外国人がびっくり「日本のお通し」ここがヘンだよ
トラブルになりやすいお通し。お店側のメリット、客とトラブルを防ぐための策とは(写真: SAMURAI / PIXTA)
4月から新年度に入り、新人社員の歓迎会を予定している人も多いのではないだろうか。
歓迎会では居酒屋がよく使われるが、そんな居酒屋でたびたび話題に上るのが“お通し問題”だ。特に居酒屋へ訪れたときに、最初に注文していない小鉢が提供され、お通し代として会計に追加された経験がある人もいるだろう。
枝豆や冷奴、野菜スティックやポテトサラダから、酢の物や刺身、だし巻き卵や煮物など、お通しはバラエティー豊かだ。
長い間日本の居酒屋で提供されているお通し。どんなトラブルが考えられるのか。店側の実情も踏まえながら、考えてみる。
お通しでトラブルになりやすいのが、頼んでもいないのに出てきた、先に料金が明示されていない、という点だろう。
訪日外国人とトラブルになりやすい
特にお通しは、外国人観光客とはトラブルのもとにもなりやすい。
欧米などの外国では、「飲食店でのオーダーは店側と客の契約である」といった認識が浸透しているため、どんなモノやサービスを、いくらで提供するかがしっかりと提示される。そのため、提供されるモノや値段も、不透明な“お通し文化”はトラブルを招きやすい。
居酒屋に足を運ぶような訪日外国人は、日本の食文化を理解したい、体験したいと思っているはずだ。だからこそ、ミシュランガイドで最も多くの星を獲得する美食都市である東京において、ファインダイニング(高級レストラン)ではなく、街場の居酒屋を訪れているのだ。
ちなみに、コロナ前は中国人観光客が圧倒的に多かったが、現在はさまざまな国からの観光客が日本を訪れている。居酒屋に関しては、アジア人よりも欧米人のほうが興味を抱いている印象がある。
せっかく、日本の食文化に興味をもってもらっているだけに、お通しの体験を“日本旅行のよい思い出”として持ち帰ってもらいたい。そのためには、料金も含めてお通しのシステムについてしっかりと説明する必要がある。
ちなみに、お通しの発祥には、江戸時代に客からのリクエストに応じて、おまかせの酒肴を提供していたことが起源であるという説もある。そう考えると、お通しは数百年続いたおまかせの酒肴であり、大切な日本の食文化であるといってもよい。
店側がお通しを出す理由
トラブルのもとになりやすいお通しだが、それでもお店側が提供を続ける理由もある。
お通しには、入店したばかりの客を待たせないための、配慮や機能がある。入店してから、店員がオーダーを取りに行き、そこから料理を作るとなると、当然のことながら時間がかかってしまう。
混雑状況にもよるが、簡単なサラダなどであったとしても、オーダーを取ってから席に運ばれてくるまで5分くらいを要するだろう。
だが、お通しは、どの客にも共通して提供されるものなので、事前に用意することが可能だ。そのため店側は、客が着席してから、すぐに提供することができる。
コロナ禍でスタッフが離れてしまい、多くの飲食店ではいまだに人手が足りていないだけに、事前に準備できるのは非常に助かるのだ。
お通しは、お酒と一緒に味わう酒肴といった位置付けでもあり、最初に注文するビールなどのアルコールにもよく合う。
また、飲食店が柔軟に内容を決めることができ、食材を効率よく利用できるという利点もある。
余っている食材を利用したり、安く仕入れられた食材を活用したりなど、素材を効率よく利活用できるのは、SDGsの観点からも好ましい。お通しという“おまかせ”の一品が提供されることは、サステナビリティーの観点からも非常に意味があるのだ。
飲食店のコストは、提供される料理だけに、かかっているわけでは当然ない。料理人や、サービスを遂行するスタッフの人件費はもちろん、飲食店が入居するための賃貸料、内装の施工や維持の費用、テーブルウェアの購入費、空調や明かり、ガスといった光熱費など、皿の上以外にもたくさんのお金がかけられている。したがって、客がテーブルに座るだけでもお金がかかると考えていい。
イタリアの飲食店ではコペルトというテーブルチャージ(席料)が料金に計上される。日本の飲食店でも、コペルトや席料といった名目で料金をとることは珍しくない。夜のバーに行けばテーブルチャージが課され、生演奏があればカバーチャージ(ミュージックチャージ)が加算される。
コペルトと呼ばれるチャージ料があるイタリア(写真: riomiwa / PIXTA)
街場の飲食店であれば、お通しは300〜600円、テーブルチャージは500円前後。夜間におけるホテルのバーやラウンジであれば、テーブルチャージは1500〜2000円、カバーチャージは2500〜3000円程度だ。
アミューズと席料の値段であると考えるのなら、お通しの料金は決して高いとはいえないだろう。
お通しで飲食店の実力を測ることも
ファインダイニングでは、食材の効率性を高めたり、料理人の才能をいかんなく発揮させたりするために、おまかせコースとなっていることが少なくない。このおまかせコースを食べてみることが、その飲食店の実力を測る最適な方法だ。
これと同じように、店側が自由に内容を決められるお通しは、飲食店の実力を測るのにちょうどよい1品。たった数百円のお通しにも真摯に取り組み、満足のいくものに仕上がっていれば、ほかの料理も期待できるに違いない。
店側はお通しの料金をきちんと提示したうえで、訪日観光客を含めた客側は、お通しにどのような1品が提供されるのか、飲食店の腕の見せどころだと思って、楽しんでもらいたい。
(東龍 : グルメジャーナリスト)