子どもの読書嫌いを改善するために必要なこととは(写真:kaka/PIXTA)

読み聞かせをしようとしても、子どもが本に興味を示さない。読んでいても、途中ですぐに飽きてしまう……。子どもが本を好きになるためには、「ある能力」が必要だと語るのは、本とアートを掛け合わせた独自の手法で子どもの知的好奇心を引き出す『10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリル』を上梓した久松由理氏。子どもの読書嫌いを改善するために必要なことと、文章の読解力を伸ばすために保護者ができることについて聞きました。

本好きな子には「ある能力」が備わっている

同じ家庭で育っても、本をよく読むお姉ちゃんとまったく本に興味がない弟くん。いったいどうしたら、本を読むようになってくれるのか?と我が子の読書嫌いに悩める保護者の方は案外多いものです。

じつは、本好きな子には、本嫌いの子にはない、読書が楽しくてたまらなくなる「ある能力」が備わっているのです。そこを理解しないままで、ただただ本を買い与えて読むことを無理強いしても、お子さんの読書嫌いはまったく改善しないでしょう。

「読書を楽しくする能力」、それはズバリ、文字で書かれた文章を頭の中で映像化できる能力です。読書が好きな子どもたちは、文章を読むとそれが即座に頭の中で映像に転換され、まるで映画館に座っているような気分で本を読み進めることができます。映像で見たことは忘れにくいので内容をよく覚えていられますし、事件が目の前でリアルに展開しますから、登場人物の心情も手に取るように理解できるのです。

一方、読書が嫌いな子どもたちは、文章を記号の羅列のように読んでいるだけなので、一度読んだだけでは意味内容がきちんとわかりません。たとえぼんやり理解できたとしても、誤解だらけの解釈であったり、内容をすぐに忘れてしまうので、次の日に本を開いて続きを読もうとすると、もうストーリーがつながらないということになったりするのです。

2次元の文章を3次元に立ち上げる読解力があるかどうかは、読解テストをしなくても、A地点からB地点までの道のりを言葉で説明させてみる、あるいは4コマ漫画を見せて、そのストーリーを語らせてみるなどすると、すぐにわかります。

映像化・立体化の苦手な子は、道順がうまく説明できませんし、漫画のオチを読み取ることも難しいのです。頭の中で絵を動かせないため、静止した絵だけを見ても何が起きているのかさっぱり理解できない、というわけです。

トレーニングで育つ「2次元を3次元に転換する能力」

では、絵や文章を映像化できない子は、もうずっとそのままなのか?というとそうでもありません。根気強くトレーニングをすれば、2次元を3次元に転換する能力は徐々に育ってきますから、諦めずに取り組んであげるといいでしょう。

いきなり読書を楽しませようとしても無理があるので、まずはあらゆる単語や状況がイメージできるようにしてあげるところから始めましょう。読書嫌いの子はたいてい語彙力と一般常識力が不足しています。文章の中に出てくる言葉や事象を知らず、イメージできないから映像化ができないのです。なので、さまざまなものを実際に見せ、体験させながらものの名前や一般常識をどんどん教えてあげるといいのです。

私は「幕の内弁当」という言葉を教えるために、娘を歌舞伎座に連れていき、幕間で実際にお弁当を食べさせながら「幕の内弁当」の由来を語って聞かせました。また、「干潮、満潮」という現象を理解させるため、大潮の日に潮干狩りに連れていったこともあります。

いちいちそんな面倒なことをしなくても口で言えばわかるだろうと思われるでしょうけれど、口頭で説明するだけ、辞書で引かせるだけの知識は、体験ほど強烈な記憶として子どもの中に残ってはくれませんし、言葉そのものに興味を持つきっかけになりません。国語を好きにさせるには、とにかく小さい頃に「言葉を覚えるのって楽しい!」とお子さんに思ってもらう必要があるのです。

そうしてたくさんの言葉を体験と同時にインプットしつつ、毎日行っていただきたいのは大量の絵本の「読み聞かせ」です。一番効果的なのは、お子さんを膝に乗せたり、並んで座るなどして、絵本の文字と絵を見せながら読み聞かせることです。絵本だけでなく、紙芝居を見せたりするのも良いですし、忙しくて時間がない日は、すでに読んだことのある物語が映画化された作品を鑑賞させるのも、文章の映像化力を養うでしょう。

本とアートを掛け合わせて、読書を何倍も楽しむ

私の教室では、アートを用いて「2次元を立体化する力」を鍛えています。例えば、ヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を鑑賞し、その少女が本当に目の前にいるかのようにイメージしてもらいます。そして、絵の中の少女と対話を始めてもらうのです。

対話の内容はすべて紙に書き出しますから、話の辻褄はあっているか?論理的な会話になっているか?をチェックしながら、生徒と少女の会話が終わるのを見守ります。こうして、動くはずのないもの、しゃべるはずのないものを自分の頭の中で動かしてみる、想像してみるということを繰り返していくと、徐々に立体化ができるようになってきます。


『10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリルより』「真珠の耳飾りの少女」のページ抜粋

少しずつ映像化ができるようになって、読書が楽しめるようになってきたら、挿絵の多い平易な本から、徐々に本のレベルを上げていくようにしましょう。本に書かれてある対象年齢はまったく気にしなくて構いませんから、お子さんが内容をきちんと理解できる本を与えてあげることが大切です。

こうしてサポートしてあげますと、ほとんどのお子さんが小学校中学年レベルの本までは、なんとか読んでくれるようになります。でもそこからあと一段レベルを上げて、高学年向け以上の本を進んで読んでくれるようになるには、もう一つ大きな壁を越えてもらわないといけません。

そんな時にも、私の教室ではアートの力を借りています。なぜなら、小学校高学年〜中学生に読ませたい「ギリシア神話」や「聖書物語」、西洋文学の数々は、それらをモチーフに創作されたアートに事欠かないからです。つまり、本だけで文学を楽しませるのではなく、本とアートを掛け合わせて読書を何倍も楽しんでもらおう!というわけです。

例えば、生徒に、そろそろシェイクスピアの4大悲劇ぐらい読んでほしいなあと思ったとしましょう。でも、いきなり「シェイクスピアを読もうよ」と言っても、難しそうだなと抵抗感を持つ子が多いんですね。そういう時には、ジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」という絵画作品を事前に鑑賞してもらいます。絵を見て、オフィーリアがなぜ川の中に横たわっているのか?これからオフィーリアはどうなるのか?といったようなことを、まず自分で考えてもらうのです。


『10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリルより』よりオフィーリアのページ抜粋

「読まされる読書」から「主体的な読書」へ

子どもたちは詳細に絵を観察し、真剣に絵の背景を考えてくれますので、すでにこの時点で「どうしてこんなことになったんだ?」「いったい何をしたいんだろう?」と、答えを知りたい気持ちはピークに達しています。そこで、「ハムレット」の本をぱっと本棚から取り出して、「実はこの女性、この本のヒロインなんだよね。この絵は本の中のワンシーンを描いたものだから、読んでみれば事情がわかるよ。読んでみる?」と本を渡すのです。


普通に「これ読んでみて」と難しそうな本を渡すのとは、全然違いますね。みんな、自分の想像が合っているかどうか気になって仕方がないのですから、それはもう喜んで読んでくれますし、「全然想像と違ってたよ〜」などと嬉しそうに感想を語ってくれます。

少々とっつきにくい本でも、こうして読むきっかけをうまく作ってあげると好奇心を持って読書してもらえますし、このような読書法を繰り返すうちに、だんだん点だった知識がつながり、教養になっていくのを自分で感じ始めます。すると、読書に対する意識が変わってくるわけですね。

「読まされる読書」から、知的好奇心を満たすための「主体的な読書」へ。読書の楽しさを知らない子どもたちが急激に増えている今、手間暇をかけてここまで連れていってあげるのも大人の役目なのかな、と思う今日この頃です。

(久松 由理 : イデア国語教室主宰)