警備ロボットugoと行動認識AIのアジラが連携 両社の弱点をカバー、警備のさらなる自動化・省人化、安全性向上へ

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点検や警備などに用いられているロボットのugoと、行動認識AIで知られるアジラの提携が2024年6月27日に発表された(リリース
)。ugoのカメラで撮影された映像に対して行動認識AIを適用することで、これまでよりも両社ソリューションの幅が広がる。ugo側から見ればロボットが撮影した映像を人間が常時チェックする必要がなくなり、アジラ側から見れば「動くカメラ」としてロボットを活用できる。



提携した株式会社アジラ 代表取締役CEO 兼 COO 尾上剛氏(左)とugo株式会社 代表取締役CEO 松井健氏(右)
製品としての展開は2024年内を予定する。両社それぞれの従来製品のオプションとして展開される。月額費用等は未定だが、数万円程度になる見込み。双方から導入済みの顧客に対して働きかけを行い、数年で数百台の導入を考えているという。



アジラとugoの取り組み。両者の弱点をカバーしあう
AI処理はクラウドだけでなくugoに搭載したNVIDIA Jetsonで行うためネットが使えない場所でも適用できる。アジラは移動ロボットでも適用できる小型AIモデルを開発した。7月30日には会見とデモも行われた。



既設の天井監視カメラとugoのロボットが連携する


ugoにNVIDIA Jetson AGX Orinを搭載

●■約半数が3年以内に離職する警備業界



株式会社アジラ 代表取締役CEO 兼 COO 尾上剛氏
両社は互いに「営業戦略が似ている」と考えたことから連携に至ったという。会見には株式会社アジラ 代表取締役CEO 兼 COO 尾上剛氏とugo株式会社 代表取締役CEO 松井健氏の二人が登壇した。なお二人はどちらも黒のポロシャツ姿に社名ロゴ入りというスタイルだったが、これは本当に「たまたま」だそうだ。



日本の労働人口は今後減少する
アジラの尾上氏は最初に、日本の労働人口減少を挙げた。労働人口は今後25年間で1,806万人減少すると予想されている。多くの業態で従来のサービス品質の維持が困難になると予想される。尾上氏は「この大きな課題を2社で解決していきたい」と語った。

なかでも警備業界の人手不足は大きな問題となっている。警備業界の有効求人倍率は6.2倍であり、大幅な人手不足となっている。また現在は58万人と言われている警備員人口は今後半分に減ってしまうと考えられており、これはつまり、いま10人で行っている警備を5人でまわしていかなければならなくなることを意味する。



警備業界の離職率は高く、約半数が3年以内に離職
また、警備業界の離職率は高い。一般の職業全体の離職率は12.7年だが、警備業界では、約半数が3年以内に離職してしまう。この背景には労働環境がある。つまり身体的負荷と長時間労働だ。尾上氏によれば、ある警備会社では年間200人を採用しており、その一人あたりの採用コストは50万円。つまり年間1億円かけて採用しているが、その人員がどんどん辞めていってしまうという。長続きしないのは労働環境が厳しいからだ。そこで、既に警備業界で働いている労働者の身体的負担をDXで何とかしたいと考えていると述べた。

●■ 違和感も検知できるアジラ「asilla AI Security」



アジラの施設管理・AI警備システム「asilla AI Security」
AI警備システムを手掛けているアジラは2015年創業。現在の従業員数は100名超。ベトナムにも子会社があり、AIの技術開発に強みを持つ。累計進調達金額は約17億円。「行動認識AIでは世界トップクラス」だと尾上氏は語った。顧客はデベロッパー、管理会社、警備会社など。いずれも人材不足に備えてDXを進めている会社となる。



アジラの行動認識AI
アジラの行動認識AIは、二段階で解析を行う仕組みだ。まず姿勢を関節点から推定する。その姿勢を時系列解析して、どういう行動をしているかを解析し、結果を出力する。姿勢推定、時系列解析、いずれの技術もオープンソースのソフトウェアではなく、完全に自社で開発している。同社のAIを使えば実用的な精度と速度が出せ、「リアルタイムでアラートを上げられる」という。

なお、カメラそのものにAI機能を付けた、いわゆる「AIカメラ」ではない。既設の一般的なカメラで撮影された映像を解析してアウトプットするため、初期コストはあまりかからない。



アジラの検知項目。トラブルが起こる前の違和感も検知可能
検知する内容は、迷惑行為、滞留行為、暴力行為など。体調不良や、車椅子や白杖検知も可能だ。施設利用状況を見るための人数カウントや混雑状況の検知もできる。

強みは、普段と違う動きを検知することで、「予兆」や「違和感」の検知ができること。時折ニュースにもなるエスカレーターでの人の行動の違和感を検知することで、服が挟まったりしたことを素早く検知することができる。そのほか、不審行動、飛び降り予兆の検知などもできる。今後は人間行動以外のもの、炎と煙の検知、不審物検知も行えるように開発を進めているという。



アジラでの実際の検知画像の例
導入先としては、最近は駅や空港の導入も増えているとのこと。大学やオフィスビル、宿泊施設、病院などにも導入されている。「映像解析の会社では導入実績ナンバーワンだ」と語った。アジラの強みはカスタマーサクセスチームが導入サポートを行い、現場警備員の使いこなしをしっかりサポートできるところだという。



カスタマーサポートチームが業務プロセス改善を提案
300台以上のカメラを使っているある複合商業施設では、約17%の人員削減が可能となり、他の施設に警備員を回すことが可能になったという。警備業界は人手不足のために新しい物件の要望が来ても対応できなくなりつつあるが、省人化することで新しい物件をとることができ、売り上げ増にもつながっているという。



ある複合商業施設での導入効果
カメラで撮影していても、防災センタのモニターを誰も見てないところも増えており、また人はどうしても見逃しもある。尾上氏は「AIが常時モニタリングすることで省人化と同時に安全・安心を高めることが可能。ugoとアジラが組むことでさらに加速できる」と語った。



人間による監視からAIを使った常時監視にして省人化も可能

●■自律+遠隔操作で警備をロボット化するugo



ugo株式会社 代表取締役CEO 松井健氏
ugoについては本誌読者は既にお馴染みだが、改めて簡単に紹介すると2018年創業、従業員数は50名あまり。自社開発のロボットを使った遠隔監視、自動巡回、自動案内などの警備や点検などの業界をターゲットとしたソリューション開発を進めている。



一台のロボットに複数業務を担わせることもできる
同社のロボットの特徴は、自律動作と遠隔操作を組み合わせた、いわば半自動で操作できるところ。これによって警備分野における立哨や巡回など肉体的負担の大きい仕事をロボットで代替させることができる。

フロア間移動についてもエレベーターを使える。人間のように腕の先についた指でボタンを押すか、エレベーター側に改造を施してクラウド連携で行き先フロアを無線で指定するかだ。



エレベーターを使ってフロア間移動も可能
ugoのロボットは商業施設やオフィスビル、空港などに導入されており、富士経済によれば、2023年業務用セキュリティロボット分野でマーケットシェア一位となっている。



ugoは2023年業務用セキュリティロボット分野でマーケットシェア一位
アジラは異常検知のAIカメラでシェア1位、ugoは国内セキュリティロボットでシェア1位なので、今回の提携は、一位同士でタッグを組んだということになる。この理由について松井氏は高度なシステム化によって、業界の技術革新をリードし、革新的解決策を一緒に生み出していきたいと語った。



アジラとugoはどちらもターゲット業界でシェアナンバーワン
警備ロボットは監視を行おうとするとモニターを見ていなければならないが、AI機能を導入することで、監視自体も自動化できる。また、建物には監視カメラがあるが、たくさんつけるには維持管理コストも必要となり、死角は見ることができない。また、カメラから音を出して注意するといったこともできないが、ugoを使うことで動くカメラとして活用できるようになる。これにより、省人化と安全性の向上・警備の高度化ができるという。



アジラとugo連携のメリット。互いの弱点をカバーしあい、さらに高度化できる

●■ ロボット向け行動認識AI「mini asilla」を開発



ロボット向け行動認識AI「mini asilla」を開発
この業務提携のためにアジラ側では新たに「mini asilla」を開発して、ロボット上のエッジコンピュータでAI処理ができるようにした。

ugoでは「miniasilla」を動作させるためにNVIDIAのJetson AGX Orinを搭載する。なおロボットの稼働時間への影響はそれほどないとのこと。今後、2024年10月ごろに品川シーズンテラスで実証実験を行う予定だ。品川シーズンテラスは両社にとって馴染みのある場所となっている。



今後のロードマップ。2024年内の製品化を目指す。

●■ ロボット+AIによる自動行動検知のデモ



ロボットによる自動行動検知のデモ
デモは三種類行われた。まず一つ目は喧嘩など迷惑行為への対応。ugoのロボットが自身のカメラとエッジ処理で迷惑行為を検知して警告を発する。同時に警備員に対して発報を行う。

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二つ目は侵入禁止エリアへの対応。これも同様だ。

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3つ目は転倒者の検知と支援。施設設置の防犯カメラとロボットとの連携で、こちらは天井に設置されている防犯用監視カメラとアジラで倒れている人を発見すると、ロボットと警備員がその場に駆けつけて呼びかけを行う。

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