ヴァサイェガ渉「舞台に来ているけどゲームをしているような楽しさを味わってもらえたら」~『かまいたちの夜 ~THE LIVE~』が開幕
2024年6月20日(木)東京・シアター1010 にて、サウンドノベル『かまいたちの夜』を原作とした舞台化作品『かまいたちの夜 ~THE LIVE~』が初日を迎えた。
今回舞台化されることになった原作『かまいたちの夜』は1994年発売のノベルゲーム。2024年にはシリーズ30周年を迎える大ヒットタイトルだ。
本作では、原作者の我孫子武丸を監修に迎え、舞台オリジナルストーリーが展開される。主演はヴァサイェガ渉が務め、豊田陸人、高柳明音、ドロンズ石本、塩月綾香、田中孝宗、大高雄一郎、槙原唯、谷口就平、細貝圭、安田裕らが出演。
初日を前に、囲み取材及びゲネプロが報道陣に公開された。囲み取材にはヴァサイェガ渉、豊田陸人、高柳明音、ドロンズ石本、塩月綾香、細貝圭、構成・演出を手掛けるノサカラボ代表・ 野坂実が登壇。トリックが多い本作ならではの稽古の様子や初日に向けての胸中を語った。
今作は観客のジャッジによってルート分岐をするマルチエンディングを採用。28通りのエンディングと、100通りを超えるシナリオパターンが用意されているとあって、ヴァサイェガは「みんな思っていると思うんですけど、大丈夫かなって緊張しています。ちょっとでも他のことを考えるとセリフが飛びそうで……。毎日稽古の中で変化が生まれて、試行錯誤しながら作ってきました。やっと本番を迎えられるのが嬉しいし、いい意味で緊張しています」と初日を前にしての心境を語った。
豊田も「緊張していてやばいです。ずっとセリフを言っていないと不安」だとヴァサイェガに同意。以前実施された公開稽古の会見では、一言目のセリフの「おはようございます」をどういうマインドで言うか悩んでいると語っていた豊田は、「今はセリフや脚本がガッチリ固まったので80%は決まっています。残りの20%は初日の瞬間まで悩み抜いて、最後に役を完成させたい」と覚悟の決まった様子の笑顔を見せた。
ヴァサイェガと豊田は少年忍者のメンバー同士。ヴァサイェガが「入所が同じタイミングの同期でずっと一緒にやってきたけど、外部の仕事を2人で一緒にやるというのは13年目にして初めて。話し合うことが特に大切な作品だったので、すごくやりやすかった」と稽古期間を振り返ると、豊田も「わかる」とニコニコと応え、2人の絆の深さを感じさせた。
重層的なトリック構造とルート分岐によって、舞台の作り方も通常とは違ったそう。野坂は実際に人が動いてみると上手くいかない場面が多く、稽古に入ってから「台本が60%くらい変わった」と驚きの事実を明かす。細貝が「長い事、舞台の仕事をしていますが、初めての体験で、何回もキャパオーバーを起こしました。みんなで何度も話し合いを重ねる中で、若いこの2人(ヴァサイェガ、豊田)が本当に真摯に作品に向き合っている背中を見て、僕らも背中を押されました」と2人の奮闘ぶりを称える場面も。
公開稽古では「少年忍者の石本です」と自己紹介していた石本は、今回は「おじさん忍者の石本」へと進化。ヴァサイェガらの緊張を解くような軽快な語り口で「若いみなさんが膨大なセリフ量を頑張っているので、それをサポートしていきたい」と温かな眼差しを向ける。
高柳は「稽古ではスタッフさん数人の選択でルートを決めたり、あらかじめどのルートにするか決めたりして演じていました。本番ではお客様がどんなジャッジをして、誰に投票するか全然わからないので、ドキドキするし楽しみ」と見どころを語ると、一方で塩月が「結末が28通り、選択肢も含めたらルートが100通り以上。稽古でそれを一通りやったので、混乱しながらなんとかここまで漕ぎ着けた感じです」とルート分岐がある本作ならではの苦労を語った。
舞台開幕を前に、原作シリーズ3作目『かまいたちの夜×3(トリプル)』がNintendo Switch / PlayStation(R)︎4 / Steamにて発売されることが発表されたばかり。ヴァサイェガは「ゲームの新たな動きも発表されたばかりの最高のタイミングでこの舞台が上演できます。ゲームファンの方もそうでない方も、舞台に来ているけどゲームをしているような楽しさを舞台で味わってもらえたら嬉しいです」と笑顔で意気込みを語り、会見を締めくくった。
ゲネプロが始まると、原作ゲームの音楽が流れ、劇場は一気に不穏な空気に包まれていく。ステージ上のスクリーンには原作の画像や、あの『かまいたちの夜』ならではの無機質な文字列が次々と映し出され、物語の舞台は雪の閉ざされたペンションへ。ゲーム『かまいたちの夜』のシナリオが再現されたシーンに、原作ファンは思わずニヤッとしてしまうだろう。ところがこの実に舞台化らしいシーンは、突然のノイズ音とともにかき消されることに。
『かまいたちの夜』の登場キャラクターを演じていた人物たちは、次のシーンでVRゴーグルをつけて登場する。伊月(演:ヴァサイェガ渡)や小松(演:高柳明音)、長田(演:細貝圭)、能坂(演:ドロンズ石本)、和良(演:塩月綾香)は、VRゲーム版の『かまいたちの夜』の開発チームのメンバーだったのだ。三日月館にこもって作業を進める伊月たちは、テストプレイ中にある不可解な出来事に遭遇。自室に引きこもっていた比企(演:豊田陸人)も加わり、彼らを取り巻く状況は大きく動いていくことになる。
登場人物の行動は、序盤から観客のジャッジによって決められていく。観客は俯瞰的に物語を楽しむ立場から、登場人物たちの未来を決める参加プレイヤーの1人へ。観劇するだけでは味わえない緊張感を体験することになる。
今回、キャスト陣は3つの役を演じている。シーンによって役割が変わり、ストーリーテラーとして動くヴァサイェガ演じる伊月は、それらの解説役も担当する。彼の真っ直ぐな人柄を反映した素直な芝居が、舞台上と客席を繋いでいき、本作の醍醐味である“観客参加型”な空間を生み出していった。
伊月と同じく、推理パートで活躍する比企を演じる豊田も、後半では膨大なセリフをこなす。持ち前の柔らかい雰囲気の中に、比企のミステリアスな部分を織り込んだ芝居で、独特な存在感を放っていた。
高柳や細貝、石本、塩月らの安定感抜群な芝居も見事。彼らの芝居は、臨機応変さが求められる本作の骨組みを支え、作品に良いテンポを与えていく。
観客は登場人物の次の行動を決めると同時に、劇中で起こるある事件について推理をしなくてはならない。真犯人にたどり着けるかどうかは、観客の推理力にかかっている。公演中に真相が暴かれる回が上演されない可能性もあるが、その難解さや緊張感も、簡単には真相にたどり着かせてくれない『かまいたちの夜』らしさといえるだろう。
本作の副題は「THE LIVE」。劇場で何が起こるのかは、“生”でしか体感できない。劇場自体がひとつの仕掛けとしてある役割を担っているので、観劇の際は早めに劇場に足を運ぶとより多くの体験を得られるかもしれない。構成・演出の野坂も「舞台ならではのトリックは言葉で説明するのが難しくて、観てもらわないとわからない」と語っていた。どんなトリックが用意されているのか、劇場で確かめよう。
本公演は6月23日(日)まで東京・シアター1010にて上演、6月28日(金)~6月30日(日)大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールでも行われる。