ストレスを溜め込まない人は何をしているか。心理学者の内藤誼人さんは「人を許してあげられない人ほど、ストレスを感じやすく、メンタルの健康を損ないやすい。いつまでもしつこく頭の中で反芻するのではなく、『起きたことは仕方がないか』とよい意味で『忘れっぽい人間』を目指すといい」という――。(第5回/全8回)

※本稿は、内藤誼人『イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/AntonioGuillem
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AntonioGuillem

■いつまでも根に持つことは「ストレスホルモンを分泌し続けること」

ひどいことをされても、すぐに忘れてしまう人がいます。少しは落ち込むことがあっても、思考の切り替えが早く、「まあ、仕方ないか」とケロリと忘れてしまうのです。

ストレスを感じにくい人になりたいのであれば、よい意味で「忘れっぽい人間」を目指しましょう。いつまでも根に持つのではなく、許してあげるような人間になりたいものです。

アメリカのアイオワ州にあるルーサー・カレッジのローレン・トゥーサンは、「恋人が浮気しているのに気づいた」「半年間、職探しをして結局見つからない」など、96の状況でのストレスの感じやすさと、人を許してあげる気持ちの強さを測定しました。すると、両者には強い関連性があることがわかりました。

人を許してあげられない人ほど、ストレスを感じやすく、メンタルの健康を損ないやすいことがわかったのです。

ひどいことをされたとき、「チクショウ、あの野郎!」などとぶつぶつ文句を言いながら、いつまでも根に持つ人がいますよね。

こういう人は、ストレス反応もなかなかおさまりません。ずっと怒っているのですから、血圧も上昇したまま、心拍数も高いまま、ストレスホルモンもずっと分泌されたままになってしまうのです。

■頭の中で反芻させず水に流してしまおう

たとえひどいことをされても、すぐに気分を切り替えましょう。

「起きたことは仕方がない」
「そんなこともある」
「だれだって、同じような経験をしている」
「今回は運が悪すぎた」

このように頭の中で考えれば、水に流すのもそんなに難しくありません。

いつまでもしつこく頭の中で反芻するのをやめましょう。頭の中で反芻し続けるから、いつまでもストレス反応がつづくのです。

出典=『イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本』

物事に執着するのは、よい場合もありますが、ことメンタルの健康という観点からすると、あまりよいことではありません。

さっぱりしていて、過ぎたことにはあまり執着しない人のほうがストレスを感じずにすみます。

■嫌いな人に対してはすべてが気に入らないと感じてしまう

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という言葉があります。お坊さんが嫌いな人は、お坊さんが着ている袈裟まで憎たらしく見えてしまう、ということです。

私たちは、気に入らない人のことを実際以上に嫌う傾向があります。嫌いな人に対しては、その話し方、食事の仕方、その人のつけている香水、その人の乗っている自動車など、すべてが気に入らなく見えるものです。

けれども、そんなふうに考えていたら、余計にストレスが募ってしまいます。

先ほど、「ひどいことをされても、水に流したほうがいい」というアドバイスをしましたが、嫌いな人のこともできるだけ大目に見てあげるようにするのがポイントです。

アメリカにあるヴァンダービルト大学のアレクサンドラ・ベティスは、9歳から15歳の70名に、家庭内でのストレスを減らす方法を教えました。

お母さんやお父さんに心無いことを言われたとしても、「お母さんは“いつだって”文句ばっかりだ」と考えるのではなく、今日は「“たまたま”虫の居所が悪いだけ」というような考えをしたほうがいいですよ、と子どもたちに教えたのですね。

すると、こういうトレーニングを受けることで、ストレスを大幅に減らせることがわかりました。

考え方をほんのちょっぴり変えるだけでも、ストレスはかなりの程度まで解消できるのです。

■「たまたまおかしな若者と会った」と考えられるか

たとえ嫌いな人であっても、「いつだってあいつは……」と考えるのではなく、「今日はたまたま……」と大目に見てあげるようにすると、そんなに腹も立ちませんし、イライラして自分の血圧を上げるのもバカバカしくなって、水に流せるようになります。

たとえば、若者のことを、あるいは、年配者のことを悪くとらえる人がいます。

たまたまチャラチャラした若者に不愉快な思いをしたとか、たまたま年配者に嫌がらせをされた、ということが原因だと思いますが、一部の若者や年配者を嫌うのではなく、「すべての若者(年配者)が嫌い」という方向に進んでしまうことが少なくありません。

こうなると、あらゆる若者(年配者)との付き合いでストレスを感じることになってしまいます。

そうならないためには、次のように考えるといいですね。

「たまたまおかしな若者と会った」
「たまたま怒りっぽい年配者にイヤなことをされた」

こんなふうに考えれば、ストレスを感じることも減らせるでしょう。

■あらかじめ「断りのセリフ」を考えておく

本当はそんなことをやりたくもないのに、「相手が気を悪くするのではないか」などと考え、うまく断れない人がいます。

人当たりのいい人ほど、断りきれずに悩んでいるのではないかと思います。

写真=iStock.com/paylessimages
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本当はまっすぐ帰宅したいのに、上司や同僚から「飲みに行こう」と誘われると、どうしても断れない。そういう人は、お金と時間をムダにするので、後になって不愉快な気分になるのです。

もしこういう悩みを抱えているのなら、上手な拒絶法をお教えしましょう。

そのやり方とは、あらかじめ拒絶のセリフを考えておき、拒絶する練習を自宅で何回もしておくこと。こうすれば、仮にイヤな誘いを受けても、自動人形のようにそのセリフを口に出せるようになります。

俳優さんや女優さんになったつもりで、暗記したセリフを読み上げるだけなら、だれにでもできるのではないでしょうか。

アメリカにあるアラバマ大学のジョン・ロックマンは、ある学校の小学4年生と5年生に、タバコやアルコール、あるいはドラッグを友だちから勧められたとき、どうやって拒絶するのかを教えました。

たとえば、友人や先輩から「タバコを吸っている人って、クールだよね」と言われたときには、「ちっともカッコよくなんてないよ、ただの依存症じゃないか」とすぐに切り返せるようにトレーニングしたのです。

■「自分なりのセリフ」でストレスフリーに断る

トレーニングは1回40分から60分で、8回のセッションで行われました。

内藤誼人『イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本』(明日香出版社)

そして1年後に、子どもたちがどれくらい非行に走るか、ドラッグに手を出すかなどを測定してみたところ、拒絶のトレーニングを受けた子どもたちほど上手に断ることができ、非行やドラッグに手を染めずにすませられることがわかりました。

うまく断れない人は、断りのセリフをあらかじめ考えておかないのが悪いのです。

「ええと、どうしようかな、NOと言っても大丈夫なのかな……」などとその場その場で判断しようとするから、断れないのです。

自分がイヤなことをさらりと拒絶できる人は、頭の中に拒絶のセリフやシナリオがしっかりと入っていて、ただそれを口に出すだけなのです。

人は、あらかじめ覚えていたセリフなら、うまく言えるものです。

出典=『イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本』

読者のみなさんは、コンビニやスーパーのレジで会計をする際に店員さんから「袋をお付けしますか?」と聞かれて、まごついたりしますか。

たぶん、しませんよね。瞬時に「いえ、けっこうです」と断ることができるのではないかと思います。

なぜうまく断れるのかというと、あらかじめ「袋はいらないので断る」ということが自分の中で決まっているからです。

ですから、「こういうケースでは、こんなふうに断ろう」ということをあらかじめ決めておき、自分なりのセリフを考えておくと、コンビニの袋を断るときと同じくらいストレスを感じずに拒絶することができます。

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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。
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(心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長 内藤 誼人)