林陵平のフットボールゼミ

残り数試合となったプレミアリーグだが、上位3チームでまだまだ目の離せない優勝争いが続いている。そのなかで今回はリバプールの今季の戦い方を紹介。遠藤航のプレーについても含め、人気解説者の林陵平氏に教えてもらった。


リバプールは、マンチェスター・シティ、アーセナルと、三つ巴の優勝争いを繰り広げている photo by Getty Images

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【即興性のある攻撃】

――リバプールの戦い方を教えてください。

 リバプールの初期配置は、4−3−3が基本になります。ここから、攻撃時は出場する選手によって、立ち位置を変えるのがうまい印象です。

 例えば、右サイドバック(SB)にトレント・アレクサンダー=アーノルドが入るのであれば、偽SBとして中盤に入ってきて、うしろが3枚になる3−2−5になる。右SBにコナー・ブラッドリーが出る時であれば、彼を大外の位置に立たせたりする。同時に左SBがジョー・ゴメスであれば、彼が中盤に入ってうしろが2枚ですよね。その状況で少し右肩上がりの陣形も作ったりします。

 さらには左SBでアンドリュー・ロバートソンが出るなら、彼は結構高い位置に出て行って、左の前線のルイス・ディアスは中に入った位置をとる。多くの選手を前線に置くような、2−2−5−1。数字の並びで語ることができないような形にするのが、リバプールはすごくうまいです。

 マンチェスター・シティやアーセナルと違って、ゲームのなかで状況に応じてかなりいろいろな形に変化するのが、リバプールなのかなと思います。

 そのなかでも、基本コンセプトは「縦の速さ」。シティやアーセナルとの違いになっているのは、ふたりのセンターバック(CB)、特にフィルジル・ファン・ダイクから対角へのフィードです。これが非常によく行なわれます。

 もちろん、ビルドアップできるチームなので、ボールを動かして相手の手前から攻めることもできるんですけど、やはり優先順位は相手の裏、奥になります。奥を選びながらビルドアップで前進していくのが、リバプールのよさであり、強みであると思います。

 前線は、モハメド・サラーもルイス・ディアスもそうなんですが、ウイングがかなり中に入ったり、逆サイドまで行ったりします。4−3−3は多くのチームが使っているんですけど、リバプールはウイング、SB、インサイドハーフのローテーションでかなり自由自在に動いているのが特徴です。

 これは、プレーの再現性はあまりなく、即興性のほうが強いわけです。そのため、相手は誰を捕まえていいのかわからなくなるというのが、リバプールにとってはメリットになっています。

【ベクトルが常にゴールに向かっている】

――守備のほうはどんな形ですか?

 守備は基本的にハイプレスで、前から行くのが特徴です。

 4−3−3のチームは、インサイドハーフの選手がひとり出てきて4−4−2の形で守ることが多いですが、リバプールは相手の4バックに対して基本的に前線の3人で見ます。ウイングの選手は外切り(相手SBへのパスコースを切る)で行き、もし外に出された場合は、SBが縦にスライドして詰めていきます。

 そして後方はCBのイブラヒマ・コナテやファン・ダイクが相手を捕まえて、マンツーマン気味で守る。これはシティでもアーセナルでもそうで、前からプレスをかけるチームは全体的にうしろがマンツーマン、そうしておいて全体が前から奪いに行くのが特徴になっています。

 リバプールの守備は、4−3−3の時もあれば、状況に応じてインサイドハーフのドミニク・ソボスライが前に出て、4−4−2とか4−2−4というような形でもプレスをかける。

 これも、再現性があるというよりも、即興性があるプレスになっている。攻守において、かなり即興性の部分が特徴になっていると思います。

 最終ラインは、相手のボールホルダーがフリーな状況でも結構高くしているので、プレスを回避されたり、最終ラインの背後にボールを届けられたりすると、失点が多くなる戦い方ではあります。ただ、それよりもメリットのほうを取っているということですね。

 前から奪うことによって、もっと相手ゴール方向に攻められるというのがリバプールの戦いです。やはりボールを奪ったあとに何を考えるかといったら、ボールを持っている時と一緒でまず相手の背後なんです。ここに関して前線の選手と、ボールを奪った選手の意識が合っています。常に前線の選手はアクションを起こすし、うしろの選手はボールを出すので、相手の背後を取りやすい。ここの強度がやはり凄まじいです。

 僕はよく解説で言うんですが、「リバプールの攻撃は最短最速でゴールに迫る」。結局フットボールって、ゴールにどれだけ迫れるかがすごく重要です。常に全体のベクトルがゴールに向かっているのが、リバプールなのかなと思います。

【遠藤がアンカーに入り、マック・アリスターのよさも引き出した】

――一方でリバプールのやり方のデメリットとは?

 デメリットは、再現性がなく即興性が高いということで、やはりバランスを崩す時が結構ある。自分たちで集まりすぎて、スペースを消し合うような状況がたまに生まれます。そのため、試合によってハズレな時、当たらない時、なかなか自分たちのペースでできない時が、シティに比べるとあるのかなと。

 立ち位置が完全に決められていたり、はっきりしているわけではなく、その分選手たちが少し余白を残してプレーしているので、どうしてもポジションが被ってしまうとか、ビルドアップがスムーズにいかないシーンは出てきますね。

――3強のなかで戦い方としてはおそらくリバプールが最も危ういようにも見えるんですが、ここまで優勝争いできている要因というのは?

 それはやはり、勢いがあるチームだからですよね。苦しい状況でもチーム全体の士気がまったく落ちないんです。そこはユルゲン・クロップ監督のモチベーションの上げ方がうまいですし、プレーも攻守で常にゴール方向に向かっているので、めげることがない感じがあります。

 それはフットボールにおいてすごく重要で、だからこそ逆転勝ちも多いと思うんです。結構厳しいゲームでも最後の最後で得点を奪ったりする。そうした勢いがリバプールにはあります。ホームのアンフィールドの雰囲気も含め、そこはかなり力強いですよね。

――現在のチームのキーマンをピックアップすると誰になりますか?

 みんなすばらしいですよね。ファン・ダイクも全盛期と同じレベルに戻ってきたし、アレクサンダー=アーノルドがケガでいない時はブラッドリーも出てきたし、GKのクィービーン・ケレハーや遠藤航も奮闘しました。ルイス・ディアスも調子がいいし、ダルウィン・ヌニェスも頑張っている。

 でも、やはりアレクシス・マック・アリスターですよ。遠藤が最初出なかった時はアンカーでプレーしましたが、インサイドハーフとして何でも持っている選手ですよね。守備でも献身的に走れるし、攻撃の技術やミドルシュートもすごいのを決める。彼は中心選手じゃないですか。

 遠藤は、最初は出られませんでしたが、ケガ人が出たりで入った時から徐々にリバプールの戦い方に馴染んでいきました。結局、マック・アリスターがアンカーよりも1列前のプレーヤーなので、遠藤がアンカーにしっかり入ったことによって、マック・アリスターのよさも引き出した形になりましたね。

 ボールを失ったあとのカウンタープレスのところも、最初はアンカーのスペースに留まりたい感じが見られましたが、リバプールの戦い方としてもう出て行きなさいと。クロップ監督の教えですよね。そこで本人もどんどん奪いに行けるようになった。

 それで奪ったあとの効果的な配球です。スルーパスも時には見せますけど、基本的には近い選手に効果的に渡して、前線の選手のクオリティを引き立たせる。いわゆる水を運ぶ役割を、遠藤はしています。

【インテンシティの高い試合を最後まで見たい】

――残り試合が少なくなってきましたが、リバプールがプレミアリーグで優勝する条件というと、何になりますか?

 1試合1試合が大事になるなかで、やはりリバプールは強度でしょう。その強度を発揮した時の最大出力というのは、シティやアーセナルよりも強烈なものを持っているので、それをどれだけ出していけるか。全体のインテンシティはすごく重要かなと思います。

 とにかくこのハイインテンシティで、常にゴール方向に向かう。奪ったあとも最短最速で攻める。前からのハイプレス......。フットボール界において強度を生み出したのがクロップ監督のリバプールだと思います。

 それを長い期間ずっとやってきて(※今季で退任)、最後にこの優勝争いに加わっている。ラストまで見届けたいという気持ちです。

 クロップ監督の戦い方は一貫しています。自分たちのやるべきことがはっきりしているし、そのなかで以前よりは少しポゼッションでも変化を生み出すようになりましたが、ベースはやはりインテンシティや縦の速さという部分にあります。それを最後の最後まで見せてほしいですね。