ミドル・シニアがセカンドキャリアを考えるとき、自分自身の棚卸しをすることが重要です(写真:EKAKI/PIXTA)

コンサルタント・オブ・ザ・イヤーを受賞した人材開発コンサルタントの田原祐子さんは「50代からのセカンドキャリアを考えるうえで、自分自身の棚卸しをして“強み”を確認してみましょう。副業・転職・起業などさまざまな選択肢が見えてきます」と言います。具体的な棚卸しの仕方について解説してもらいました。

※本稿は『55歳からのリアルな働き方』から一部抜粋・再構成したものです。

ミドル・シニアが次に活かせる「強み」を見つける方法

私は日本企業の賃金制度の構造上致し方ないとは思いますが、「55歳の役職定年」に賛成ではありません。

その理由は、ミドルマネジメントこそが、現場で仕事をうまく進めるうえで不可欠な経験知を持っているからです。

長年企業で働き、成功や失敗も含め、さまざまな経験を積み重ねてきたミドルマネジメントの方々には、ご自身でも気づかない、計り知れないほど多くの経験知が蓄積されています。経験知とは長年多くの経験を積んだ人が、無意識のうちに使っている、蓄積した知識・スキル・コンピテンシー(行動特性・人間性)のことを指します。

そんなみなさんの経験知を「言語化・形式知化(棚卸し・プログラム化・講座化・新しいキャリアにシフト等)」できれば、その先には、驚くような高評価や高収入が手に入ります。

本稿では、具体的に“経験知”を言語化していく方法をお伝えします。

⑴ 「専門分野=知識・領域」

⑵ 「実践スキル=業務経験」

⑶ 「コンピテンシー=行動特性・人間性」

の3つの領域から、あなたの経験知を探っていきましょう。

実際には、これから紹介していく12の質問に答える形で、あなたの知識・スキル・コンピテンシーを棚卸ししていただきます。

どのような専門分野で、どのような知識を習得したか

まず、あなたの経験してきた仕事を書き出しましょう。  

たとえば、「営業の仕事」とひと言で言っても、専門領域も違えば、法人営業(ルートセールス)か、それとも一般のお客様への接客営業なのか、あるいは「押しの強い営業スタイル」なのか、「ソフトで関係構築型の営業スタイル」なのかなど、営業のスタイルやタイプもさまざまです。

このように、たとえ同じ営業という仕事であっても、細かく見ていくと、あなた独自の特徴や、たくさんの隠れた強み等があるものです。

それではまず、あなたが経験してきた業務は、どのような専門分野で、その仕事を通じて、どのような知識を習得してきたか、具体的に確認してみましょう。

次の4つの質問の回答を、「できるだけ詳しく&細かく」書き出してみてください。

質問1 あなたは、どのような分野の仕事を経験してきましたか? 
質問2 あなたの仕事には、どのような知識が必要でしたか? 
質問3 あなたは、仕事をどの地域(エリア)でしてきましたか? 
質問4 あなたはその仕事で、どのような人たちと繋がって(会って)きましたか?

【回答例1】自動車営業職(個人向け営業)・田村さんの場合

質問1 → 自動車販売、営業
質問2 → 自動車、自動車部品、エコ・環境関連販売、運転、営業(個人中心)、接客、契約
質問3 → 東京都23区内
質問4 → 個人のお客様、経営者、会社員、主婦等

【回答例2】食品メーカー営業職(法人向け営業)・山田さんの場合

質問1 → 食品メーカー、営業
質問2 → 食品、栄養、安全、衛生、営業(法人中心)、商流、スーパーの棚取り、陳列、POP作成、イベント企画、契約
質問3 → 全国
質問4 → 全国のスーパーのバイヤー、店長

【回答例3】自動車製造業・木村さんの場合

質問1 → 自動車の製造
質問2 → 自動車、自動車部品・パーツ、製造、メンテナンス、運転、点検、整備
質問3 → 愛知県
質問4 → 自動車部品メーカーの技術者、自動車設備関連工場のオーナー・技術者

さあ、いかがでしたでしょうか。あなたも、「専門分野」についての4つの質問に対して、書き出してみましょう。

今以外の仕事でも役立つ実践スキルを棚卸しする

次に、あなたが経験してきた「実践スキル=業務経験」について確認してみましょう。

実践スキルとは、これまで「何をしてきたか」という経験や、具体的に仕事で「何を」「どのように」できるのか、という能力のことをさしています。

また、実践スキルの一つに、「役職・役割」もあります。リーダー、主任、係長、課長、部長等の役職や、クレーム対応係等の役割もあり、営業職の場合には、営業活動の一環として、プライベートで地域の町内会の役員等を引き受け、営業実績とプライベートの人望との相乗効果を上げるケースもあります。

これらの役割も含めて棚卸ししていくと、あなたの中に、今以外の仕事でも役立つ素晴らしい実践スキルが眠っていることに気づくでしょう。

それでは、前項と同様に、次の4つの質問への回答を、「できるだけ詳しく&細かく」書き出してみてください。

質問5 あなたは仕事で、どのような「業務」を経験してきましたか? 
質問6 あなたは具体的に「何を」×「どのように」してきましたか? 
質問7 あなたは仕事やプライベートで、どのような「役職」を経験してきましたか? 
質問8 あなたはどのような仕事が、もっとも「得意」でしたか? 

【回答例1】自動車営業職(個人向け営業)・田村さんの場合

質問5 → 営業(接客、説明、販売、契約、アフターフォロー)、紹介依頼
質問6 → 自動車を運転、お客様への説明・営業・クロージング、お客様との契約、お客様へ紹介依頼、お客様宅への訪問・納品、お客様からの質問・クレーム対応
質問7 → 社員、営業リーダー、営業課長、同窓会の世話役、応援団長
質問8 →OB客から紹介受注をいただくこと

【回答例2】食品メーカー営業職(法人向け営業)・山田さんの場合

質問5 → 法人営業(説明、契約、搬入交渉)
質問6 → 商流の開拓、仕入れ値・量の交渉、デモンストレーション、商品の搬入、スーパーの棚取り、商品の陳列、POP作成、イベント企画
質問7 → 社員、配送主任、営業係長
質問8 → コツコツと法人営業をして、信頼関係を構築すること

【回答例3】自動車製造業・木村さんの場合

質問5 → 自動車製造・自動車部品の製造
質問6 → 自動車・自動車の部品・パーツを製造、自動車のメンテナンス・整備・修理、運転
質問7 → 社員、主任、リーダー、係長、QC(Quality Control =品質管理)活動のリーダー
質問8 → 製造現場のカイゼン活動

このように細かく書き出してみると、田村さん、山田さん、木村さんともに「営業」「製造」という職種の特有なスキルに限定されず、さまざまな実践スキル(実践できること、仕事で役立つスキル)があることに気づくことでしょう。

仕事をするうえでの大切な潜在能力とは

続いて、あなたの「コンピテンシー=行動特性・人間性」を見える化&分析していきましょう。

コンピテンシーとは、行動特性や人間性という意味です。ハーバード大学の行動心理学者、デビッド・マクレランドが提唱した概念で、2000年ごろから日本にも導入されるようになりました。本稿ではコンピテンシーを、新たな仕事の機会を発見し、自己を探究するための目的に注目して、「行動特性・人間性」と定義づけしています。

次の図は、氷山になぞらえて物事を比喩する「氷山モデル」と言われるモデルで、コンピテンシーのイメージを表現したものです。


『55歳からのリアルな働き方』P.94より

氷山は、海面に出ている部分はわずかであっても、海面下には、大きな氷塊が潜んでいます。

同様に、その人の行動や仕事の成果は、潜在するコンピテンシーによって大きく異なることを意味しています。

たとえば、慎重さや正確性を重視するタイプの人と、迅速性や戦略性を重視する人とでは、同じ仕事をする場合に起こす行動やその成果も、まったく異なる結果となるでしょう。

これがコンピテンシーの興味深さであり、また、仕事をするうえでの大切な潜在能力の一つです。

それでは、これまでと同様に、次の4つの質問への回答を「できるだけ詳しく&細かく」書き出してみてください。

質問9  あなたが仕事をする際、心がけていることはありますか?
質問10 あなたがお客様と接する際、心がけていることはありますか? 
質問11 あなたが上司や部下と接する際、心がけていることはありますか? 
質問12 あなたは、仕事をしていてどのようなときに達成感を感じますか? 

4つの質問への回答で、あなた自身が大切にしている、仕事や人間関係等の価値観が明らかになってくることでしょう。

【回答例1】自動車営業職(個人向け営業)・田村さんの場合

質問9 → 誠実、納期厳守
質問10→ 信頼関係の構築、親切、丁寧
質問11→ 上司には忠誠心を持って仕え、部下は愛情を持って厳しく育てる
質問12→ お客様に「ありがとう」と言ってもらえたとき

【回答例2】食品メーカー営業職(法人向け営業)・山田さんの場合

質問9 → 安全、確実
質問10→ 誠実、クイックレスポンス
質問11→ 上司には迅速かつ正確な意思疎通、部下には自身の背中を見せて育てる
質問12→ 自社の商品の売上が大きく伸び、スーパーに喜ばれたとき

【回答例3】自動車製造業・木村さんの場合

質問9 → 安全、確実、検証、報告・連絡・相談
質問10→ 誠心誠意
質問11→ 上司には細かく報告、念入りなコミュニケーション、部下には技術の伝承、育成
質問12→ 新しいシリーズの自動車が無事リリースできたとき

積み重ねた経験知が輝かしい未来のキャリアを拓く

田村さん、山田さん、木村さんの回答を見て、あなたは、どのように感じましたか。


おそらく、専門分野や実践スキルを問う質問への回答ではわからなかった3人の方々の人となりや、どのようなスタンスで仕事に臨んでいるかが、おわかりいただけたことでしょう。

ここまで、あなたの「専門分野=知識・領域」「実践スキル=業務経験」「コンピテンシー=行動特性・人間性」を見える化・言語化してきました。

書き出していただいた要素の一つひとつが、新たな仕事や潜在能力の開花に繋がります。

これらの「経験知や才能」を活かせば、50代からの輝かしい未来のキャリアが拓けてくるでしょう。みなさんも本稿を参考に、ぜひご自分の「強み」を再確認してみてください。

(田原 祐子 : 人材開発コンサルタント)