漢方において、日々の習慣で健康な体を目指す「養生」は、心と体を整える近道。そんな養生の考え方で心身の不調を改善するヒントを教えてくれるのは、漢方家の櫻井大典さん。ここでは、「自己肯定感が低く、つい他人と比べては落ち込みます」という悩みに対し、アドバイスしてもらいました。

そもそも、心を強くしなくて、大丈夫

まず、心を強くする必要はありませんよ、今のままで大丈夫。変わろう、変わらなければ、と思いすぎることは、しんどいものです。なぜなら、変わろうとする思いこそが、今の自分の否定にほかならないですから。

それに、あなたの心は強いわけでも、弱いわけでもありません。心の反応というのは、その人が今までの人生を生き抜くために培ってきた、いわばサバイバル術のようなもの。これまで育ってきた環境のなかで自分を守るため身につけてきた術が、今の状態なわけです。それはきっと、あなたがこのまま生きていくうえでも役立つものでもあるので、捨てなくて大丈夫です。

自分の気持ちを素直に感じることから始めてみる

自分の気持ちよりも、だれかに言われたことの方を、無意識のうちに優先させてしまっている場合、自分が本当はどう思ってどう感じているのか、まずは自分の気持ちを感じる、知る、というところからスタートした方がよいかもしれません。

自分を好きになれないと思ったとき、自分はダメだと思ったときに、自分の感情を丁寧に感じてあげることです。つらいのか、悲しいのか、悔しいのか。いつもならすぐに自分を責める方向へ気を向かせていたのを、自分自身の深いところへ矛先を向けるイメージです。

悔しかったのかもしれないし、怒りたかったのかもしれない、ただただ悲しかったのかもしれない。悔しいと感じても間違いじゃないし、怒りと感じても問題ない。自分の気持ちを素直に感じる、その湧き上がってくる気持ちを認めてあげる訓練はよいと思います。

自分が自分のためにしてあげることを見つけるレッスンを

「とはいえ、今の私を好きになれないし」という不安感や、「じゃあこの悶々とした思いをどうすれば」という虚無感があるなら、ちょっと思考を未来へ向けてみましょうか。“今の私を丸ごと変える”ではなくて、“今の私ができることを増やす”、という視点です。“変わる”ではなくて、“増やす”。どうでしょう、これならできそうじゃないですか?

なんでも初めてはできませんが、練習すればできるようになるので、まずは「できることを増やそう」と、心がけていくことが大事です。たとえば、自分をやさしくいたわってあげること。傷ついているこころをそっと包むように、リラックスさせてあげることです。そのために自分ができることを、1つでも2つでも見つけてみませんか。

どうしたらリラックスできるか、どうやったらこころが休まるか、どんな方法が考えられるか、自分にはどれが合っているか。その中で自分がすぐにどこでも実践できることはあるか。

絶対的に正しいことなんて、この世にはありません。苦手なこともがんばって克服すべきかもしれないけれど、苦手なことを避け、大好きなことだけをやり続けた人が、その後大きな成功を収めているケースもあります。「いつでも謙虚でいるべき」と言われるけれど、周りの空気を読まずにガンガン行動していった人が、成功したり、世のためになっていたりすることもあります。

それに、そもそも“成功する”ことが、絶対の善というわけでもありませんよね。はたから見ればおおよそ平凡な人生が、本人にとっては豊かで最高の一生だったりもします。なにがよいことなのかの判断基準は、人によっても、時代によっても変わり、すべてが曖昧。そんな不確かで無責任な判断基準に自分の身を委ねて、よし悪しを判断されるよりも、自分が自分のためによいことをしてあげた方が、ずっといいと思うのです。