「議論する価値ない会議」を開く人に欠けた視点
(写真: tabiphoto/PIXTA)
現代のビジネス環境では、VUCAと呼ばれる不確実性の高い状況が日常的になってきています。経営の正解が一昔前よりも複雑化し、単純な問題解決手法では対処できない課題も少なくありません。このような時代において、「明確な論点」を定め、「最も妥当な解」を導くファシリテーターの役割はますます重要性を増してきています。
ファシリテーターが押さえておきたい「鉄則」と「掟」について、コンサルティング業界の第一線で、累計およそ1万時間のファシリテーション経験を積んだ田中大貴さんの書籍『ファシリテーションの正攻法 論点思考×累計1万時間の実践知』より、一部抜粋・再構成してお届けします。
会議にはAIM(狙い)が必要
「会議の企画」において、最も重要なのが会議目的を書き切ることです。会議目的を具体的に明文化できなければ、会議をしても、時間だけが浪費され、徒労に終わってしまうでしょう。
皆さんが、普段参加している会議目的を振り返ってみてください。会議目的を読んでみて、その会議の中で何を具体的に議論するかイメージが湧きますか? 議論する価値がありそうだなと思えますか? 会議が終わったときに、会議目的が達成できたかどうか客観的に判断できそうですか? これらはすべて会議目的の要件です。
私は、会議目的の要件を“AIM”というフレームワークで整理しています。私の創作したフレームワークですが、重要なポイントを押さえていると思うので、よかったらぜひ参考にしてください。
Achievable(目的が達成可能であること)、Impactful(目的達成できたら価値があること)、Measurable(目的達成度合いが判断できること)の頭文字を取って、“AIM”と呼んでいます。「会議にはAIM(狙い)が必要」と思っておけば、忘れないのではないでしょうか。
以下、詳細を解説します。まず、Achievable(目的が達成可能であること)について。
会議目的を書き切りましょうと言っても、あまりに非現実的で理想の高すぎる内容を書いてしまうと、その会議目的は機能しません。一般的に、会議時間は1時間、長くて2時間ぐらいの場合が多いでしょうか。その限られた時間の中で達成できることに留めないと、いくら頑張って議論したところで、会議目的は達成されず、その会議は不完全燃焼になってしまいます。自分の書いてみた会議目的が、その会議で達成できそうか否かは必ず確認しましょう。
次に、Impactful(目的達成できたら価値があること)について。会議というのは、関係者の時間を等しく奪うものです。2時間の会議で5人参加したならば、合計10時間が消費されたことになります。仮に参加者の平均時給が5000円だとすれば、その会議で5万円が使われたということです。
このように、会議はコストがかかるものなので、そのコスト以上に価値のある議論をすべきなのです。よって、会議目的の内容が達成できたとき、どれほど価値があることなのかは事前に考えておくべきでしょう。
目的を達成できたか分かるよう書く
最後に、Measurable(目的達成度合いが判断できること)について。会議目的に限りませんが、“目的”というものは、後々振り返ったときに達成できたか否かを客観的に把握できるように設定しておくべきです。そのためには明確に書くことが必要です。
ただ、「明確に」と言っても、“明確”の基準は人それぞれなので、「達成できたか否かが分かるように」が重要です。達成できたか分かるように書けていれば、それは明確に書けている証拠です。自問自答で確認できるので、こちらも事前にセルフチェックしましょう。
ありがちな悪い表現としては、「〜の確認」や「〜の共有(報告)」があります。本当に確認してもらうだけ、共有するだけならば、会議という手段を使わなくても良いはずです。メールや口頭での説明で事足りるかもしれません。
一方、会議で確認や共有をする実際の理由は、何かしらの反応を参加者から得たいからでしょう。「フィードバックをもらうこと」かもしれないし、「現時点の課題を整理して、一緒に対策を考えること」かもしれない。目的というのは、そこまで書かないと、会議で何を議論するのか定まらないのです。
また、悪い表現として、「〜の件」や「〜について」も散見されます。これは、会議参加者に想像の余地を与えてしまうので、目的として機能しないというより、むしろネガティブに働いてしまう可能性があります。
人によっては、ただ現状を聞かされるだけなのかなと思うかもしれないし、人によっては、例の問題について議論することを想定するかもしれない。加えて、「〜の協議」も相手に想像の余地を与えてしまうという点では同じです。“協議”が何を指すのか、人によって違うので、議論が噛み合うことは難しいでしょう。
良い論点とダメ論点
“AIM”のフレームワークで会議目的を設定したら、次は、会議で議論する論点を設計します。ふと疑問に感じた方がいるかもしれませんが、あえて、“設計”という言葉を使っています。会議目的は“設定”するものですが、論点は“設計”するものです。
論点は、会議目的を達成するために「答えるべき問い」です。どのような問いに対して議論すべきか熟考し、適切な問いを立てること。それが論点設計です。
論点が明確であれば、建設的な議論ができますし、逆に、論点が曖昧だと、会議はただの雑談で終わります。
(画像:ファシリテーションの正攻法 論点思考×累計1万時間の実践知』)
「良き論点」の評価軸の1つとして「答えやすいか?」があります。論点は“問い”なので、答えやすいかどうかで、会議参加者は意見が言いやすいかどうかが決まります。意見が出にくい会議は、大概、提示した論点の筋が悪いのです。
もう1つの評価軸は「答えて意味があるか?」です。何かの目的を達成しようと検討していれば、疑問はたくさん出てきますが、それら全てに解を出そうとすると、膨大な時間がかかり、現実的ではありません。だからこそ、時間をかけて解を出す意味のある問いだけに向き合うべきです。
例えば、会社の規模が拡大してきて、現在のオフィスが手狭になってきたとしましょう。そこで、会議目的が「オフィスの移転先の候補を挙げる」という会議を開催することにしました。候補を挙げるだけなので、Achievableです。また、手狭になってきたオフィスから早く移転しないと通常業務に影響してしまうので、候補を挙げることは、Impactfulのはずです。そして、会議終了後にいくつかの候補先が挙がっていれば目的達成なので、Measurableでもあります。
ありがちな「ダメ論点」3つ
ここからありがちなダメ論点をいくつか出してみましょう。1つ目は、「だから何?」系論点について。
例えば、「移転先の候補はいくつ挙げるべきか?」とか、「平均的なオフィスの広さは何坪か?」とか。いずれも、適切かどうかは別として、仮の解は出せます。「候補は3つ挙げるべき」とか、「100坪」とか。ただ、それらの解が出たとして、どういう意味があるのか分からないですね。思わず、「だから何?」と言いたくなるような内容です。これはダメな論点の類型です。
「答えやすいか?」→YES、「答えて意味があるか?」→NOという組み合わせがこのパターンに当てはまります。
2つ目は、「的はずれ」系論点について。例えば、「どのように我々は移転するべきか?」とか、「オフィス需要の動向は?」とか。いずれも、仮の解も出しにくいですし、無理やり解を出したとしても、会議目的の達成に貢献するのか不透明です。高尚な問いのように見えるので、シニアな方が言い始めると身構えてしまいますが、よく考えれば、「的はずれ」な問いです。無駄に会議時間を使わせることになりかねません。
「答えやすいか?」→NO、「答えて意味があるか?」→NOという組み合わせがこのパターンに当てはまります。
3つ目は、「会議目的の裏返し」系論点について。例えば、「どこに我々は移転すべきか?」とか、「我々にとって理想的なオフィスとは何か?」とか。いずれも、解が出れば会議目的の達成に貢献しそうですが、仮の解も出しにくいです。むしろ、それらの解を導出するために会議という場で議論するわけで、「会議目的の裏返し」のような問いです。おそらく、このような論点を提示しても、議論は停滞するだけでしょう。
「答えやすいか?」→NO、「答えて意味があるか?」→YESという組み合わせがこのパターンに当てはまります。
「良い論点」に共通するパターン
このように考えると、「良い論点」とは、「答えやすいか?」→YES、「答えて意味があるか?」→YESという組み合わせのパターンといえます。
「答えやすい」というのは、自分で仮説が出せるということ。そして、「答えて意味がある」というのは、解が会議目的達成に貢献するということ。
先の例ならば、「オフィス移転を検討するうえでの優先事項は何か?」とか、「予算の上限はいくらか?」とか。いずれも、自分の仮説は出しやすく、解があれば、会議目的の達成に貢献します。2軸にもとづき、相対的に「良い論点」を設計しましょう。
(田中 大貴 : M&A戦略コンサルタント、MAVIS PARTNERS プリンシパル)