毎月、新たに発売されるビジネス書は約500冊。いったいどの本を読めばいいのか。読書家が集まる本の要約サービス「flier(フライヤー)」で、6月にアクセス数の多かったベスト20冊を、同サービスの編集部が紹介する――。
写真=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
サイゼリヤの看板、ロゴ=2023年9月13日、都内 - 写真=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
第1位:『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆著、集英社)
第2位:『罰ゲーム化する管理職』(小林祐児著、集英社インターナショナル)
第3位:『このプリン、いま食べるか? ガマンするか?』(柿内尚文著、飛鳥新社)
第4位:『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』(小林弘幸著、アスコム)
第5位:『なぜか話しかけたくなる人、ならない人』(有川真由美著、PHP研究所)
第6位:『メンタル脳』[アンデシュ・ハンセン/マッツ・ヴェンブラード著、久山葉子(訳)、新潮社]
第7位:『まっすぐ考える』[ダリウス・フォルー著、桜田直美(訳)、サンマーク出版]
第8位:『サイゼリヤの法則』(正垣泰彦著、KADOKAWA)
第9位:『レジの行列が早く進むのは、どっち⁉』(サトウマイ著、総合法令出版)
第10位:『ビジネス会食 完全攻略マニュアル』[yuuu(ユウ)著、ダイヤモンド社]
第11位:『タピオカ屋はどこへいったのか?』(菅原由一著、KADOKAWA)
第12位:『ユニクロ』(杉本貴司著、日本経済新聞出版)
第13位:『トークの教室』(藤井青銅著、河出書房新社)
第14位:『仕事の成果が上がる「自分ごと化」の法則』(千林紀子著、有隣堂)
第15位:『自分を否定しない習慣』(小澤竹俊著、アスコム)
第16位:『怒りの扱い方大全』(戸田久実著、日本経済新聞出版)
第17位:『多様性って何ですか? D&I、ジェンダー平等入門』(羽生祥子著、日経BP)
第18位:『罪と罰』[ドストエフスキー著、米川正夫(訳)、出版社名なし]
第19位:『「先延ばしグセ」が治る21の方法』[デイモン・ザハリアデス著、弓場隆(訳)、ディスカヴァー・トゥエンティワン]
第20位:『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方』(仲山進也著、小学館)

※本の要約サービス「flier」の有料会員を対象にした、2024年6月の閲覧数ランキング

■なぜ働いていると本が読めなくなるのか

今月の第1位は、多くのビジネスパーソンをドキッとさせた『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でした。

三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)

著者の三宅香帆さんは書評家でありながら、数々の自著を上梓してもいる、筋金入りの本好き。そんな三宅さんでさえ、大学院を卒業して働き始めると、スマホを見る時間はあるのに本が読めなくなったといいます。

そこで本書では、近代以降の日本における労働史と読書史を紐解きながら、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という問いに対する答えを導き出していきます。

その答えを一言で要約すると「本はノイズ込みの情報にあふれたメディアであり、多忙になるとノイズ込みの情報を得る余裕がなくなるから」。ここで本と対照的な存在として位置づけられるのは、インターネット検索でインスタントに得られ、すぐに役立つ情報です。

三宅さんは本書の結びとして、「働きながら本を読める社会」をつくるために「半身で働こう」と提案しています。忙しくて本が読めていない人はもちろん、「最近ゆっくり映画を見られていないな」「推しの最新情報を追い切れていない」という人にも手に取ってほしい一冊です。

■管理職として働くことは「罰ゲーム」になりつつある

第2位は『罰ゲーム化する管理職』でした。

小林祐児『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)

パーソル総合研究所上席主任研究員である著者、小林祐児さんは本書の冒頭で“今、管理職として働くことは「罰ゲーム」と化しつつある”と指摘しています。おそらくビジネスパーソンの多くが、同じような感覚を抱いているでしょう。

実際、パーソル総合研究所の国際調査によると、日本における「管理職になりたいメンバー層の割合」は21.4%で、他の国に大差をつけて最下位。多くの企業が次世代リーダー育成に課題を抱えています。自ら罰ゲームの中に身を投じたい人などいないのですから、当然の結果だといえるかもしれません。

著者は本書で、管理職の「罰ゲーム化」を修正するためのアプローチを4つ紹介しています。

(1)フォロワーシップ・アプローチ:管理職の部下であるメンバー層へのトレーニングを増やすアプローチ
(2)ワークシェアリング・アプローチ:管理職の役割を変更したり共有したりすることで、全体の役割や業務量を調整するアプローチ
(3)ネットワーク・アプローチ:管理職同士のネットワークを構築し、社内に相談し合える相手がいる状態をつくるアプローチ
(4)キャリア・アプローチ:会社の昇進構造や選抜の在り方を変更するアプローチ

さて、あなたの組織はどのアプローチから着手しますか?

■「4つの時間」を意識して時間の使い方を変える

第3位には『このプリン、いま食べるか? ガマンするか?』がランクインしました。著書『パン屋ではおにぎりを売れ』『バナナの魅力を100文字で伝えてください』でも知られる柿内尚文さんが、「後悔しない時間の使い方」をテーマに上梓した一冊です。

柿内尚文『このプリン、いま食べるか? ガマンするか?』(飛鳥新社)

柿内さんは本書で、すべての時間は以下の4つに分けられるとします。

(1)幸福の時間:やりたいこと、喜びを得られることをして幸せを感じる時間
(2)投資の時間:目的のために努力している時間
(3)役割の時間:やらなければいけないことをしている時間
(4)浪費の時間:無意識に過ごしてしまうムダだと感じる時間

この「4つの時間」を意識して、時間の選び方を変えていこう――。これが本書のメインメッセージです。

例えば、ダイエット中に立ち寄った喫茶店で、好みのプリンを見つけたとします。ちょうど小腹が空いたタイミング。食べたい。でもダイエットは必ず成功させたい――。さて、あなたはプリンを食べますか? それともガマンしますか?

一瞬の幸せを優先してプリンを食べるなら、その時間は「幸福の時間」になります。一方、「ダイエットを成功させたい」という思いからガマンするなら、「投資の時間」を選んだことになるでしょう。

時間の使い方で迷ったら、4つの時間を思い浮かべながら決断しましょう。4つの時間の配分を考えながら、自分の理想の「時間のポートフォリオ」に近づけていくイメージです。

なお柿内さんは、人生で一番大切にすべきは「幸福の時間」を増やすことだと言います。あなたにとって「幸福な時間」とは何でしょう? 本書を読んで、後悔しない時間の使い方について考えてみませんか。

■「サイゼリヤの料理は、まずくて高い」創業者が口にする理由

続いて、4位以下から、注目の書籍をご紹介します。第8位は『サイゼリヤの法則』でした。サイゼリヤ創業者の正垣泰彦さんが、サイゼリヤを立ち上げ、育てていく過程で見出した成功法則をまとめた一冊です。

正垣泰彦『サイゼリヤの法則』(KADOKAWA)

冒頭に登場するのは「サイゼリヤの料理は、まずくて高い。あんなまずいものを出してしまって、お客様に申し訳ない」という衝撃的なフレーズ。

著者がこの衝撃的なフレーズを口にする理由は、サイゼリヤの料理をさらにおいしく、さらに安くするため。創業者であり、代表取締役会長でもある著者が「サイゼリヤの料理は最高だ! 安くておいしくて申し分がない」と言うと、従業員たちは現状に満足してしまうかもしれません。著者を含む社員みんなが「サイゼリヤの料理は、まずくて高い」と捉えているからこそ、より「安くておいしい」サイゼリヤへ近づくことができ、お客様を喜ばせられるのだといいます。

またサイゼリヤでは、「一番難しくても、一番喜んでもらえることをしよう」という気概で、断続的に値下げを敢行してきました。

特に心がけてきたのは、さほど売れないものを安くするのではなく、すでに何度も値下げと改善を経てきた人気商品をさらに安くおいしくすること。その代表例が、大人気商品の「ミラノ風ドリア」を、上場を機に480円から290円に値下げしたことです。結果、売上数量は約3倍になり、お客様の数も激増しました。

サイゼリヤが愛され続ける理由を知れる本書。業種・業界を問わず、多くのビジネスパーソンにおすすめします。

■大手広告代理店の若手が教える「ビジネス会食成功術」

第10位の『ビジネス会食 完全攻略マニュアル』にもご注目ください。

yuuu(ユウ)『ビジネス会食 完全攻略マニュアル』(ダイヤモンド社)

本書は、メディアプラットフォーム「note」で異例の30万PVを達成した『若手のうちに絶対身に着けたい「ビジネス会食完全攻略マニュアル」』を書籍化したもの。新卒で大手広告代理店に入社し、最大28回/月の会食を経験したyuuu(ユウ)さんが、ビジネス会食を成功させるために必要な情報を惜しみなく教えてくれる一冊です。

yuuuさんによると、ビジネス会食において最も重要なのは「自分がクライアントをどれほど大切にしているかを伝えること」。その前提のもとで、会食の目的を「相手と仲良くなる」ではなく「仲良くなった先に何を達成したいかという目的の設定を徹底する」とすることを推奨しています。

またyuuuさんは、お店を予約したら、事前に下見をするべきだと言います。下見のチェックポイントは以下の4点です。

・駅からのアクセス、最寄りの出口
・タクシーをつかまえやすい場所
・上座と下座
・喫煙できる場所

あわせて、衛生面、お手洗い、BGM、店員の立ち居振る舞い、電波状況などもチェックしておきましょう。

本書にはこの他に、事前準備の重要性や店選びの勘所、当日の話題運びに加え、「ハズさない店リスト」も収録されています。本書を味方につければ、仕事がうまくいくだけでなく、上司や同僚からの見られ方も変わり、会食が楽しみになるでしょう。

■タピオカ屋は唐揚げ屋、マリトッツォの店、焼き芋の店になった…

最後にご紹介したいのが、第11位の『タピオカ屋はどこへいったのか?』。約1万社の「儲けの仕組み」を垣間見てきた敏腕税理士、菅原由一さんが、私たちの知らないビジネスの裏側を見せてくれる一冊です。

菅原由一『タピオカ屋はどこへいったのか?』(KADOKAWA)

一時は街中にあふれていたタピオカ屋。今となってはほとんど残っておらず、たまに見かけたとしてもチェーン店のみです。さて、あなたは書名の「タピオカ屋はどこにいったのか?」という問いになんと答えますか?

正解は“ある店は唐揚げ屋に、ある店はマリトッツォの店に、またある店は焼き芋の店になった”。イニシャルコストを抑え、ブームの間に投資を回収し、ブームが去ったら即座に撤退する――。消えたタピオカ屋はこのように、時代の変化を見ながら賢く看板を変え、儲けを生み出しているのです。

このほかにも「立ち飲み屋はなぜ若い女性客が多いのか?」「ラーメン屋はなぜ麵の硬さが選べるのか?」「コロッケ1個80円のお肉屋さんはどうやって儲けているのか?」など、気になる問いとその答えが満載の本書。誰かにシェアしたくなる豆知識がほしい人から、ビジネスのヒントを求める人まで、幅広く楽しませてくれること間違いなしです。

今月も、統計学から会食の作法、アンガーマネジメントまで、幅広いジャンルの本がランクインしました。また、先月第1位だった『ユニクロ』が第12位、第16位だった『「先延ばしグセ」が治る21の方法』が第19位と、依然として多くの方に読まれています。来月はどのような本が多く読まれるのか、引き続きチェックしてまいります。

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(flier編集部)