住むべきは賃貸か、持ち家か(写真:hellohello/PIXTA)

2023年1年間に生まれた子どもの数は、外国人なども含めた速報値で75万8631人。で、前の年より4万1097人減少と8年連続で、統計開始以来、過去最少になったことが報道されました。 少子化と表裏一体の課題が「超高齢化社会」です。

医療の発達により、いわゆる不治の病が少なくなり、なかなか「死ねない」時代がもうそこまでやってきています。

一般的な定年の年を過ぎても長く生きなければならないこれからに備え、何をどのように準備しておけばいいのか――医療、お金、住まい、相続など、さまざまなジャンルの専門家8名の著者による『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)から、一部抜粋・編集してお届けします。

住むべきは賃貸か、持ち家か

「賃貸か持ち家か」の議論は、さまざまなメディアで取り上げられています。ただ、この議論が成り立つのは、「借りたい」と思ったときにいつでも賃貸住宅を借りられる状態にあることが前提となります。

しかし、70歳以上の高齢者になると、賃貸住宅を借りる難易度は急激に上がります。

では、持ち家なら大丈夫でしょうか? 残念ながらそうとも限りません。

持ち家は、ローンを完済すれば確かに家賃こそかかりませんが、家の補修費用や固定資産税は必要です。ある程度の築年数になれば、屋根や外壁を補修しなければならないこともあるでしょう。

何にいくらぐらいかかるのか具体的にイメージをして、その分のお金を貯めておかなければ、持ち家に住み続けるのも大変です。

想定外の災害が毎年のように全国各地で起こっていますから、自宅が災害に遭うことも想定しておいたほうがいいでしょう。台風や地震で持ち家が被害を受けた場合、その補修費は保険で全額賄えるのか。そもそも保険に入っていないなら、入ることを検討する必要もあります。

築年数も問題です。自分が平均寿命まで生きるとすれば、その時、持ち家は築何年でしょうか。現実問題として、住み続けられる建物かどうかはそこまでのメンテナンス次第でもあるでしょう。必然的に、それなりの費用がかかることを把握しておくべきです。

要は、持ち家だからといって安心はできないということです。考えないといけないことは、持ち家でもいろいろとあります。

2019年に「老後2000万円問題」が話題になりました。人によって、死ぬまでにかかるお金は全然違います。賃貸か持ち家かでも違いますし、住んでいる場所、既婚か独身か、子どもの有無も関係してきます。

自分の状況をふまえた上で、老後にどんな暮らしをしたいかを個々人が具体的に考え、それにかかる費用を準備しておかなければなりません。今の40代、50代は現役のうちから「人生100年」になる可能性を見据えて、考えておいたほうがいいでしょう。

資産と負債を書き出すこともしてみましょう。自分の資産をすべて処分した場合、最終的にプラスになるのかマイナスになるのかは知っておかなければなりません。

「持ち家があるからいざとなったら売れば大丈夫」と思っていても、考えていた価格で売れるとは限りません。買った値段より高く売れるとは、限らないのです。

頭金を少なくして無理なローンを組んで買ってしまうと、売却しようと思った時に、ローンの残債以上で売れないことも多々あります。金利が低いから借りるのではなく、「頭金はあるけれど金利が安いから借りておこう」くらいの余裕がないと、アクシデントがあったときに立ち行かなくなります。

ローン期間中、ずっと同じ収入が得られる保証は、誰にもありません。病気になって働けなくなるかもしれませんし、転職を余儀なくされるかもしれません。家族構成が変わってしまい、世帯収入が減ることだってあり得ることです。

だからこそ家を買うときは、この物件が数十年後にいくらで売れるのか、貸す場合にいくらで貸せるのかまで考えておいたほうがいいでしょう。

また、若い頃には何とも思わない「階段」も、高齢者になると苦痛になる日がきます。平屋でない限り「長いこと階段を上がっていない」ことから、2階で雨漏りしていることにも気がつかない、ハクビシンのような野生の動物が住み着いていた、ということもよくあります。

逆に陽当たりのいい2階リビングも、高齢になると住みづらい家になってしまいます。階段を下りていかねばならないことから、出不精になってしまい認知機能の低下につながります。

また、介護が始まるとリビングにベッドを置くことが多いのですが、1階の方が介護の人が出入りしやすくて便利です。

若い時に好む家が、高齢者に住みやすいとは限らないということです。お洒落なスキップフロアも、高齢者には階段が多くて酷な家になってしまいます。

でも家を買う時に、家族の人数が減ることや自分が高齢になる時のことをイメージできる人はほとんどいないでしょう。そうであるならば、ライフスタイルに合わせて気軽に転居できる賃貸物件も、選択肢としては悪くありません。 

持ち家にしろ、賃貸にしろ、当たり前のことかもしれませんが、とにかく経済力をつけることです。

35年のローンを組んだとして、仮に何かアクシデントがあったとしても払えるだけのスキルを持っていれば安心です。定年になっても、ある程度の収入が得られる準備をしておくのも必要です。

今や国は「副業」を推奨しています。NISAなどを利用すれば、長期にわたって資産を増やせる手段も用意してくれています。国や会社に頼るのではなく、日本人の個々が自立して、自分で自分の人生をしっかりデザインしていかねばならない時代に来ています。

さて、最初の「賃貸か、持ち家か」の話にあらためて戻りましょう。

無責任に聞こえてしまいますが、やはり、どちらがいいとは一概には言えません。

あくまでも住まいのさまざまなトラブル解決に携わってきた私の個人的意見としては、家族構成も含めまだ流動的な間は、ライフスタイルに合わせて賃貸物件に住む。あるいは、家賃レベルで買える安価な中古物件を購入して、生活スタイルに合わせて住み替えをしていくのを提案したいです。

少なくとも長期スパンで住むことを前提とした高額な物件を、買った額より確実に高く売れる確信が持てないまま目一杯のローンを組んでの購入はお勧めできません。

人生の後半戦、自分の年金額や貯金額、生活スタイルと将来的な収入がはっきり見えたころ、高齢者が住むのに心地よい物件を購入する、建てる、リノベーションをする、早めに借りるというのがよいと考えています。

終の棲家を探すときに、1つ注意してほしいことがあります。それは引っ越し先が10年、20年で取り壊しや建て替えにならないか、という点です。最後に住む家は、自分の寿命より長持ちしそうな物件を選ぶようにしてください。

住むエリアで「家」にかかる費用も大きく変わるので、自分のセカンドライフプランは早めから意識しているほうがいいでしょう。

現役時代は仕事が中心なのでアクセス重視ですが、毎日通勤しないのであれば、スーパーや病院など生活の利便性が重要になってきます。故郷や昔転勤で住んでいた場所、学生時代を過ごした地、旅行で気に入った地など、楽しみながら終の棲家のためのエリア探しをしてみませんか。

試し住みも、賃貸物件なら気軽です。子どもの校区なんて考えなくてよくなった世代ですから、ぜひご自身の「好き」を探してみてください。郊外なら地価も下がるでしょうから、高齢者に快適な平屋を建てやすくなるでしょう。

「おひとりさま」なら、頼れる身内が近くに住んでいる物件を選んだり、身元保証や高齢者サポートなどをしてくれる存在の確保をしたりすることも検討しましょう。

自分が認知症になったり、病気になったりしても、すぐに来て対応してくれる存在がいるとなれば、家主側も安心して貸すことができますし、自分自身も心強いはずです。

見守りサービスを利用すれば、万が一のときもすぐに見つけてもらえるので事故物件にもなりません。今はそのような事業者もたくさんできているので、若いうちからサービスの内容を確認しておくことが重要です。

サポート費用はかかりますが、人に動いてもらう以上仕方がありません。費用を払って、安心を買う時代に入った(家族を頼らない)と割り切りましょう。

経済力や任意後見手続き、見守りなどで、家主側の不安をカバーできます。そこまで備えておけば、貸さない人はいないはずです。


また「UR賃貸住宅」は、平均月収額が月々の家賃額の4倍以上あれば(家賃額6万2500円未満の場合)、年齢は問題になりませんし、保証人も不要で借りられます。

礼金、仲介手数料も不要で、契約は自動更新、更新料もなしに住み続けることができます。月収がなくても貯金が月々の家賃額の100倍あるか、家賃を1年分前払いするかのいずれかの条件を満たせば入居できます。

このように賃貸であっても持ち家であっても、お金さえあれば何とかなることばかりです。

誰しもが、必ず老いて死にます。生きる基盤である「住」をどうするかを考えることは、「生きる」ことを考えることでもあります。少子高齢化の社会では、とにもかくにもお金を貯めて若いうちから備えておくことが大切です。

(太田垣 章子 : OAG司法書士法人 代表司法書士)