アメリカは中国に対する高性能半導体の輸出を制限していますが、中国の大学や軍事企業が依然としてNVIDIA製の高性能半導体を購入し続けています。新たに、ウォール・ストリート・ジャーナルが「中国でNVIDIA製高性能半導体を販売するブローカー」に取材してその手法を報じました。

The Underground Network Sneaking Nvidia Chips Into China - WSJ

https://www.wsj.com/tech/the-underground-network-sneaking-nvidia-chips-into-china-f733aaa6

中国ではAIの研究開発が盛んに行われており、中国の生成AI関連の特許出願数はアメリカに大差を付けて世界1位となっています。アメリカは中国のAI研究を軍事上のリスクと認識しており、AI研究に用いられる高性能半導体の輸出を制限しています。

アメリカによる中国への輸出制限は国内だけでなく日本やオランダも巻き込んだ大規模なものですが、中国ではアメリカの規制をすり抜けた高性能半導体が流通し続けています。特にNVIDIAのAI特化GPU「H100」が人気で、中国の軍事機関や研究機関がH100を購入していることが明らかになっています。

中国の軍事機関・国営AI研究機関・大学などがアメリカから禁止されているNVIDIA製半導体を少しずつ購入していた実態が判明 - GIGAZINE



中国国内でH100を販売するブローカーによると、H100はデータセンターを経由して流通しているとのこと。NVIDIAはH100を直接顧客に販売することはほとんどなく、大部分をDellやSuper Micro Computerといったデータセンターの運営企業に販売しており、データセンターの運営企業は機器の保守のために配備するよりも多くのH100を購入します。この余った分のH100が何らかのルートで中国に渡っているというわけです。

H100の中国の輸送方法の1つが「中国に入国する人にH100を運ばせる」というものです。ウォール・ストリート・ジャーナルの取材に応じた中国人の学生は「シンガポールに留学している際に、帰国時に高性能半導体を運んでくるように頼まれた。高性能半導体はNintendo Switchくらいの大きさだった。何の問題もなく空港の検査を通過し、中国に到着してからブローカーに手渡して、高性能半導体1台当たり100ドル(約1万6000円)の報酬を受け取った」と証言しています。

中国に持ち込まれたH100は、ブローカーによって企業に販売されるほか、フリーマーケットアプリで売買されることもあります。実際に、アリババ傘下のフリーマーケットアプリ「Idle Fish」で「NVIDIA H100」と検索した結果、本物のH100だと主張する製品が大量に出品されていました。



通常の経路で入手する場合、H100の価格は1台当たり2万5000ドル(約403万円)とされていますが、中国では1台当たり3万2400ドル(約522万円)で取引されているとのこと。ブローカーの中には「3年間の交換保証」を掲げている者も存在しますが、信頼性は不透明です。

なお、中国の大きな需要はアメリカの半導体メーカーにとっても魅力的なものであり、NVIDIAやIntelなどの半導体メーカーは高性能半導体の「規制に適合するように性能を抑えたバージョン」を開発して中国向けに販売しています。NVIDIAはH100の性能制限版である「H20」の注文を中国で受けつけており、2024年内に100万個を販売して2兆円の売上を計上すると推測されています。

NVIDIAは2024年に中国でH20チップを100万個販売して2兆円を売上げる予定、HuaweiのAIチップの2倍を販売して存在感を示す - GIGAZINE