余分なカロリーを脂肪として蓄えてしまう細胞を、脂肪を燃やしてくれる細胞に変化させる方法についての研究論文が発表されました。幹細胞から作るしかないと考えられてきた細胞が、脂肪細胞から作れることを示した今回の発見は、肥満治療の進歩に弾みをつける成果だと期待されています。

JCI - White adipocytes in subcutaneous fat depots require KLF15 for maintenance in preclinical models

https://www.jci.org/articles/view/172360

Scientists Discover How to Make Ordinary Fat Cells Burn Calories | UC San Francisco

https://www.ucsf.edu/news/2024/06/427971/scientists-discover-how-make-ordinary-fat-cells-burn-calories

Scientists May Have Figured Out How to Make Fat Cells Burn Calories : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/scientists-may-have-figured-out-how-to-make-fat-cells-burn-calories

Scientists unveil KLF15 transcription factor's role in white fat cells, opening new paths for obesity therapy

https://www.news-medical.net/news/20240704/Scientists-unveil-KLF15-transcription-factors-role-in-white-fat-cells-opening-new-paths-for-obesity-therapy.aspx

哺乳類の脂肪細胞には脂肪を蓄える「白色脂肪細胞」、脂肪を燃焼させる「褐色脂肪細胞」、両方の性質を持つ「ベージュ脂肪細胞」の3種類があります。

人間では、褐色脂肪細胞でできた「褐色脂肪組織(BAT)」は生後1年で消えてしまいますが、ベージュ脂肪細胞は白色脂肪細胞とともに「白色脂肪組織(WAT)」の中に残ります。そのため、ベージュ脂肪細胞は「白色(white)の中の褐色(brown)」という意味で「ブライト(brite)脂肪細胞」と呼ばれることもあります。

人体は、寒さや食生活などによって自然に白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に変えることができるため、肥満治療の専門家たちはこれまで、幹細胞を成熟させてベージュ脂肪細胞へと分化させることで、この変化のプロセスを再現しようと考えてきました。

しかし幹細胞は希少なので、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のブライアン・J・フェルドマン氏は白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞へと直接変化させる方法を検討することにしました。

フェルドマン氏は「私たちにとって白色脂肪細胞は珍しくも何でもなく、むしろ喜んで手放したいものです」と話しています。



以前の実験から、「KLF-15」というタンパク質が脂肪細胞の機能に関連していることを知っていたフェルドマン氏は、同僚のリャン・リー氏とともに、脂肪細胞の種類とKLF-15の関係をさらに深く調べることにしました。

まず、研究チームが生涯にわたって褐色脂肪細胞を持ち続けるマウスで調査したところ、白色脂肪細胞の中のKLF-15の量は褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞に比べて約75%も少ないことが判明しました。

白色脂肪細胞にはKLF-15が少ないことを手がかりに、今度はKLF-15を作れないマウスを繁殖させたところ、マウスの白色脂肪細胞がベージュ脂肪細胞に変化したことがわかりました。これによって、脂肪細胞が別の形態に変化することや、KLF-15が存在しないことで脂肪の「デフォルト設定」が白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞に変化することが示唆されました。

この変化のプロセスを解明するべく、フェルドマン氏らがヒトの脂肪細胞を培養し、褐色脂肪細胞によるカロリーの燃焼を刺激するβ-アドレナリン作動薬「イソプロテレノール」を加えてみたところ、白色脂肪組織で作られるKLF-15が半分に減少しました。また、アドレナリン受容体には「ADRB1〜3」の3種類がありますが、KLF-15が重要な影響を及ぼしているのは「ADRB1」だということもわかりました。

以下のうち、上は普通の白色脂肪細胞で、下はKLF-15が欠損したことでベージュ脂肪細胞が混じった白色脂肪細胞です。



科学者の間では、「ADRB3」を刺激するとマウスの体重が減ることが知られていますが、この受容体に作用する薬を人間に投与する試験の結果は期待外れでした。つまり、マウスの褐色脂肪の活性化に重要なのはADRB3ですが、人間ではADRB1だったので、これが試験結果が芳しくなかった原因の可能性があるわけです。

こうした結果からフェルドマン氏は、ADRB3ではなくADRB1を標的とする薬の方が効果的で、食欲や血糖値を抑える現行の減量薬の注射よりメリットが多いのではないかと考えています。

また、このような薬は脳ではなく脂肪に作用するので、吐き気のような副作用も避けられる上に、脂肪細胞は比較的寿命が長いので、効果も長続きする可能性があります。

タンパク質の生成を制限するだけで、白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に変化させられることを示した今回の研究結果について、フェルドマン氏は「多くの人は、これは実現不可能だと思っていました。私たちは、このアプローチで実際に白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に変化させることが可能で、そのハードルは私たちが考えたほど高くもないということを示したのです」と話しました。