優勝トロフィーを手にする広島・朝山正悟【写真:B.LEAGUE】

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日本生命 B.LEAGUE FINALS 2023-2024

 バスケットボール男子B1リーグの年間優勝を決めるBリーグファイナル(2戦先勝方式)の第3戦が28日、神奈川・横浜アリーナで行われ、B1昇格4季目の広島ドラゴンフライズが昨季王者・琉球ゴールデンキングスに65-50で勝利。リーグ創設8季目で昇格チームによる初のB1制覇となった。低迷期を知る42歳の主将・朝山正悟はこの日で引退。「最高のバスケ人生でした!」と誇らしげに微笑んだ。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大)

 深い皺が刻まれた顔をほころばせ、朝山は仲間と強く抱き合った。ベンチから鼓舞し続けた40分間。最後の1分半は特別長く感じた。「ずーっと今までのことが思い巡った」。試合終了のブザーが鳴った瞬間、ようやく優勝を実感。1万2209人の観客の前でマイクを握ると、想いが溢れて目が潤んだ。出場機会はなかったが後輩たちが躍動。昨季王者の琉球をファイナル史上最少の50得点に封じ込めた。

 歓喜への道程は平坦なものではなかった。広島はBリーグの前身の1つ、NBLに14-15年シーズンから参入。今季は10周年の節目の年だった。朝山は2季目の15-16年シーズンから広島に加入し、クラブの低迷期を身を持って知る。当時の入場者数は500人ほど。経営難に陥り、Bリーグ発足時にはB2に振り分けられた。「当時は辛いことが沢山ありすぎて、まさかここまで来るとは思えないぐらいだった」。

 B1昇格をあと一歩で逃した翌年の17-18年シーズン中には、ヘッドコーチ(HC)の途中解任を受け、Bリーグ初となる選手兼任HCを務めた。「その時期が一番キツかった」。努力が実を結ばない日々。クラブ自体が傾きかけたこともある。支えになったのは地元のファンや後援会の人たち。「苦しい時もずっと支えてくださった人たちの思いや繋がりが力になった」。B1昇格4年目で恩返しを果たした。

 42歳の主将の存在感はコート上だけに留まらない。チームを強くするためには上とも全力でぶつかった。浦伸嘉社長は1つ上の43歳。年齢が近いこともあり、同じ熱量で話し合えた。方針を巡って対立することもしばしば。現場とフロントの意見のすり合わせは「クラブが成長していく上で絶対に必要な部分」。妥協することなく意識を統一し、誰もがこのチームは優勝できると信じる風土を作った。

 開幕前に引退を発表して臨んだ今季。仲間の奮闘もあり、最後の最後まで現役生活が延びた。「みんな優しいので、僕を『1日でも長く』って言ってくれますけど、みんなの実力です」。頼もしい後輩に連覇を託してコートを去る。奇しくも最後の地は地元・横浜。「こんな漫画みたいなことありますかね? 最高のバスケット人生でした!」。やり残したことはない。清々しい有終の美だった。

■朝山正悟(あさやま・しょうご)

 1981年6月1日、神奈川県生まれ。東京・世田谷学園高から早大に進学。04年、日立(現サンロッカーズ渋谷)に入団。オーエスジー(現三遠ネオフェニックス)、レラカムイ(現レバンガ北海道)、アイシン(現シーホース三河)、三菱電機(現名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)を経て、15年に広島ドラゴンフライズへ移籍した。17-18年シーズン中にはBリーグ初となる選手兼任HCに就任。HCは1季限りだったが、その後も選手とコーチをたびたび兼任した。19-20年シーズンには主力として広島のB1昇格に貢献。ポジションはSG/SF。「Mr.ドラゴンフライズ」の異名を持つ。

(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro-Muku)