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セルフ式のコーヒーが導入されたコンビニで、客がレギュラーサイズを購入したのに、あえてラージサイズなどを注いで逮捕される事件がこれまでに何度も報じられている。

一度の被害金額こそ数十円から100円程度だが、店側からすれば許せない行為であり、れっきとした犯罪である。

ただ、窃盗罪などに問われ、職場から懲戒処分を受けるなど、代償となるペナルティは決して小さいものではない。

九州地方の元公務員の男性も3年前に同様の行為に及び、窃盗罪で逮捕され、もっとも重い懲戒免職処分を受けた。

仕事を失い、悔やみ続けながら引きこもる生活を送ってきたが「犯罪者を出さない仕組みにならないか」と複雑な思いを取材に語った。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●各地で逮捕者や懲戒免職処分、小学校の校長まで

セルフ式のコーヒーマシンで、支払った金額より高価なコーヒーなどのドリンクを自ら注ぎ、警察に逮捕されるような事件は近年でも各地で発生している。

福岡県のコンビニでSサイズのコーヒー(100円)を注文して、Mサイズ(150円)を注いだとして、70代の男性が窃盗の疑いで、福岡県警に現行犯逮捕された。複数回繰り返したことから店は警察に相談していた。(2022年4月)

https://www.bengo4.com/c_1009/n_14390/

兵庫県内の市立中学校長が懲戒免職処分に。コンビニでレギュラーサイズ(110円)を注文して、ラージサイズ(180円)を注ぐ行為を7回繰り返したとして、窃盗の疑いで書類送検された。教育委員会は懲戒免職処分とした。合計490円の被害で懲戒免職処分は重すぎるのではないかとして、X(エックス)でもトレンドになった。(2024年1月)

https://www.bengo4.com/c_1009/n_17132/

高い倫理観が求められる学校関係者でもやるのかと驚かれた。

●「冗談話がきっかけで」通勤前に立ち寄ったコンビニで現行犯逮捕された

弁護士ドットコムニュースの取材に応じたのは、熊本県内に住む・小出信哉さん(60代・仮名)だ。

役所の非常勤職員として働いていた2021年1月、出勤前に立ち寄った大手コンビニチェーンの店舗で、レギュラーサイズの料金(100円)で買ったコーヒーのカップに、ラージサイズのカフェラテ(200円)を注ぎ、現行犯逮捕された。

ガラス張りの店で、セルフのマシンは外からも目に入る。「常習者がいる」と通報を受けた警察が外で張り込んでいたのだった。

「少なくとも4〜5回やったと思います。カップに注ぎ入れ終えた時点で、店に入ってきた警察から『カフェラテを入れましたよね。これは窃盗の現行犯になります』と手錠をすぐかけられました。

犯罪とは無縁の人生だった自分がまさかと驚いた小出さんだが、差額にして100円分の「窃盗」行為への罪の意識はあった。

小出さんがこの「窃盗」を始めたのは、2020年の11月頃だという。知人が冗談混じりに「小さなカップでも、カフェラテのラージはちょうど入るらしい」と話しているのを聞いたのがきっかけと話す。

「いつも行くコンビニで試したら本当だった。それで癖になった」

●仕事と友人を失う…「実名報道」でネットにデジタルタトゥーも

事件の1年前に早期退職して非常勤に切り替えた。金銭的に困っているわけではない。

実名報道されたことで、知人からも連絡があり、「どうして?」と聞かれたが、明確な答えを返すのは難しかった。

10年以上前から診断されたうつ病の症状が当時ひどかったことも背景にあるかもしれない。「気の緩みかもしれない」ともいう。

さて、小出さんは店から連れて行かれた警察署で5時間ほど聴取を受け、自宅に帰った。「20回くらいやった」という逮捕時の供述が報じられているが「そこまでやっていない」と首を振る。

役所はその日から出勤停止となり、検察の不起訴処分を待たないうちに、懲戒免職処分となった。

この際も「あまりに重い処分ではないか」という意見がSNS上で目立ち、本サイトでも弁護士の見解を紹介している。

小出さんが警察の聞き取りを受けている間、家族はコンビニを訪れ、店が用意していた示談書にサインをして、15万円を支払った。

事件が原因で、離れていってしまった友人もいるという。何より仕事を無くして、インターネットには名前も残った。

家に引きこもり、愚かなことをしたと悔やみ、家族への申し訳なさを感じながら、ずっと心の中でモヤモヤを抱えているという。

●「やってしまった立場で厚かましいけど」それでも言いたいこと

店にもよるが、客がセルフコーヒーのマシンで押したボタンは、店側は把握できるようになっている。

「やってしまった立場で言うのは大変厚かましいが、店は私の過ちに気づいたときに注意してほしかった。そしたら不足分の金額を払っていたし、二度とやらなかった」

サイズや種類が多岐にわたる飲み物の中から、自分が買ったものではない商品まで選択できてしまう仕組みは、客の良心をベースに作られているとも言える。

「買ったもの以外は注げないような仕組みにしたり、そもそも店員さんが注いでくれるような形であれば、間違いは起きない。コンビニや経営者には、犯罪者を出さないような努力をしてもらえないかと思っている」

事件を起こす1年ほど前にも隣の福岡県で同じような事件が報道されていたが、知らなかったそうだ。

「記事を読んで、犯罪だと明確にわかっていれば、私はやらなかった」

最近でも同様の事件が定期的に報じられ続けているのを見て、いてもたってもいられなくなったという。

「しっかり考えて、後から後悔しないように、小さいことと思っても後から大変なことになる」

「これからずっと先、私は『悪い先祖』として一族の間で知られていくのではないかな」と不安な気持ちになることもあるそうだ。

●「惨めな思いをして生きていくのではなく社会に恩返し」仕事復帰が叶った

この春から、小出さんは就労支援センターを通じて仕事を始めた。元同僚が声をかけてくれたという。1日数時間、週3日から始めて、心身に負担にならないようにする。

「こんな変なことをして、惨めな思いして生きていって良いのかと思って、社会に恩返ししたくなった」

小出さんは取材をきっかけに、敬遠していたコンビニのセルフコーヒーを久しぶりに飲んだ。「家で飲むのとそんなに味は変わらない」。この3年でコーヒーのレギュラーが20円、カフェラテのラージは50円値上げされていることに驚いていた。