大恐竜展 2024』では、驚くほどの大きさを誇る「パタゴティタン・マヨルム」の全身復元骨格標本が展示されている。そのサイズは、全長約37メートル。

エントランスで迎えてくれるパタゴティタン・マヨルム復元画のパネルは、巨大すぎてパネルから頭がはみ出ている

あつまれ巨大生物

と、いきなり巨大な恐竜・パタゴティタン・マヨルムのサイズをお知らせしたが、『巨大恐竜展 2024』はただパタゴティタン・マヨルムを紹介するだけではない。現生生物も含めた“生き物の巨大さ”に焦点を当てて、なぜ大きいのか? その理由と影響を一つひとつ丁寧に紐解いていく展覧会だ。

ステップマンモス 福井県立恐竜博物館

第1章は恐竜以外の巨大生物のパート。巨大マンモス、巨大クジラ、さらに巨大魚竜類(イルカそっくりの水棲爬虫類)・ショニサウルスなど。この時点でかなり見応えがあるので、息切れしないようご注意を。

海の生き物(右)と陸の生き物(左)に分けてわかりやすく紹介。宙を飛んでいるのはプテラノドン(実は恐竜ではないそうだ)

空前絶後のハイテンション音声ガイドは必聴

鑑賞のおともに、本展の音声ガイドを強くおすすめしたい。サンシャイン池崎(お笑い芸人)& 山下大輝(声優)の軽快な見どころ解説のほか、ガイド機を使ったクイズも用意されている。

左:メソプゾシア 福井県立恐竜博物館、右:パラプゾシア 徳島県立博物館

サンシャイン池崎節が炸裂するテンション高めのトークは、広い会場内を見て回る上でいいアクセントになるだろう。そして出口付近の環境問題に対する真摯なメッセージも、耳から聞くことでより深く心に残った。個人的に、自分が身近な子供を連れてもう一度この展覧会に行くなら、確実に音声ガイドを借りると思う。

みんな、はじめは小さかった~ティラノサウルス編~

スピノサウルス (C)ココロ

第2章に入ると、お待ちかねの恐竜パートの始まりだ。パッと目を引くのは“水の王者”、スピノサウルスの実物大ロボット。頭の部分が動き、激しい鼻息も再現されているのでしばらく観察してみよう。

右手前から:ディロン、ラプトレックス 福井県立恐竜博物館、ティラノサウルス

キングオブ恐竜のティラノサウルスも、種の進化のはじめはだいぶ小型の恐竜だったらしい。白亜紀前期に生きていたティラノサウルス類の「ディロン」は、羽毛に覆われた1.6メートルほどの恐竜で、ちょっと可愛い。その奥に同じくティラノサウルス類の「ラプトレックス」を経て、どーんと「ティラノサウルス」の骨格が並んでいる。こうして見ると、白亜紀の前期~後期にかけて、ずいぶん大きくなったんだなぁ……としみじみ実感できる。

ティラノサウルスは大きいもので全長約13メートルにまで巨大化した

世界に20体ほどあるティラノサウルスの骨格標本は、どれもニックネームがつけられているそうな。本展で出会えるのはアメリカ・モンタナ州出身の「ワイレックス」さん。尾っぽを別のティラノサウルスに噛みちぎられてしまったトホホな過去が、尾椎の痕跡からわかっている。最強の捕食者といえど、傷を負わずして生きられないなんて……。やはり生きるって厳しい。

みんな、はじめは小さかった~トリケラトプス編~

ピザのようにハーフ&ハーフのトリケラトプス 福井県立恐竜博物館

ティラノサウルスと人気を二分するスター恐竜といえばトリケラトプス。本展では体の半分が生体復元、半分が骨格&筋肉系という貴重な実物大模型を見ることができる。トリケラトプスを代表とする角竜類も、原始的な「プシッタコサウルス」では子犬くらいの大きさしかない。トリケラトプスの横っ腹にさりげなく展示されているので、見落とさないように注意だ。

幼体はフリルのギザギザが鋭く、自分より大きな捕食者に対抗するために角の角度が上向きなのが特徴 福井県立恐竜博物館

足元には、丸まって眠るトリケラトプスの赤ちゃんロボットが! よく見るとお腹が上下していて非常に可愛い。

第3章はメイド・イン・ロンドン

突然の英語表記にびっくり

第3章「ティタノサウルス類:最も大きな恐竜たちのくらし」の部分は、丸ごとロンドンの大英自然史博物館の企画展をインポートしたものとなる。今年の1月に閉幕したこの企画展は、同館史上最大の動員を記録したという、いわば“超自信作”。今後世界中へ巡回するなかで、ここ横浜が記念すべき第一会場として選ばれたそうだ。

パタゴティタン・マヨルムの化石が発掘されてからのストーリーを丁寧に追う、第3章前半

第3章だけ雰囲気が変わり、海外の博物館に来たようでちょっと得した気分。絵本のように、解説パネル(日本語なのでご安心を)の窓を開けると次の文章が現れる……といった仕掛けも。

ついに登場! パタゴティタン・マヨルムの巨大さにおののけ!

と、とんでもなく大きい……!

とうとうパタゴティタン・マヨルムと対面。笑ってしまうほどの大きさだ。パタゴティタン・マヨルムを含む「竜脚類」の恐竜は史上最大級の陸上動物だという。大英自然史博物館のアレックス・バーチ氏は挨拶で「全長はロンドンの2階建てバス3つ分、体重はアフリカゾウ9頭分」と表現していたが、この圧倒的なスケールが伝わるだろうか。

パタゴティタン・マヨルム全身復元骨格標本(部分)

お腹の下にもぐった命知らずなアングルで、胴椎~頸椎~頭骨を見る。

パタゴティタン・マヨルムの復元頭骨

「頭が遠すぎてよく見えない!」という人のために、全身復元骨格標本とは別に、間近で触って観察できる複元頭骨も展示されている。パタゴティタン・マヨルムの頭骨は未発見なので、これは近縁種をベースに製作されたものだそうだ。そっと口の中に手を入れてみたら、農具の「千歯こき」によく似た歯の一本一本が、ちょうど人間の大人の指と同じくらいのサイズだった。

ゲームみたいな展示に、大人も子供も夢中

全身復元骨格標本に圧倒されたあとは、パタゴティタン・マヨルムについての知識をじっくりと深めていこう。第3章の展示はほとんどがインタラクティブな仕掛けになっており、ゲームのような気分で楽しく進んでいくことができる。

イチオシはここ。漠然とやるだけではもったいないので、大人は子供にヒントを与えながら体感させてあげるのがいいかも

例えば一連のタッチパネルでは、卵を孵化させ、外敵や厳しい自然に対抗してなんとか赤ちゃんたちを生き残らせる、というミッションが5ステージにわたって繰り広げられる。けれどルーレットでランダムに死亡要因が現れ、非情かつ理不尽に赤ちゃん恐竜は減っていく。周期を予測したり、全滅を避けるために逃げるルートを分散させたり……。生命の生存戦略について、そして今生きている奇跡について、自ずと深い実感を与えてくれるコンテンツで感動してしまった。

実演してくれたのは福井県立恐竜博物館の主任研究員・関谷氏

森の中のようなこのブースでは、オレンジ色のパネルに乗ると、その重さがパタゴティタン・マヨルムでいう何歳の状態に相当するのかを計算してくれる(体重がズバリ何キロ、と出るわけではないのでご安心を)。複数人で協力することが可能なので、みんなで一緒に試してみるのも楽しそうだ。

心臓はかなり固いので腰を入れて押し込もう

こちらはパタゴティタン・マヨルムの内臓をイメージした展示エリア。肺に空気を送り込んだり、心臓を押し込んで血液をポンプしたり、腸をねじって食物を押し出したり……。そして消化の果てはもちろん、ちびっこの大好きなアレである。

まだまだいる、竜脚類の仲間たち

うれしいことに、展示はまだまだ続く。イギリス直輸入の第3章を抜けると、そこは第4章「さまざまな竜脚類」の展示室だ。

右手前:フクイティタン (C)ココロ

注目は、本展のために製作されたというフクイティタンのロボット。フクイティタン・ニッポネンシスはその名の通り、福井県で見つかった国産の竜脚類恐竜だ。長い首を上下左右に動かす様子を眺めていると、移動の体力を使わずに食事できるのがどれだけ有利なのかよく伝わってくる。

カマラサウルスは後期ジュラ紀を生きた竜脚類の恐竜で、ブラキオサウルスがちょっと小型になったような姿をしている

「カマラサウルス」の全身骨格にも注目したい。よく見ると、骨一つひとつの形がキレイ過ぎず、生々しい存在感を放っているのがわかるはずだ。実はカマラサウルスは全身のおよそ9割がすでに発掘されている超レアな恐竜で、本展の標本はその実物化石を元に製作されているそう。想像・類推ではなく、実際に土の下から出てきたものを再現しているだけに実在感がすごい。ちなみにその9割の実物化石は、福井県立恐竜博物館で展示されているそうな。行きたい!

最終章に込められた祈り

第5章では竜脚類のあとに活躍した、様々な草食恐竜たちにスポットが当たる。

左が、筆者の推し恐竜のチンタオサウルス。ちょんまげのような頭の骨がいつ見てもイケている

これまで見てきた竜脚類の恐竜たち(首長&ずんぐりビッグサイズ)は白亜紀に入る頃に衰退し、代わって鳥脚類(スリム&噛む力が発達)や角竜類(トリケラトプスなど)が数を増やしていったという。入れかわりの原因は定かではないが、解説によると、白亜紀以降はシダやソテツ類に代わって被子植物が繁栄を始めた……というのがカギらしい。要はお食事事情の変化である。

ブラキロフォサウルスは鳥脚類の恐竜で、カモノハシのような平べったいくちばしが特徴 福井県立恐竜博物館

気になるのは「ブラキロフォサウルス」のミイラ化石(愛称・レオナルド)を複製したものだ。死後にミイラ化した後に化石になった非常に珍しいケースで、皮膚の模様や筋肉の痕跡、お腹の中の食べ物まで化石となって残っている。ラッキーなことに頭を左へ大きくねじったポーズで時を止めているので、チャームポイントのくちばしが下からのアングルでよく見える。ちなみにこのミイラ化石の実物はアメリカから福井県立恐竜博物館へ10年限定で貸出中とのことなので、レオナルドと対話したい人はやっぱり福井へGO! である。

大英自然史博物館創始者のリチャード・オーウェン卿はモアの命名者であり、人類の乱獲による野生動物の絶滅に警鐘を鳴らした人物だそう

そして展覧会のラストは恐竜ではなく、絶滅した巨鳥「モア」の化石で締めくくられる。モアは14世紀までニュージーランドに生息していた飛べない鳥で、最大約3.6メートルもの大きさだったという。人間が乱獲と環境破壊によって絶滅に追い込んでしまった巨大生物だ。

本展は、過去の巨大生物を知ることを通じて、今生きている大型動物への理解を深めて保護すること、そして海と陸の生態系を守ることの重要さを明確なメッセージとして来場者に訴えかける。巨大恐竜を前に謙虚な気持ちになったからか、ふしぎと説教くさい印象は受けなかった。小さくても、できることからやってみよう。そんな前向きな思いを胸に会場出口へ向かえば、その先に……

このホットドッグを考えた人に拍手を送りたい

広い!

その先に広がる、巨大物販コーナー! 再現度の高いパタゴティタン・マヨルムのぬいぐるみや、子供でも読みやすい重さの展覧会図録など、心躍るアイテムが揃っている。図録は突っ込んだ内容までわかりやすく解説してくれるので非常にオススメ。

左手前:パタゴティタンドック(税込900円)

さらにオリジナルカフェでは軽食・ドリンクなど本展特別メニューが登場。どれも面白いけれど、パタゴティタン・マヨルムを模したホットドッグを考案した人に心から拍手を送りたい。ちゃんと、首だけじゃなく尾も長くして体のバランスを取っていることが学べるし。

左:「発掘調査かき氷 - 氷河期 -」(税込900円)、中央:レモンスカッシュ - 巨大恐竜展オリジナルver. -」(税込600円)、右:「隕石から逃げろ! - レモンスカッシュ×はじけるわたあめ -」(税込750円)

写真映えしそうな華やかなドリンクも。右のドリンクに乗っているのは巨大隕石を模した弾けるわたあめ、とのこと。

この夏休み「最大」の思い出に

タイ東北部カラシン県にて発掘が進められている竜脚類の化石。ケース内のものは実物

。巨大恐竜を見上げて、見たことも無い大きさに感動しよう。そして生き抜くことの大変さと数々の生存戦略を知り、まわりの生き物への敬意を育もう。人生で、おそらく一番大きい生物を見るチャンスである。この圧倒的なスケールを、ぜひ実際に体感してみてほしい。『巨大恐竜展 2024』は9月14日(土)まで、パシフィコ横浜にて開催中。


文・写真=小杉 美香