昨年のドラフトは、東都大学一部リーグの好投手たちが1位指名でズラリと並んだ。

草加勝(亜細亜大→中日)
細野晴希(東洋大→日本ハム)
西舘昂汰(専修大→ヤクルト)
武内夏暉(國學院大→西武)
西舘勇陽(中央大→巨人)
常廣羽也斗(青山学院大→広島)
下村海翔(青山学院大→阪神)

 なんと1位指名12人中、半数以上の7人が指名されたのだ。

 今季のペナントレースが幕を開けて、およそ1カ月。故障や体力づくりのため、その雄姿を見せていない投手もいるが、武内はすでにローテーションの一角として奮闘し、巨人の西舘も中継ぎとして実績を重ね「勝利の方程式」のひとりになりつつある。

 さすが「戦国東都」と言われるだけあって、レベルの高さを見せつけられた思いがした。そんななか、この春、東都大学の「二部リーグ」を見て驚いた。


履正社時代は全国制覇を経験している東洋大・岩崎峻典 photo by Sankei Visual

【一級品の球を投げる東洋大の3人】

 今年のドラフトは「東都の二部」じゃないのか......?? そんな予感がよぎるほど、逸材が揃っている。

 東洋大の岩崎峻典(右投右打/履正社)は、昨年から細野との2本柱として活躍してきた右腕だ。履正社では2年夏の甲子園で優勝に貢献し、当時から高い実戦力を持った投手として評判が高かった。

 細野のように、派手にビュンビュン投げるというタイプではないが、高水準のコントロールと緩急を駆使した投球スタイルを維持したまま、パワーアップしてきた。

 立ち上がりからコンスタントに140キロ後半をマークしながらも、いつでもストライクのとれるカットボールも140キロ前半で高速に変化するため、打者を2球か3球で、サッと追い込める。いつも優位なカウント、精神状態で投げられるから、誘い球を使う余裕もあって、未熟な打者だとそのボール球を打たされて、あっさり「一丁あがり!」となってしまう。

 さらに、ボール球から入って、速球、カットボールでファールを打たせ、ツーシームなのか、スプリットなのか、確実にアウトが取れる沈む系のボールを持っているのが岩崎の大きなアドバンテージだ。タイプとしては、東洋大の先輩・村上頌樹(阪神)と重なる。

 試合をつくれる投手──そういう表現があるが、岩崎ほどこの称号にふさわしい能力を持っている投手はほかにいないだろう。投げるボールをコントロールし、試合の行方をコントロールできる投手は、間違いなく自分自身もコントロールできるはずだ。これからの成長が楽しみでならない。

 東洋大には、ほかにもドラフト候補に挙がってくる可能性を秘めた投手が控えている。

 一條力真(右投左打/常総学院)の勝負球であるフォークは、間違いなく一級品。ストレートと同じ腕の振り、同じ軌道から、ホームベース上で大きく落下する。東都の二部リーグナンバーワン打者との呼び声が高い立正大の飯山志夢(外野手/右投左打/中央学院)ですらガタガタにスイングを崩された130キロのフォークは、まさに"魔球"クラス。

 ただ、このフォークを使えるカウントまでどうやって持ち込むか......そこが一條の課題だろう。リリーフ登板した際、7球の投球練習でストライクが少ない。それは本番での投球にも影響するだろうし、なにより球審に"マイナスの先入観"を刷り込みかねない。準備段階から丁寧さを心がけたい。

 まだ短いイニングしか見ていないが、アベレージで145キロ前後をマークする柿本晟弥(右投右打/東洋大姫路)のストレートの強さは、球場に響き渡る捕球音から容易に想像できる。ボールの強さは見ているだけではなかなか伝わらないが、打者の反応を見れば一目瞭然だ。とくにインコースに対して、バットを折られるのを恐れてスイングが緩んでしまう。柿本が投げるインコースの球にスイングを緩めた打者を何人も見てきたことからも、ボールの強さがわかる。

【無名の投手がドラフト候補に】

 昨年までほとんど知らなかったが、立正大の梅田健太郎(右投右打/横浜隼人)のピッチングを見て「こんなすごい投手がいたんだ」と驚いた。

 4月10日の東洋大戦、立ち上がりから140キロ前後のストレートで次々と空振りを奪っていく。最速でも143キロだが、間違いなく打者は表示以上に速く感じているはずだ。この春、メンバーのほとんどが入れ替わった東洋大打線だが、それでも高校時代から注目された精鋭たちがズラリ居並ぶ。にもかかわらず、ふた回りしても差し込まれっぱなしで、ミートする打者はいない。

 さらに、鋭く大きく曲がるタテのスライダーに110キロ台のカーブ......この"飛び道具"があるから、余計に手が焼ける。実戦で"使えるボール"をいくつも持っており、しかも右打者にも左打者にも、両サイドをしっかり投げ分けるコントロールもあるから、思うように攻め込める。

 東洋大を7回1失点、しかも無四球。強敵相手に好投したことを横浜隼人時代の部長だった榊原秀樹氏(現・神奈川県高野連専務理事)に伝えたら、すごく喜ばれていた。

「去年がもったいなかったですね。肩の故障があって、棒に振ってしまった。梅田は高校時代から変化球がよかったし、コントロールがあった。ここからが本当にスタートかもしれませんね。やれるヤツだと思います」

 これからもっとよくなりそうな可能性を感じたのは、専修大の肥沼竣(右投右打/加藤学園)。

 昨年、西舘昂汰の取材でグラウンドにうかがった時、仁村薫コーチが「真っすぐの質だったら、西舘よりもこのピッチャー。まだ3年だけどね」と教えてくれたのが肥沼だった。

 両肩のラインを、捕手の構えたミットにピタッと合わせて踏み込んでくる。ギリギリまで胸を見せず、踏み込んでから一気に体を切り返すから、打者はボールの出どころが見えづらくタイミングを取るのが難しい。

 スライダーも、真横に吹っ飛ぶ "スイーパー"のような曲がりを見せ、しかも再現性が高く、いつでもストライクが取れる。実戦力の高さは、プロのスカウトたちからも高い評価を受けるはずだ。

 ほかにも、東京農業大の絶対的エース・長谷川優也(右投右打/日本文理)、拓殖大の新地智也(左投左打/明徳義塾)の評価も高く、ぜひ球場で見てみたいと思っている。一部、二部とほとんどレベルの差のない東都大学リーグ。昨年は一部の精鋭たちがドラフトを賑わせたが、今年はぜひ二部の逸材たちに注目してほしい。