帽子とカプチーノに共通する語源とは?(写真:StoryTime Studio/PIXTA)

言葉の意味や関連を知るのに、語源をたどるというのは1つの有効な手段になります。近年は特に、英語学習に役立てるための「語源本」も多く見受けられます。そして、多くの英語の語源が実はラテン語なのです。本稿では『世界はラテン語でできている』より抜粋・再構成のうえ、意外な語源のストーリーをご紹介します。

チャペル(礼拝堂)の語源

日本になじんだキリスト教圏の習慣として、チャペルでの結婚式があります。

「チャペル(chapel)」は英語で「礼拝堂」という意味です。ちなみにchapelという英単語には「印刷工組合」という意味もありますが、これはイングランドで初めて活版印刷を行ったウィリアム・キャクストンがウエストミンスター寺院付近の礼拝堂で仕事をはじめたからです。

そしてこのchapelという語は、語源をたどっていくと面白いのです。

まず、chapelはラテン語のcappella「礼拝堂」が語源になっているのですが、このcappellaの元々の意味は「小さなマント」です。この意味の変化には、トゥールのマールティーヌスという聖人が関わっています。

彼は4世紀の人で、スルピキウス・セウェールスという同時代の作家が伝えるところによると、若いころから優しい人間で、困っている人を助けることを常としていました。また、彼は後に聖人になりましたが、最初はキリスト教徒ではありませんでした。

ある日、軍人であった彼が武器を持ってフランス北部の都市アミアンにいた際に、彼の前に物乞いが現れます。その物乞いは何も身に着けておらず、道行く人に着るものをねだっていました。その時は冬のど真ん中、しかもその年は多くの人が亡くなるほどの厳しい冬でした。

マールティーヌス自身も外套を1枚羽織っているだけで、気前よく他人に服をあげられるような身なりではありませんでした。

他の通行人たちもその物乞いに服をあげる様子はなく、自分が与えなければならないと思ったマールティーヌスは携えていた剣を用いて外套を切り、半分をその物乞いにプレゼントしました。結果的にみすぼらしい身なりになったマールティーヌスは通行人の笑い者になってしまいました。

しかしながらその夜、彼は夢の中で、半分だけの外套を身に着けたイエス・キリストを見るのです。そしてイエスは大勢の天使たちに向けて「マールティーヌスは、この服を私に着せてくれたのだ」と告げました。

彼はキリスト教の洗礼を受けることにしました。彼の着ていた外套は大変に珍重され、それを保存していた建物もcappellaと呼ばれるようになり、cappellaの指す範囲が広くなって「礼拝堂」も指すようになりました。これが英語のchapelの語源になっています。

アカペラや合羽も

また、伴奏を伴わない曲を指す「アカペラ」もchapelと同じ語源を持ちます。まず「アカペラ」は、「教会風の(a cappella)」という意味のイタリア語です。

なぜ教会の歌が「無伴奏」と結びつけられたかというと、ロマン派時代の人々が中世の教会音楽は無伴奏だったと想像したからです。実際は、15世紀や16世紀の宗教的合唱曲でも楽器を伴うこともありました。

chapelや「アカペラ」と同じ語源を持つ日本語に「雨合羽」などの「合羽」があります。これはポルトガル語capa「外套(がいとう)」が語源で、capaはラテン語cappaにさかのぼれます。

カプチーノの語源となった修道会

ポルトガル語のcapa「外套」から、なにかひらめいた方もいるのではないでしょうか。

そうです。英語のcape「ケープ」も同じ語源です。

さらに、ラテン語cappa「外套」は英語のcap「帽子、キャップ」の語源でもあるのです。それだけでは終わりません。「カプチーノ(cappuccino)」の語源でもあります。


まず、cappaからイタリア語のcappuccio「頭巾」ができあがります。

イタリアでは1525年、聖フランチェスコ会からとある修道会が分かれて創設されます。その修道会は、頭巾のついた茶色の修道服が特徴的なので、cappuccio「頭巾」から「カプチン修道会」と呼ばれました。

後に、カプチン修道会の修道士(イタリア語でcappuccino)の茶色の頭巾に色が似ていることから、エスプレッソに泡状のミルクを加えた飲み物が「カプチーノ」と呼ばれるようになりました。

「礼拝堂」から始まった語源の話が、キリスト教を通じてカプチーノに行きつきました。本当に語源は、探ると面白いです。

(ラテン語さん : ラテン語研究者)