弁当にも最適、冷めても美味「鶏の照り焼き」作る技
今回は「鶏の照り焼き」のレシピを伝授します(以下、写真はすべて筆者撮影)
料理の腕を上げるために、まず作れるようになっておきたいのが、飽きのこない定番料理です。料理初心者でも無理なくおいしく作れる方法を、作家で料理家でもある樋口直哉さんが紹介する『樋口直哉の「シン・定番ごはん」』。今回は「鶏の照り焼き」です。
生焼けのリスクが格段に低い
鶏の照り焼きは料理初心者にもおすすめのメニュー。はじめて肉を焼くときは生焼けの心配がありますが、照り焼きは仕上げにタレを絡めながら煮るのでそのリスクが格段に低いのが特徴。目指すのは「皮には焼き色がつき、なかはジューシーな仕上がり」です。
冷めても美味しいのでお弁当の主菜としても活躍してくれます。
鶏の照り焼き(材料2人分)
鶏もも肉 1枚(300g)
塩(下味) 適量(鶏の重量の0.5%程度)
長ネギ 1/2本
★調味液
みりん 大さじ1
しょうゆ 大さじ1
砂糖 大さじ1
酒 大さじ2
サラダ油 大さじ1/2
鶏もも肉の身側に少々の塩を振ります。あとから調味料で味付けするので、この段階では控えめに。重量の0.5%が目安です。
また、鶏肉は比較的食中毒のリスクが高い食品の1つです。鶏肉を水で洗うのは厳禁。洗ったときの水がはねるとシンクや調理台が汚染されるリスクがあるからです。
パックの底にドリップが出ている場合はキッチンペーパーなどでふきとります
このとき、悩ましいのは買ったときについてくるトレーの扱いです。食品衛生的には洗わずに捨てる、というのがベストですが、分別をすすめている自治体によっては洗ってから捨てることが求められる場合があります。
この場合は一度、ポリ袋などに戻して離れた場所に置いておき、調理が終わってから洗浄するのがベターでしょう。鶏肉の食中毒の原因となるカンピロバクターは乾燥に弱いため、しっかり乾かしておけば問題ありません。
常温に戻してから焼くと、均一に火が通る
常温に30分ほど戻してから焼くことで、均一に火が通ります。今回は40℃の湯に5分浸ける方法をとることで、その時間を短縮しましょう。
これは調理科学の第一人者、ハロルド・マギーが紹介している方法で、あらかじめ肉の温度を上げることで外側と内側の温度差が少なくなり、調理時間も短縮できます。肉を温めることで表面の細菌は増えますが、その後、高温で焼くので問題にはなりません。
ビニール袋の内側には細菌が付着しているので、再利用できません
そのあいだに長ネギを3〜4cm長さに切っておきます。
ししとうなどを一緒に焼いてもいいでしょう
フッ素樹脂加工のフライパンにサラダ油大さじ1/2(今回は太白ごま油を使用しています)を引きます。鶏の皮目から脂が出るので、油を使わなくても調理自体はできますが、はじめに油を引いておくことで表面の凹凸が埋まり、効率的に鶏の皮目から脂を引き出せるからです。
フライパンは大きすぎず、小さすぎない26cmを使います
皮目を下にして鶏肉を置きます。チキンソテーのように皮付きの鶏肉を焼くときは「皮から焼く派」と「あらかじめ身側を少しだけ焼いておいてから皮目を焼く派」の2通りの流派があります。
どちらでもかまいませんが、皮に均等な焼色をつけるためにはフライパンに押し付ける必要があるので、フライパンで焼く場合は皮を先に焼いたほうがいいでしょう。
皮目をなるべく伸ばします
クッキングシートをのせ、水を張った鍋で重し
クッキングシートを丸く切り、鶏肉のうえにのせます。
アルミホイルでも問題ありません
水を張った鍋(600〜800mlくらいが目安)で重しをして、中火にかけます。これで凸凹だった鶏の皮がフライパンに密着します。イタリア料理やフランス料理ではレンガを使って焼く技法がありますが、皮がフライパンに密着するので均等に焼けますし、脂もよく抜けます。
重しであればなんでもかまいません
火加減は中火です。最初から弱火だと皮目のコラーゲンの分解が進まず、カリッと感が弱くなります。かといって火が強いと先に焦げ目がついてしまい、脂が十分に抜けきりません。そのため中火くらいがベターなのです。
中火で2分30秒加熱した状態がこちら。家庭用のガスコンロの場合はSiセンサーというフライパンの温度上昇を防ぐ機能があるので温度が上がりすぎる心配はそれほどありません。Siセンサーが働いたら、火を弱火に落とします。
鶏から出た脂に水が落ちると跳ねて危ないので注意しましょう
鶏から出た脂で長ネギを焼きつつ、フライパンの温度を下げます。
長ネギの代わりにピーマンでもいいでしょう
3分〜3分30秒経過した段階で、焼き色をチェック。焼き色がついていれば裏返します。
焼き色がついたら裏返します
「脂を取り除く」手間を惜しまない
ここでフライパンの脂をキッチンペーパーなどで取り除きます。この一手間で仕上がりが脂っぽくなりませんし、調味料を入れたときの油ハネがなくなるのでガスコンロも汚れません。
やけどに注意しつつ脂をふきとります
調味料を加えていきます。鶏肉を焼くときは皮と身という性質の異なる2つの素材を焼く気持ちで調理するとうまくいきます。
肉の表面には香ばしい焼き色がつき、内側は加熱しすぎずジューシーな状態が理想。そのためには高温と低温という2つの温度を使い分ける必要があります。この調理法では皮目を油脂で焼き、身側は水分を介在させることで約100℃で加熱することで、温度をコントロールしています。
まず酒を加えてフライパンの温度を下げてから残りの調味料を加えるのがベター
調味液をスプーンでかけながら加熱を続けます。加熱スタートから終了までの目安は8〜9分。これで鶏肉にはしっかりと火が通りますが、スプーンで軽く押して鶏肉に弾力がない場合は蓋をして1分ほど加熱するといいでしょう。
スプーンでかけることで煮汁の煮詰まり具合がわかります
調味液をしっかりと煮詰める(=中火で加熱)と濃い味付けに、あまり煮詰めずに仕上げる(=弱火で加熱)と薄い味付けになるので、火加減で味加減を調整できます。
お弁当に入れる場合は、冷めてから切るのがおすすめ
取り出して、包丁で一口大に切ります。まず半分に切って火が通っているか、確認してください。もしも、中が赤ければフライパンに戻し、3分ほど休ませれば火がとおるはずです。お弁当に入れる場合はもう少し薄いほうが食べやすいですが、その場合は冷めてからのほうが上手に切れます。
ここでも火の通り具合は確認できます
肉を切ったときにでた肉汁をフライパンに戻してタレの味を整えるといいでしょう。
焼いた肉を切る専用のまな板があると便利です
器に盛り付け、タレをかけます。アクセントに粉山椒を振りましたが、七味唐辛子などもよくあいますし、黒こしょうなどでもおいしいです。炊きたての御飯とみそ汁、お漬物があればごちそうになります。
柚子ごしょうや辛子などを添えるとさらにいいでしょう
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(樋口 直哉 : 作家・料理家)