杉山清貴

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80年代のきらめくノスタルジーを詰め込んだドラマチックな物語と、歌謡曲とロック、シティポップとを繋ぐ職人技の緻密な曲作りは今も色あせることがない。2023年にデビュー40周年を迎えた杉山清貴&オメガトライブの新たなアクションは、3月から6月までの3か月間で29公演という大規模な全国ツアー『-FIRST FINALE TOUR 2024-“LIVE EMOTION”』だ。“ファイナルツアー”と銘打たれたこのツアーの注目度は非常に高く、各地ですでにソールドアウト続出で、ラストチャンスの再追加公演・5月20日のNHKホールもチケット争奪戦は必至。40周年という大きな節目を迎えたバンドの現在、オメガトライブという揺るぎない世界観への思い、そしてツアーへの抱負について、杉山清貴が語ってくれた。

――本題に入る前に。オメガトライブ40周年プロジェクトの一環で、全アルバムのリミックスがリリースされたんですが、あれが実に素晴らしくて。全然違いますね。

全然違います。まったく違う作品になっちゃいましたね。

――生まれ変わったオメガサウンドには、どんな感想を持ちましたか。

(リミックスを)やって大正解だったと思います。やっぱり80年代の、特に83、4年の音って、ちょっとモケモケしてるんですよね。そして全体的にリヴァーブがすごく多くて、中域から高域が弱い。当時から僕はすごく気になっていて、でもそれが時代の音なので、「あえてこういうふうにしているんだな」と思っていたんですけど、今回のリミックスを聴いた瞬間、「最初からこれで行きたかった」と思いました(笑)。

――とにかく杉山さんの声が、ネイキッドな感じというか、とてもクリアでみずみずしく聴こえます。

そうなんですよ。以前はリヴァーブが多かったんですよね。

――音のクリアさ、バランスの良さに加えて、ホーン・セクションとか、キーボードのフレーズとか、「こんな音入ってたっけ?」という驚きもいくつかありました。

消していた音もあるんですよ。とりあえず入れるものは入れておこうということがあって、それを林(哲司)さんがレコーディングの時にディレクターに話して、「この音はいらない」とか、そうやって整理をしていったのがあの当時の作品なので。それが今回クリアになって、今まで消していた音も全部出したんです。

――一連のリミックスアルバムは、みなさんぜひ聴き直してほしいです。ちなみに、メンバーのみなさんはどう言っていましたか。演奏者として、かなり嬉しい出来事じゃないかと思いますが

そうですよね。でも、そんなに聴いていないんじゃないかな(笑)。別に話題に上がらないので。

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――あら(笑)。てっきり、メンバー内でも盛り上がっていたのかなと。

そもそもあれを出し始めた頃は、メンバーとも全然会っていない時期なんですよ(*リミックスシリーズは2021年~2023年にかけてリリース)。

――ああ、ちょうどコロナ禍真っただ中でした。

そうなんです。一番メンバーと会ってない時期に、そういうものがあったので。たぶん今回のツアーで、飲みながらそういう話になると思います。

――40周年を記念した、そういうプロジェクトもありましたし、昨年は縁の深い作曲家・林哲司さんの50周年にも関わられて、記念コンサートやトリビュート盤にも参加しました。あれはどんな体験でしたか。

林さんは、昔から変わらないですよね。スタンスが変わらない。僕らはデビューしたてのバンドで、林さんはすでに竹内まりやさんに「SEPTEMBER」を書いていて、名前が出ていたんですよ。それなのに、年齢は10個違うんですけど、「俺はもうバンドメンバーみたいなもんだからさ」とか、もう本当に気さくで、「気さくで」という言い方をすること自体が恥ずかしいぐらいに、最初から友達みたいな感じでした。全然上から物を言わないし、すごくいい関係でしたね。

――それが今も続いているのが素晴らしいと思います。林さん、昨年お会いした時に「今も年間100曲近く書いている」とおっしゃっていて、驚いたんですが。

すごいですよね。でも、曲を書くのは大事だってみんな言いますね。「ずっと書かないでいると書けなくなるよ」って、南佳孝さんにも言われました。「キヨちゃん、最近曲書いてる?」「書いてないです」「ダメだよ書かなきゃ。書けなくなるよ」「はい」って(笑)。

――それに発奮して、今はばりばり書いているとかは…。

ないです(笑)。気持ちが乗らないと書けないんですよ。それこそ20代、30代は朝から晩まで曲を書いていたので、とりあえずもう曲はいいかな、みたいな感じになっていますね。無理して作らなくても、俺以外に作ってくれる人がたくさんいるので。作曲したい欲は、違うユニットとかでやっているので、自分の曲のことは自分で考えなくてもいいかなという感じです。

――あと、お聞きしたかったのは、いつまでも衰えない美声の秘訣です。日頃のケアは…。

何もしてないです。でも、ずっとライブをやっていますからね。弾き語りもバンドツアーも、それ以外のユニットもやっているので、それがいいんじゃないかと思います。ただオメガに関しては…本当にオメガトライブというのは特別な世界というか、たとえばオメガトライブの頃の楽曲を、全然違うサポートメンバーでやるのと、(オリジナルの)このメンバーでやるのでは全然違う。そもそも出る音が違うんですけど、それ以上に、オメガトライブは最初から、林さんがアレンジからすべてきっちり作っているので、歌もその中に組み込まれているんですよね。だからボーカリストが好きに、自由に行ったらダメなんですよ、オメガの楽曲って。

――ああー。なるほど。

他のメンバーと演奏すると、自由に歌っちゃうんですよ。でもオメガでやる時は、オメガのアレンジの中にきちっと入り込んで歌わないと、一人だけ違うところに行っちゃう。だからオメガを歌う時は、「明日オメガの曲やるから」と言われても、「いやいや、ちょっと待ってください。喉を変えないといけないので」ということになるんですよ。

――そこまでデリケートな話だったとは。

デリケートなんです。しかも、ウワーッて叫べないじゃないですか、オメガの曲は。ふわーっていう感じだから、集中力も全然違う。もちろんライブでは楽しく動いたりもしますけど、こと演奏と歌に関しては、やっぱりきちっとやっておかないと、楽曲として成立しないんです。今回もリハーサルが始まって、最初のうちは…昨日で6日目ですけど、昨日ぐらいでやっとオメガの声になってきました。もう毎日毎日、「出ねぇなぁ」とか言いながら。オメガの歌を歌う声にしないとダメなんです。そこを何も考えずにできるようになるまでに、やっぱり何日もかかるんです。

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――それで、2月までやっていた弾き語りツアーと、オメガトライブのツアーとの間を、少し空けているわけですね。

そうです。オメガのツアーが始まったら、他のライブは絶対入れないでくれって言ってます。声が変わっちゃうので。

――しかも今回はかなり長いツアーです。

トータルで29本ですね。

――追加公演のNHKホールも発表されましたし。以前に、こんなに長いツアーってありましたっけ。

解散ツアーぐらいですね。解散ツアーは10月、11月、12月の3か月で、12月24日が最後だったんですけど、たぶん50本以上回っているはずです。

――すごいペースですね。月に15本以上ですか。

なぜかというと、ツアーを普通に組んでいる最中に僕らが勝手に「解散する」と言い出したので。しかも 年内中に解散しますよと言ったので、翌年まで組んであったツアーを全部バラして、もう一回組み直して年内中に詰め込んだんです。28泊とか、ありましたよ。

――すごい…体は大丈夫でしたか。

もう全然。朝までみんな飲んでましたし、若いから大丈夫です。今はもういいですよ、そんなのは(笑)。たぶんツアー中の打ち上げも、1軒目で「じゃあ、おやすみ~」ですよ。2軒目、3軒目はないです。

――そして、気になるのが、『-FIRST FINALE TOUR 2024-“LIVE EMOTION” 』という正式タイトルに添えられた、「ファイナルツアー」という文字なんですが。確か、前回の35周年の時のツアータイトルが「Last Live Tour」でしたよね。

そうですね。

――そして今回がファイナルツアー。これはどういうことだろう?と。

あれはラストで、これがファイナル(笑)。言葉遊びですよ。それを真剣に受け取っちゃう人は、受け取っちゃってけっこうですよという、僕らはそんな気持ちです。ただやっぱり年齢的にも、僕も今年65になるし、メンバーは64ぐらいだし、さすがにそんなに気張ってツアーができるほどの体力はないので、だから「一応ファイナルにしとく?」みたいな感じで、また次にできそうだったら「セカンドファイナルにすればいいんじゃない?」みたいな(笑)。そんな感じです。ほんとにね、大人をなめてるんですよ、僕らは。

――参りました(笑)。

でもね、35周年の時に40周年のことを言われても、「そんなのわかんねぇよ」と。誰も60になっていなかったし、まだ。

――そうですよね。実際どうですか、5歳の年を重ねてみて。

特に変わらないというか、演奏もさらに奥深くなってきているし、やっぱりこのメンバーで音を出し始めると、不思議と昔に戻る感じはありますよね。曲によっては、キーがきついなというものも出てきているので、そういうこともちゃんともう認めながら、無理せず(ツアーを)回っていきたいなと思います。

――キーを下げる曲もありますか。

いえ、下げないです。キーは下げないですけど、自分の歌い方にちょっと色々工夫をしながら、お客さんにはわからないけど、自分がいかに楽にきれいに出る発声をするか、ですね。

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――今回のツアーは、ドラムの廣石恵一さんが体調不良のため欠席。残念ですが、代わりに小川幸夫さんが参加してくれます。

廣石くんも、頑張って復活を目指しているので、またどこかでお会いしましょうということですね。小川さんは林哲司バンドのドラムで、オメガの楽曲を演奏した経験もありますし、林さんの楽曲の世界観はたぶん彼が一番わかっているかなと思うので、お任せしてよかったです。

――セットリストについては、どんなものになりそうですか。

2018年からまたオメガプロジェクトが始まって、日比谷野音があって、ツアーがあって、2020年もまた何本かライブがあって、そこで曲はほぼ網羅してきているので、そこからどういう選曲になるかは、楽しみにしていただきたいなと思います。ただ一つ言うとすると、実は、解散ツアーにギターの吉田健二はもういなかったんですよ。解散ツアーをやる前に辞めちゃったので。だから俺たちとしては、ケンタ(吉田)がいて、ギター二人が揃ったメンバーでラストツアーのメニューをやりたいよね、というのが最初の目的だったんですよ。

――ああ…それはアツいです。

やっぱりね、アルバム5枚、シングル7枚って限られてるじゃないですか。楽曲的には40曲ぐらいなので、そんなにあれこれできないわけです。2018年からこれだけツアーも回ったし、あとは曲をかぶせていくしかないから、選曲がすごく難しいんですね。じゃあどうしよう?という時に、「これしかない」ということです。

――了解です。それは、ここではっきりと言わないほうがいいですかね。

まあ、タイトルを見て想像してくれる方もいらっしゃると思うので、大丈夫です。解散ツアーに来れた人も、数が限られているわけですし、いろんな方がいろんな見方で感動してくれたらいいなと思います。

――1985年の解散ツアーは『FIRST FINALEツアー』でしたけど、ラストアルバム『FIRST FINALE』の楽曲はほとんど演奏していないんですよね。

そうです。『FIRST FINALE』が出る前にツアーが始まっていましたから。だから『FIRST FINALE』の楽曲は、2019年にけっこうやっています。というふうに、やってるほうはそういう思いでやってますけども、来てくれる人は「いや、私たちは2019年のツアーに行ってないし」ということもあると思うんですよ。でもまぁ、そこはそこ、ということで、おじいちゃんたちが頑張ってやってるんだから「こっちに任せなさい」という感じです(笑)。踊れる曲も多いと思いますし、盛り上がってもらいたいと思います。

――楽しみにしています。5月31日のNHKホールがセミファイナルで、ファイナルは6月8日の沖縄。ツアーが終わった時には、どんな気持ちになるだろうと予想していますか。

沖縄が終わったら、もう沖縄で飲むしかないですね(笑)。それまで健康に留意して、一生懸命節制して頑張ります。いや、節制はしないかもしれないな(笑)。


取材・文=宮本英夫

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