米国上院商務委員会(Commerce Committee)は、AIとプライバシーの接触に関連するさまざまな懸念に対処するための公聴会を開催した。オンライン監視、詐欺、ハイパーターゲティング広告、差別的な商慣行などのリスクをAIが加速させることに懸念を表明する議員がいた一方で、規制によって巨大IT企業がさらに保護され、中小企業に負荷がかかる可能性があると警告する議員もいた。

マリア・キャントウェル上院議員(民主党、ワシントン州)によると、AIのリスクはソーシャルメディアやデジタル広告に関連する消費者へのリスクを加速させる可能性があるという。同氏は、オンライン広告の成長がデータによって推進されたのと同じように、テック企業が機密データを使ってAIモデルをトレーニングし、その情報を消費者にとって不利になるよう利用するのではないかと懸念している。

キャントウェル氏は、地元のあるレストランが、来店を希望する客の収入に関するデータに基づいて予約を受け付けていると報じられていると述べた。

「ワインのボトルをオーダーできるだけの資金を持っていなければ、予約をほかの人に譲ることになる」と同氏はいう。

「強力なプライバシー法がなければ、公開データを使い切ったあと、企業が我々の個人情報を使用することを誰も阻止できない。個人に関する膨大な量のパーソナルデータを収集し、非常に低コストで迅速に推論を作成できるという能力は、同じ製品を異なる価格で消費者に販売するなど、有害な方法で利用される可能性があると危惧している」。

キャントウェル議員とほか数名の議員は、知的財産を保護し、AI生成コンテンツのさまざまなリスクを回避するために、新たな連邦透明性基準を可決したいと考えている。

新法案「COPIED法」を提出



キャントウェル議員とマーシャ・ブラックバーン上院議員(共和党、テネシー州)およびマーティン・ハインリッヒ上院議員(民主党、ニューメキシコ州)は、出版社や俳優などのアーティストを保護すると同時に、AI生成の誤情報のリスクを軽減するための超党派の新法案「COPIED法」(Content Origin Protection and Integrity from Edited and Deepfaked Media Act、「編集されたメディアおよびディープフェイクメディアからコンテンツの出所を保護し完全性を維持することに関する法」の略)を提出した。

COPIED法では、国立標準技術研究所(NIST、National Institute of Standards and Technology)がAIモデルの透明性の基準、合成コンテンツの検出と透かし入れを含むコンテンツ来歴保護の基準、および、コンテンツ来歴データの改ざんを禁止する新たなサイバーセキュリティ基準を策定することになる。

またこの法案では、AI企業が保護されたコンテンツを使用してAIモデルをトレーニングすることや、許可なくコンテンツを生成することが禁止され、個人や企業が違反者を訴えることができ、連邦取引委員会(Federal Trade Commission)と州検事に規制を執行する権限が与えられる。

ブラックバーン氏によると、プライバシー規制やCOPIED法のような法律は、人々が自分自身を守るためにこれまで以上に重要になるという。また、AIディープフェイクの犠牲にならないよう、フェイク禁止法(No Fakes Act)のような法案を提出する必要もあると述べた。「バーチャルなあなたは誰のものか?」と同氏は問いかけた。

データプライバシーの重要性を強調



ニュース/メディア連合(News/Media Alliance)、全米新聞協会(National Newspaper Association)、全米放送事業者協会(National Broadcasters Association)、SAG-AFTRA(全米映画俳優組合)、ナッシュビルソングライターズ(Nashville Songwriters)、レコーディングアカデミー(Recording Academy)などの主要な組織はすでにCOPIED法を支持している。

法案の本文によると、COPIED法はソーシャルメディア企業、検索エンジン、コンテンツプラットフォーム、そのほかテック企業など、年間収益が5000万ドル(約78億7000万円)以上で3カ月以上にわたってユーザー数が2500万人を超えるプラットフォームに適用される。

公聴会で証言した専門家証人のひとりが、ワシントン大学の法学教授でUWテックポリシーラボ(UW Tech Policy Lab)の共同創業者でもあるライアン・カロ氏だ。同氏は、企業がすでに顧客データを使って価格を変える方法を検証しつつあると主張し、Amazonがリピーターに高い料金を請求したり、ウーバー(Uber)が携帯電話のバッテリー残量が少ない顧客に高い料金を提示したりする例を挙げた。

「これはAIを使って消費者余剰を引き出す世界であり、よい世界ではない。そして、データを最小化することで対処できる世界だ」と同氏は語った。

カロ氏などの証人は、データを最小化することに関する新しい法律は、データの収集、共有、悪用から消費者を守るのに役立つ可能性があると述べた。IT組織のモジラ(Mozilla)でグローバル製品ポリシー担当ディレクターを務めるウドバフ・ティワリ氏は、早期にAIモデルにプライバシー機能を組み込むことが有益だろうと述べた。

別の証人であるテクノロジー関連研究機関のAIナウインスティテュート(AI Now Institute)で共同エグゼクティブディレクターを務めるアンバ・カク氏は、人の声のトーンのようなささいなものが、さまざまな結果を予測するために使われる可能性があると警告した。

「未来を予知する力などなくても、あらゆる道こそ、我々が今ここに集まった理由となっている広告技術に行き着くことは自明だ」とカク氏は述べた。「今こそ行動のときだ」。

連邦データプライバシー法がなければ、自分のデータを誰が持っていて、どのように使われているかを知ることは不可能だと、ジャッキー・ローゼン上院議員(民主党、ネバダ州)は述べた。統一された規制がなければ、「データのサプライチェーンは抜け穴だらけになる」と同氏は言う。

中小企業の生産性向上に言及



一部の議員は、AI規制が意図せず中小企業に損害を与える可能性があると警告した。別の専門家証人として、数千のデベロッパーとコネクテッドデバイスメーカーを代表する業界団体のアクト(ACT | The App Association)のプレジデントであるモーガン・リード氏は、米国プライバシー法があれば、増え続ける州のプライバシー法に対処する必要なしに、中小企業が法を遵守しやすくなると述べた。

同氏は、小規模なテック企業だけでなくテクノロジーを利用する中小企業もAIおよびプライバシー法の影響を受けるという。

「実際には、中小企業のほうが早くAIを導入している」とリード氏は述べた。「現在、会員の90%以上が生成AIツールを使用しており、平均で生産性が80%向上している。また、こうしたソリューションを開発する会員は、大手のライバルよりも機敏だ。彼らの経験は、AIの開発と使用に新しい法律をどう適用すべきかについて政策立案者に重要な情報をもたらすだろう」。

テッド・クルーズ上院議員(共和党、テキサス州)は、AI規制の拡大に警鐘を鳴らした委員会メンバーのひとりだ。同氏は公聴会の冒頭での発言で、連邦AIおよびプライバシー法の必要性を認めながらも、規制は特定の問題への対処にもっと焦点を絞るべきだと述べた。

その一例が、同氏がエイミー・クロブシャー上院議員(民主党、ミネソタ州)と共同で提出している超党派法案のテイクイットダウン法(Take It Down Act)だ。先月提出されたこの法案は、実在の人物の露骨なAI生成ディープフェイクを作成して公開する悪質な行為者をターゲットとしている。

「我々の目標は、画一的なデータプライバシー基準ではなく、米国の技術革新を妨げることなくプライバシーを保護する適切な基準を可決することだ」とクルーズ氏は述べた。

[原文:AI Briefing: Senators propose new regulations for privacy, transparency and copyright protections]

Marty Swant(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:坂本凪沙)