損保で強まる出向者の組織的「スパイ活動」疑惑
金融庁は損保大手4社に対して情報漏洩に関する報告徴求命令を出した(編集部撮影)
損害保険業界で発覚した出向者による情報漏洩問題が、底なしの様相を呈してきた。
損害保険ジャパンは7月23日、代理店出向者による競合他社の契約者情報の漏洩が、銀行系代理店をはじめとして9つの代理店で発生していたことを公表した。
個別の代理店名は開示しなかったが、現時点で漏洩の疑義が出ている代理店(一部は代理店が公表)は、旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)の親密代理店・トータル保険サービス、横浜銀行の同・朋栄、十六銀行の同・共栄ライフパートナーズ、山陰合同銀行の同・松栄、千葉銀行と大手自動車ディーラーのウエインズトヨタ神奈川だ。
共栄ライフパートナーズについては、東京海上日動火災保険からの出向者も、他社の契約情報をメールで出向元の東京海上に送っていたことが発覚。東京海上では、ほかの銀行系代理店でも出向者による情報漏洩の疑義が浮上している。
出向元からの要請というケースが多い
深刻なのは、出向者による情報漏洩が出向元からの要請というケースが多く、さらにその出向先が代理店にとどまらない可能性があることだ。
千葉銀行の事例では、親密代理店ではなく、千葉銀本体に損保ジャパンから出向している社員が、情報を漏洩していたという。
損保ジャパンは7月23日、9つの代理店で同社からの出向者による他社契約情報の漏洩があったと発表した(編集部撮影)
さらに複数の関係者によると、霞が関の中央省庁との人材交流で大手損保から出向していた人物が、「省庁内での引き継ぎ資料を(出向元である大手損保の)公務開発部門などに連携していた」事例が過去にあったという。
つまり、出向者があたかも「スパイ」のように、行政機関の機密性の高い情報を、出向元の損保に横流ししていたということだ。
「不正競争防止法違反に当たる可能性も」
代理店の契約者情報や行政機関の業務資料といった機密情報の漏洩は、個人情報保護法違反にとどまらず、「不正競争防止法違反に当たる可能性がある」(金融庁幹部)。
金融庁は7月22日に、損保ジャパン、東京海上、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の4社に対して、情報漏洩をめぐって8月末を期限として報告徴求命令を出している。
報告を求めている内容は、各社が5月に公表していた、主に自動車ディーラーにおける契約者情報のメール一斉送信による情報漏洩と、損保からの代理店出向者による情報漏洩についてだ。行政機関や金融機関本体への出向者による情報漏洩は、報告内容に含んでいない。
今後、金融庁による追加の調査・報告指示で出向者による情報漏洩が代理店に限らず、広い範囲で確認された場合には、行政機関や金融機関との人材交流が大きく制限されることになるかもしれない。
(中村 正毅 : 東洋経済 記者)