電池大手CATLが「サッカー中継スポンサー」の思惑
サッカー中継のスポンサー契約は、一般消費者へのブランド浸透を急ぐCATLの新戦略の象徴だ。写真は同社と咪咕のスポンサー契約調印式(CATLのウェブサイトより)
中国の寧徳時代新能源科技(CATL)は、EV(電気自動車)用の車載電池の世界最大手だ。同社は最近、「CATL」というブランドを一般消費者に浸透させようと、あの手この手を尽くしている。
6月7日には、中国の動画配信大手の「咪咕(ミグ)」と契約を結び、サッカー欧州選手権の生中継番組の「冠スポンサー」になったと発表した。咪咕は国有通信最大手の中国移動(チャイナ・モバイル)の子会社で、サッカー欧州選手権の生中継の中国向け配信権を持つ。
常識破りの方針転換
中国のEV関連企業では、完成車の大手であり世界第2位の車載電池メーカーでもある比亜迪(BYD)が、サッカー欧州選手権および北中米カリブ海チャンピオンズカップの中米地区の公式スポンサーを務めている。
だがBYDと違い、CATLは完成車の生産・販売を手がけていない。同社の製品が消費者の目に触れる機会はほとんどなく、常識で考えれば、ブランドを一般向けに宣伝する必要性は低い。実際、サッカーなどの人気スポーツのスポンサーをCATLが買って出たことは、過去には一度もなかった。
にもかかわらず、同社はなぜ方針を変えたのか。背景には、2023年からエスカレートする一方の車載電池業界の過当競争がある。
車載電池のブランドの一般消費者向けアピールで先鞭をつけたのは、前出のBYDだった。同社は2020年3月、エネルギー密度や安全性を向上させた新型電池を「刀片電池(ブレードバッテリー)」と名付け、宣伝を通じて「刀片電池を搭載するBYD車は高性能」というイメージを演出した。
この戦術が成功すると、競合の電池メーカーも自社製品に独自の名前をつけ、一般消費者向けにアピールするようになった。CATLも例外ではなく、セル・トゥー・パック(CTP)と呼ばれる最新技術を用いた新型電池を「麒麟電池」、超急速充電に対応した新型電池を「神行電池」とそれぞれ命名した。
CATLは自動車メーカーと協業し、同社製の車載電池の存在感を高めようとしている。写真は「CATL Inside」の第1号となった東風汽車集団の高級SUV(CATLのプロモーション動画より)
それだけではない。2024年に入ると、CATLは一般消費者向けの新たなブランド戦略をスタートさせた。直接の顧客である自動車メーカーと協業し、CATL製の電池を搭載したEVの車体に「CATL Inside(CATLインサイド)」と書かれたバッジを取り付けるというものだ。
自動車メーカーの調達に不満
「CATL製の電池は、品質でも寿命でも競合他社製に勝っている。だが、一般消費者がそれを体感するのは難しく、自動車メーカーはコスト最優先で他社製の電池を調達するきらいがある」
財新記者の取材に応じた関係者はそう語り、CATLが一般消費者向けの宣伝を強化する真意を次のように説明した。
「上述の現状にCATLは不満を抱いている。そこで、一般消費者に『EVを買うなら電池はCATL製が一番』というイメージを植え付けることで、(消費者からの圧力により)自動車メーカーの調達行動を変えるのが狙いだ」
(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は6月9日
(財新 Biz&Tech)