作家の羽休み――「第94回:アニメ『烏は主を選ばない』は雪哉視点だけじゃない?」
3月17日、超体験NHKフェス「烏は主を選ばない」スペシャルトークショーが開催されました。会場には私もこっそりお邪魔させて頂いていたのですが、声優の皆さんがどういったお考えでこの作品に向き合ってくれていたのかが分かってニコニコしてしまった一方、デスゲームの悪役一行みたいなノリの長束一派のビデオレターにはついゲラゲラ声を上げて笑ってしまいました……!
オープニング曲はスリーピースバンドのSaucy Dogさんに『poi』を書き下ろして頂いたことが以前より発表されていましたが、このイベントでは、今まで内緒にされていたエンディングテーマが志方あきこさんの『とこしえ』であることも発表となりました!
2つの曲は、原作を読んだ上で書き下ろして頂いたものでして、あまりに贅沢なお話に未だに現実感がありません。Saucy Dogの皆さん、志方あきこさん、本当にありがとうございます! 『poi』も『とこしえ』もまだ一部分しか聴けていないのですが、そのちょっとだけでもすごくわくわくさせられたので、「早くフルで聴きたいな~!」と非常に楽しみにしております。
会場では第1話部分が上映されましたし、先月の「オール讀物」(2024年3・4月合併号)では声優さん達との座談会で裏話をお話ししているのでとっくにご存じの方もいらっしゃるかと思うのですが、アニメ版『烏は主を選ばない』には、『烏に単は似合わない』の内容もガッツリ組み込まれております。
こんな構成になった次第について――話がめっちゃ長くなって申し訳ないのですが――ちょっとだけ説明をさせて頂ければ幸いです。
八咫烏シリーズ誕生の裏側
もともと八咫烏シリーズは、第1部5巻の『玉依姫』のプロトタイプを、高校時代の私が新人賞に応募したことから始まりました。『玉依姫』に出て来た神の使いで、人間の姿にもなれる八咫烏の一族をスピンオフとしてリベンジしよう、と思い立って、八咫烏の一族が支配する山内のイメージを練り上げていったわけです。
当時は八咫烏の若い長である奈月彦とその近習雪哉を中心に、奈月彦の后選びも描けるのではないか、と構想していました。
后選びを中心とする女性パートを「たおやめの章」、権力争いを描く男性パートを「ますらおの章」と分けるつもりでいたのですが、実際に書こうとしてみると、一作にまとめるには明らかに分量オーバーであることに気付いたのです。
そこで私は、「たおやめの章」と「ますらおの章」を、章ではなくそれぞれを別の長編とする方向に舵を切り、「たおやめの章」は『烏に単は似合わない』に、「ますらおの章」は『烏は主を選ばない』として書くことに決めました。
アニメ化限定帯で現在展開中です!
当然、ひとつの物語をふたつに分けるからには、それぞれが単体で違うテーマを持ち、別の作品として成立する形になっていなければなりません。
同じような時間軸の出来事でも全く違う物語になるよう、あれこれ苦心して2作を書いたわけです。
この苦心が、アニメ化に際しては、逆に足を引っ張ることになりました……。
今明かされる『単』『主』の合体秘話!
企画の段階で、『烏に単は似合わない』と『烏は主を選ばない』を合体させることは決まっていました。
しかし、2つの作品の中で起こる事件は、それぞれの物語を物語として成立させるために計算されています。原作に忠実にしようと思って時間軸の通りに事件を並べると、この計算が破綻して、むしろ物語全体の構成は歪になってしまうのです。
コミカライズの連載の時にも感じたこと(コラム「第5回:『烏に単は似合わない』コミカライズ完結しました!」)ですが、媒体が違えば、その媒体に最適な物語の構造もまた変わります。
小説は読み始めから読み終わりまでを一冊で完結出来ますが、漫画の連載では1話1話で読者さんを惹きつける努力をしなければ、どんでん返しやクライマックスに到達する前に見切りを付けられてしまいます。
この課題は、アニメも同様であったようです。
最初に提案して頂いた構成案は、各話の見所や次回への引きなどがよく考えられていたので、あのまま進めていたとしてもきっと良いアニメ作品になったのだろうと思います。逆に私はそういったことには無頓着で、映像作品の脚本に関しては素人丸出しであったと思うのですが、つい、全体をひとつの物語として考える小説家の感覚で、「どうせ『烏に単は似合わない』と『烏は主を選ばない』を合体させるなら、こういう構成のほうが面白くないですか?」と提案したくなってしまったのです。
大変ありがたいことに、アニメサイドの皆さんはこれにしっかりと耳を傾けて下さいました。
色々と無茶ぶりされた脚本家の方は本当に大変だったと思うのですが、アニメの脚本として使えそうなアイデアは使って頂けることになったのです。
物語の構成やテーマについて話し合った時、京極義昭監督は最も真摯に向き合ってくれたと感じています。それが監督というものなのかもしれませんが、八咫烏シリーズ全体をとても大切に考えて下さっており、意地悪な引っかけ問題のような勘所を鋭く見抜いておられるので、感心を通り越して感動してしまいました!
意見交換をする度、八咫烏シリーズを他でもない京極監督にお任せ出来たことは、一クリエイターとして本当に幸運であったとしみじみ感じます。
アニメと共に既刊も!
――とはいえ、どんなに構成パズルを頑張っても、尺の都合でカットせざるを得なかったシーンはあります!
その上、原作小説からして血縁関係、人間関係が入り組んでいて、何がどうなっているのか非常に分かりにくいのです。アニメが初見の方にとっては、映像によって理解が助けられる部分がある反面、「あれってどういうことだったんだろう?」と復習したくなる部分はどうしても出て来てしまうのではないかと思います。(まあ、これは複雑過ぎる原作が100%悪い)
そういう時は、合体していない形の『烏は主を選ばない』『烏に単は似合わない』が手助けになってくれるはずです!
時系列の移動があるのである意味でパラレルワールドのようなものですが、物語の核となっている部分はいずれも共通しています。これらを見比べる、読み比べることによって、それぞれの良さを見つけてもらえるのではないかと勝手に期待しています。
しかも『烏に単は似合わない』と『烏は主を選ばない』は、(一応『単』が第1巻ということにはなっていますが)どちらから読んでも問題がないように書いたものです。
いきなりアニメの情報からこの辺境コラムに飛んでくる奇特な方は少ないかと思いますが、もし身近に「原作かコミカライズを読んでみようかな~」とおっしゃる方がいたら、是非「気になるほうから読めるよ!」とおすすめして頂けると嬉しいです!
お姫さま達のお后選びバトルに興味を持たれた方は『烏に単は似合わない』から!
ぼんくら少年とうつけの若宮の冒険(?)譚が気になる方は『烏は主を選ばない』から!
この2作は順不同なのですが、以降の小説に進んで頂ける場合、刊行順で読んで頂けると分かりやすいかと思います。
アニメはこれから放送開始ですが、松崎夏未先生によるコミカライズ『烏は主を選ばない』は、まさに今この時、クライマックスを迎えています!! 絶対に後悔はさせないとお約束しますので、まだコミカライズに触れていない方は、是非是非、ご覧頂ければ幸いです!
少しでも皆様に八咫烏シリーズを面白いと思って頂けるよう、引き続き力を尽くして参りますので、今後とも何卒よろしくお願いいたします!
©阿部智里
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc