児童の性的虐待については、「めったに起こらないこと」「親の目が届かない場所で起きること」「見知らぬ不審者がやること」といった認識を持っている人も多いはず。しかし、アメリカのニューハンプシャー大学児童犯罪研究センターの客員研究員を務めるメリッサ・ブライト氏は、四半世紀にわたり家庭内暴力や性的虐待を含む児童虐待について調査したところ、自分を含め多くの人々が子どもを守る上で「時代遅れの戦略」を取っていることに気付いたとのこと。そこでブライト氏が、児童の性的虐待に関するどのような認識が間違いなのか、一体どのように子どもたちを守ればいいのかについて解説しています。

I want to keep my child safe from abuse − but research tells me I’m doing it wrong

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ブライト氏は児童性的虐待に関して間違っていた認識として、まず「何が児童の性的虐待に当たるのかについての見解が狭すぎた」ことを挙げています。多くの人は、児童性的虐待と聞くと「大人が子どもに性的な危害を加えることだ」と考えますが、子どもたちの間で行われる同意のない性的接触も児童への性的虐待に該当します。これにはセクハラや露出の他、複数の児童同士に性的な接触を強要したり、性的な画像を撮影させたりすることも含まれます。

2024年には、イングランドとウェールズにおける児童性的虐待事件の加害者の過半数が、大人ではなく未成年者であったことも発表されました。

児童性的虐待の加害者の半分以上は「子ども」だという衝撃の事実が発表される - GIGAZINE



また、ブライト氏は「児童性的虐待は自分たちのコミュニティでは起こっていないだろう」と考えていたものの、これも間違いだったとのこと。2024年3月に発表されたデータによると、10〜20%の子どもが何らかの性的虐待を経験しているとのことで、子どもと同じ教室にいるクラスメイトが性的虐待を受けている可能性は十分にあり得ます。

児童の性的虐待は特定のグループでのみ起こる事象だという認識も間違っており、児童の性的虐待はあらゆる民族、社会経済的地位、性自認において発生しています。これまでのところ、女児の被害報告が男児を上回っているものの、男児の被害は男らしさに関するスティグマや文化的規範のために過小報告されている可能性もあるそうです。実際、ドイツやフランスのカトリック教会では聖職者による未成年者への性的虐待が社会問題となっており、その被害者の大半は男児だったことも報告されています。

約3000人の聖職者が子どもを性的虐待していたというフランスの報告 - GIGAZINE



さらに、児童に性的虐待を加える相手が「見知らぬ不審な人間(男)」と想定することも誤りだとのこと。ブライト氏は、児童性的虐待の加害者の90%以上は以前から被害者やその家族と面識のある人物であり、コミュニティの中の信頼できるメンバーだったり、時には家族だったりすると指摘しています。

ブライト氏は、「言い換えれば、親は公園で不審者を探すのではなく、家に招いた人々の輪を見ておく必要があるのです。誤解のないように言っておくと、見知らぬ人による児童性的虐待も発生しており、見知らぬ人に警戒するよう子どもに教えることは必要です。しかし、これは児童性的虐待において例外的な出来事であり、一般的なことではありません」と述べました。

ちょっとした朗報としては、「子どもを性的に虐待する犯人は、決して生まれつきの悪というわけではなく、更生させることができる」という点が挙げられます。子どもに性的虐待を加えた犯人のうち、5年後の性犯罪の再犯率は成人で13%、青少年で約5%にとどまっており、あらゆる重犯罪を犯した成人の1年以内再犯率である約44%を大幅に下回っています。



ブライト氏は子どもを性的虐待から守るために親ができることとして、以下を挙げています。

◆曖昧で紛らわしい言葉は避ける

子どもと性的虐待について直接的な会話を避けたいがために、「悪い触られ方をしたらその場から逃げて私に報告して」と伝える人もいるかもしれません。しかし、性的虐待に該当する接触は必ずしも「悪い触り方」「嫌な触り方」ではなく、子どもは身体的に快感を覚えているケースもあれば、加害者が「愛のある接触」だと子どもに信じ込ませているケースもあります。

そのため、親は子どもに対して「どこに触られたらOKで、どこに触られたらNGなのか」を明確にするべきだとブライト氏は主張しています。具体的には、「頭」「肩」「陰茎」「膣(ちつ)」など、体のすべての部位を明確に識別して教える必要があるとのことです。親から積極的に体の部位についてオープンに話し合うことで、子どもが性被害を受けた際に言葉を濁したり、具体的な言及を避けたりするのを防ぐことにもつながります。

◆子どもの自律性を促す

「家族からのハグは良いもので、知らない人からのハグは悪いもの」という教え方も間違っており、家族からのハグを子どもが拒否できないのであれば、子どもに「自身の体に自律性がない」という認識を持たせる一因になります。そのため、ブライト氏は自分の息子が他の家族や親戚にハグを求められた時にためらっているようなら、間に割って入って子どもの肩を持ち、身体的な接触は必須ではないと伝えるように心がけています。

ブライト氏は、「この子は少しパーソナルスペースが広いので、誰がいつ自分に触れるのかは自分で決めていいんだと教えているところなんです。その代わり、あの子は愛情を示すためにハイタッチをするのが好きなんですよ」といった風に、柔らかい伝え方で相手に注意を促すそうです。また、家族間で「ハグをしてくれなきゃ悲しい」といった風に、罪悪感をかき立てるフレーズを使うのも避けているとのこと。



◆エンパワーメントを促進する

成人の性犯罪者を対象にした調査では、性犯罪を防ぐ最大の抑止力として「子どもの声や自己主張の強さ」が挙げられました。つまり、はっきりと「それは嫌だ」と表明したり、「嫌なことがあったら誰かに伝える」と言ったりする子どもは、性被害のターゲットになりにくいというわけです。そのため、ブライト氏は子どものエンパワーメントを促進し、子どもの自己主張を育てることが性被害の抑止につながるとアドバイスしています。

◆子どものSNSを監視する

複数の研究で、子どものSNSを監視することで児童性的虐待の危険因子であるセクスティングや、ポルノの視聴といった行為を防ぐことが可能だと示されています。

◆コミュニティや学校の大人と話す

親といえども四六時中子どもを見守っているわけにはいかないため、子どもの世話をする学校の教員やクラブの指導者など、コミュニティ内の大人と児童性的虐待の防止について話すことも重要です。これは気まずい会話になるかもしれませんが、「変に聞こえるかもしれませんが、親にとって重要な質問なんです」と正直に伝え、定期的に話すべきだとのこと。自治体によっては学校の教員に性的虐待の予防教育を施しており、スポーツ団体などが子どもを守るための手順を講じていることもあります。



最後にブライト氏は、オンラインで児童性的虐待について調べる時は、過去5年以内に査読付きジャーナルに掲載された比較的新しいものを参考にするべきだとアドバイスしています。ブライト氏は、「そして驚きに備えましょう。長年しがみついてきた常識が、時代遅れで有害な情報に基づいていることに気付くかもしれません」と述べました。