中古マンションの価格を10年前と比較すると、東京よりも上昇率の高い地域は7府県もある。住宅ジャーナリストの山下和之さんは「コロナ禍が落ち着いて出社を求める企業が増えたとはいえ、在宅勤務も定着しさまざまな場所で住まい探しを行う人が増えている。将来性を見極めて場所を選べば、今後の値上がりを期待できる」という――。
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■長期的な視点から10年騰落率の高いエリアに注目

マンション情報の「マンションレビュー」を運営するワンノブアカインドでは、定期的に都道府県別に中古マンションの70平方メートル換算価格を調査している。それぞれの都道府県の中古マンション価格水準がどうなっているのかも気になるところだが、注目しておきたいのは、現在の価格だけではなく、1年前、3年前、5年前、10年前との価格騰落率(上昇率)も調べている点だ。

東京都大阪府、神奈川県などの価格水準が高い都府県は騰落率が高いエリアが多いが、比較的リーズナブルな価格帯の県なのに、騰落率がすこぶる高いところもある。そんな場所にマンションを買っておけば、将来的な資産価値の上昇も期待できるのではないだろうか。

マイホームとして購入するにしても、リゾートとして利用するにしても、投資用に購入して賃貸で運用するにしても、住宅については、短期に使用するのではなく、長期的に保有して使用することが前提になるので、10年前との価格を比較し騰落率の高い都道府県に着目したいところだ。

福井県は北陸新幹線の開業で価格が大幅アップ

そこで、10年前に比べての騰落率の高い都府県をグラフにまとめたのが図表1だ。

騰落率が最も高かったのは福井県の141.1%で、10年前の70平方メートル換算の推定価格が757万円だったのが、2024年3月は1824万円で、上昇率は141.1%となっている。何と、10年間でおよそ2.4倍に資産価値が上昇したことになる。

周知のように、福井県は2024年3月に北陸新幹線の延伸により、金沢・敦賀間が開業、全国的に注目度が高まった。最速だと東京・福井間は2時間51分に。これまでは、東京から新幹線に乗っても、金沢駅で乗換えが必要だったが、それが不要になって所要時間は36分短縮された。

折から、新型コロナウイルス感染症が2類から5類に移行したこともあって、全国的に関心を集めただけではなく、世界的にも注目度が高まり、多くの人が訪れ、なかには福井県不動産、マンションを購入する人も増えた。それが、大幅な価格アップにつながったわけだ。

出典=ワンノブアカインド「マンションレビュー」

■騰落率2位の群馬県は転入者が増えている

騰落率の2位は群馬県、3位が新潟県で、100%前後の上昇率であり、10年で資産価値が2倍になったことになる。

どちらも首都圏から近く、新幹線で東京とつながっていて、交通アクセスに恵まれているにもかかわらず、70平方メートル換算のマンション価格は1000万円台の前半と、東京からみるとほとんど信じられないような価格帯となっている。

群馬県の高崎は、上越新幹線の「とき」を利用すれば45分から55分程度で、新潟は2時間程度。毎日の通勤ではなく、月1回、2回程度の通勤であれば、十分可能だろう。最近は、在宅勤務を前提に新幹線通勤費を支給する会社も増えているので、移住先やワーケーション先として注目しておいていいだろう。

実際、総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告2023年結果」によると、群馬県は転入者数が2022年の3万6452人から2023年は3万7100人に、648人増えている。

648人といえば、たいした数字ではないと感じるかもしれないが、首都圏や近畿圏などの大都市部を除くと、転入者数がプラスになっている県はほとんどない。大都市圏以外では、沖縄県の1232人に次いで2番目に多くなっているほどだ。

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■移住先としても人気が高い群馬県

そんなこともあって、群馬県の移住先としての人気が高まっている。インターネット専業メディアのアイティメディアが運営する「ねとらぼ調査隊」が実施した「40代が選ぶ移住したい関東甲信地方の都道府県」によると、群馬県茨城県に次ぐ2位となっている。

群馬県の北部と西部には山地があるものの、南部には豊かな平野が広がっている。海はないけれど、山や温泉などの自然に恵まれている。しかも、首都圏に近いながら物価が安いのも魅力。2022年の消費者物価指数は、全国2位の安さだった。

住まいがリーズナブルな価格帯で手に入り、生活費が安くつくのだから、住まう上でのメリットはたいへん大きい。それでいて、現在の価格水準が低い分、将来的な資産価値の上昇余地は大きいのではないだろうか。

東京都に隣接しているのに1000万円以下

しかし、逆にいえば、これまでこんなに上がっているということは、今後も上がり続けるのか少し不安になるのではないだろうか。

そこで、まだまだ上昇率はさほどではないが、価格の安い、魅力的な地域はないのだろうかと探してみると、意外に近くにあった。それが東京都に隣接する山梨県だ。

図表2にあるように、70平方メートル換算の中古マンション価格の平均は846万円と、何と1000万円を切っている。「マンションレビュー」のデータでは、1000万円を切っている県はこの山梨県だけだった。

山梨県東京都とJR中央本線でつながっていて、一番東京寄りの上野原市からは新宿駅までは1時間ほどだから、十分に通勤が可能だろう。少し西側の大月市でも1時間30分ほどで通える。

■神奈川県の4分の1の値段で手に入る

また、県庁所在地の甲府市でも、JR特急の「あずさ」や「かいじ」を使えば、新宿駅に1時間30分ほどで到着する。首都圏の神奈川県、埼玉県千葉県の郊外に住んでいる人なら、1時間以上の通勤時間をかけている人は少なくないので、山梨県は十分に通勤圏に含めて考えていいのではないだろうか。

在宅勤務が可能で、東京への出社が月に何回か程度でいいのであれば、居住先として考えていいだろう。

それでいて、70平方メートル換算の平均価格が846万円なのだから、たいへん魅力があるのではないだろうか。ちなみに、先の「マンションレビュー」のデータによると、首都圏の神奈川県の平均価格は3339万円で、埼玉県は2680万円、千葉県は2437万円となっている。山梨県なら、その3分の1から4分の1程度で手に入れることができる計算だ。

出典=ワンノブアカインド「マンションレビュー」

■1100万円台の和歌山県にも期待高まる

70平方メートル換算価格が山梨県に次いで低いのが和歌山県の1157万円だ。10年前の価格は736万円だったのが、57.2%上がっている。近畿地方にありながらも、この価格帯にとどまっていて、上昇率もそんなに高いわけではないので、今後は1000万円台の後半から2000万円台への突入も期待できるのではないだろうか。

和歌山県の北部は阪神工業地帯に属するものの、大阪府兵庫県に比べるとさほど工業生産が多いわけではなく、むしろ近年は南部を中心とした豊かな自然への関心が高まっている。

和歌山県は梅、柿、蜜柑などの果樹栽培が知られているが、マグロ、カツオなどの漁業も盛んで、近年では近畿大学水産研究所による「近大マグロ」がブランド化している。豊かな自然のなかで、京都・奈良などの古代文化の影響を受けて、文化も豊か。

世界遺産に登録されている熊野三山、弘法大師由来の高野山などがあり、コロナ禍が明けてインバウンド客が急増している。大阪府兵庫県などの産業界から離れているデメリットが、ここへきてメリットに転じているのではないだろうか。

このように人の流れが盛んになれば、経済も活性化し、不動産・住宅価格の上昇も期待できる。いまのうちに、先物買いしてもいいかもしれない。

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山下 和之(やました・かずゆき)
住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本の取材、執筆、講演、セミナー講師など幅広く活動。著書に『2017-2018年度版 住宅ローン相談ハンドブック』『よくわかる不動産業界』など。
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(住宅ジャーナリスト 山下 和之)