「夏への扉」「月は無慈悲な夜の女王」などの作品で知られる作家のロバート・A・ハインラインは、SFというジャンルの質を高めた作家のひとりとして「SF界の長老」とも呼ばれています。作家のケビン・ケリー氏は、ハインラインにファンレターを送った際に返ってきた書面を示し、その独特な回答方法について語っています。

ct2: Heinlein’s Fan Mail Solution

https://kk.org/ct2/heinleins-fan-mail-solution/



ケリー氏はハインラインから実際に送られてきたファンレターの返信として、以下の画像を示しています。



一番上にはハインラインの署名。「Care of Mr.Lurton Blassingame」というのは、ハインラインの著作権代理人を務めたラートン・ブラッシンガム様方宛の手紙である旨が記されています。



本文の一番上には「Dear Sir/Madam/Ms./Miss」とあり、特定の相手ではなく定型文として広く送られていることがわかります。その理由として、「送られてくる手紙が増え続け、あふれんばかりになっているため、私は手紙を書くか小説を書くかの選択を迫られました。しかし、私は送られてくる手紙は一通一通読んでいます」と語っています。



そして、「その上で手紙を読んだ上で、以下のリストから回答を選択して返信します」と序文を締めた上で、ハインラインは21パターンの「ファンレターへの返事」を列挙しています。ケリー氏によると、ハインラインの妻であるジニー・ハインラインが適切な回答にチェックを入れて返信していたそうです。



選択肢は以下の通り。それぞれ、前提となる質問や項目の説明は記載されていませんが、単純に感想を送られた場合のもの、作品の批判を受けたもの、執筆に関するアドバイスを求められたものなど、さまざまな質問を前提にしていることが推測できます。

・優しい言葉をありがとう。あなたのおかげで私の日常は明るくなりました。

・私の物語を何年も楽しんできたとのことですが、どうして、ある物語が嫌いになるまで待ってから私に手紙を書いたのですか?(なぜ好きな時は手紙をくれなかったのに、嫌いになった時に手紙を送ったのか?)

・1948年4月17日にサミュエル・レンショー博士がサタデー・イブニング・ポストに投稿した「You're Not As Smart As You Could Be(あなたはあなたが思ってるほど賢くない)」

「You're Not As Smart As You Could Be」とは、心理学者のレンショー博士が「例えばコーヒーやウイスキーなどのテイスティングにおいて、権威的なテイスターのコメントは非常に重要な意味を持ちますが、人間の感覚はそれほど優れたものではない」と指摘したもの。ハインラインは自身の物語の質を上げる知覚の精度向上に役立った人物としてしばしばレンショー博士の名前を上げています。

・マーク・トウェイン作品集「Harper & Brothers Edition」

・サインをもらうために本を送らないでください。郵便局は往復30マイル(約48km)もかかり、送られた本は私の元に届かないところも多い。

・ストーリーのアイデアはどこからでも、どんなものからでも生まれます。「WRITER'S MARKET」という本には、原稿の書き方や本のマーケットリストが載っています。

・私のエージェントがすべての仕事を処理します。あなたの手紙はエージェントに送られました。

・私は、同僚の作品や自分の作品については論じません。小説家は多角的な視点から書くものであり、たとえ一人称の登場人物であっても、その意見は必ずしも作者のものとは限らない。小説は娯楽として売られるものであり、事実として売られるものではない。

・あなたが欲しいものはここにはありません。レファレンス・ライブラリーにお尋ねください。

・私は本を売っていません。私の本はすべて印刷されたもので、書店や出版社から買ったり注文したりできます。

・毎週4、5件以上の授業課題、タームペーパー、学位論文などのヘルプ依頼があります。あまりの多さに対応しきれず、もう対応しないことに決めました。

・宿題を手伝ってくれる見知らぬ人の意欲や能力によって、生徒の成績が左右されるのは、正常なことではありません。成績については先生や校長、教育委員会に相談しましょう。

・サイエンスフィクションというジャンルは、科学や技術に関わる要素が省かれたら存在しなくなるような物語です。ジャンルに関する完全な議論については、私の「THE SCIENCE FICTION NOVEL」という論説を参照のこと。



・「Who's Who in America 1974-1975」は、作家に関する参考書です。(それを読んだらわかる通り)私は私生活、政治、宗教、哲学については論じません。

・あなたの質問には「はい」「いいえ」「ノーコメント」「出版社からの新作発表」で答えます

・二度と私に手紙を送らないで下さい

・切手を貼って宛名を書いた封筒をありがとうございます。滅多にないご厚意です。

・仕事のプレッシャーから、インタビューやアンケート、ラジオやテレビ出演など、人前で話すことを避けています。

・法的な理由から、未発表の原稿は読みません。

・私たちは一年中毎日とても長い時間働いているので、私たちの家に電話することはやめてください。

・あなたの手紙は大歓迎です。親しみやすさにあふれ、要求はありません。

・返事は期待していないとのことでしたが、あなたの手紙がとても嬉しかったことを伝えたいです。私は、あなたが海を渡り、風を追いかけ、そして人生を通して幸せな航海をすることを祈っています。

最後に「敬具 ロバート・A・ハインラインより」と締められています。

ケリー氏によると、ジニーは1984年ごろまでには「我が家ではコンピューター化が進んだため、ファンレターに返信するのに定型文を使わなくなりました」と述べていたそうです。